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人間活動の集大成ともいえる都市を軸に、そこで生きるひとの生活、文化、精神に思いを馳せる。あるいはただの散歩の記録。
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記事一覧

エディンバラ暮らし|犬にやさしい社会

エディンバラ暮らし|犬にやさしい社会

ある日、ザ・メドーという、その名の通り芝生が広がる大きな公園のそばのカフェで、紅茶とスコーンのクリームティーを決め込んでいたときのこと。隣の席に老紳士と耳の垂れたおしゃれな犬がやってきた。

どう見ても介助犬ではないし、ここはドッグカフェというわけでもない。

静かにびっくり仰天していると、ひとりと一匹はあまりにも慣れた感じで、片方は新聞を広げ、片方はテーブルの下に身を伏せた。老紳士は私と同じセッ

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エディンバラ暮らし|チャリティショップのある街

エディンバラ暮らし|チャリティショップのある街

ある日、チャリティショップに救われる

夏の終わり、日本への帰国を控え、私は困っていた。持ち帰る予定の荷物がスーツケースに入りきらない。冬までの滞在予定を大幅に短縮したというのに、たった数ヶ月でいつの間に物が増えたのか?
(いやあなた、そりゃそうでしょうよ。という記事はこちら)

元々、帰国するときには処分する予定で持ってきた服や生活用品がある。別送品として日本に送るにも、手間とコストの割に合わな

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エディンバラ暮らし|家とお金と、あるイギリス人の庭

エディンバラ暮らし|家とお金と、あるイギリス人の庭

20代のフラットメイトや60代の夫婦と一緒に過ごして考えた豊かさの話。

フラットを追い出される

「この家、8月末に退去しなきゃいけなくなった」
7月のある日、イギリス人のフラットメイトが慌てていた。

「え?なんで?」

「元々3人で借りてたんだけど、オーナーとメインで契約を結んでた子がロンドンの家族と暮らすということで、出ていくことになったのね。そしたら残りの私たちも出ていきなさいって」

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エディンバラ暮らし|モーニングサイド街歩き

エディンバラ暮らし|モーニングサイド街歩き

エディンバラのMorningsideは初めて見たときから「ここで暮らしたい」と思うような場所だった。

中心駅から南にバスで20分、徒歩で40分。
オールドタウンの喧騒を抜け、背の高い家々から成るMarchmontを超えた先にある優しいベージュ色の街。

いくつかのスーパーとたくさんのカフェ、ギャラリー、パブ、雑貨屋が軒を連ねる向こうにはふかふかした山脈。

住宅街に入るととんがり屋根と六角形の角

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エディンバラ暮らし|社会に緩く包摂される

エディンバラ暮らし|社会に緩く包摂される

ロンドンとエディンバラでの優しいできごと、
そこから考える幸せのヒントについて。

「それあげるよ」といただいた桃

5月某日、ロンドンにて。Hammersmith辺りの通りはたくさんの露店で賑わっていた。

「あ、フラットピーチがある」

美味しいと噂のこの果物を一つだけレジに持っていくと、店員さんが半笑いで
「それ、まとめ売りのやつなんよ…まあいいや、もっていきなはれ」

「え、ごめんなさい!

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熊本散歩|城が生き続ける街

熊本散歩|城が生き続ける街

ひさしぶりに故郷の繁華街にやってきた。
通町筋から路面電車の線路が延びる先にそびえる熊本城。しっかりと見上げた先にお城があるから、自分が立つ場所がいまも昔も城下町であることを認識する。

私もそうだけど熊本市の人は生まれたときからこの城が生活圏にあることが当たり前、当たり前どころか城を中心に展開された文化の中で生きている。
意識せずとも各々の精神性・心のありようが形成されるなかで、多かれ少なかれ、

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熊本散歩|水と光に触れる道

熊本散歩|水と光に触れる道

熊本は火の国といわれてるけど、水の国とも呼ぶらしい。

環境省が選ぶ名水百選のうち、県としては最多となる4つの名水(※)を擁し、たしかに水に恵まれた地域だ。

※白川水源、菊池水源、轟水源、池山水源

有名なところは車で行くような山のほうに集中しているが、市街地にも涼やかな水を楽しめる場所はある。

私が好きなのは上江津湖(かみえずこ)。

ガイドブックでよく紹介されている水前寺公園の近く、県立図

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堺を考える|プチ・ブルジョワジーが生きる自由と自立の街としての可能性

堺を考える|プチ・ブルジョワジーが生きる自由と自立の街としての可能性

大阪府堺市。府で2番目の規模を誇る政令指定都市としての顔を持ちつつ、その実際は商工業の要地としての長い歴史と多様な文化がさりげなく息づく「静かな活気に満ちた街」、という印象。九州生まれの私が結婚を機に暮らし始めて3年、この街に感じた魅力を綴る試みです。

堺はプチ・ブルジョワジーの街?

いきなり話が逸れるが、ブレイディ・みかこさんの本に、こんなことが書いてあった。

注目したのは、『プチ・ブルジ

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