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【論文読了】顧客体験と最近のマーケティング

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの2022年7月号は顧客体験を変えるという特集でした。最近のマーケティング事情が載っています。

昔ブランド戦略をやってる会社にいたときはよくマーケティングの本を読んだものですが、その会社を辞めて以降、あまり読まなくなりました。

マーケティングは進歩が速いですね。ITの影響を受けているのもありますし、世の中もどんどん変化していますから。

それでは振り返ってみましょう。

顧客とともに顧客のなりたい自分を実現する

大事なことは製品やサービスを売ることではなく、顧客の目標達成を助けることです。こうなるとカスタマージャーニーが必要になってきますね。

顧客の目標達成という点では、ダイエットならコーチとの1対1のミーティングの頻度が高いほど、体重が減るという調査結果があるそうです。

よくよく考えてみると、ダイエットのためにフィットネスクラブに入会しても、続くかどうかは難しいですよね。何事も気合を入れて入会したとか高い道具を買ってみたけど、続かなかったということは起こりがちです。

だから続けられるよう支える人が必要なのですね。

また片付けるべきジョブという、以前に故クリステンセン教授の論文に出てきた言葉が今月号で出てきました。こちらですね。

片付けるべきジョブには、機能的、情緒的、社会的、願望的という4ステップがあります。そして顧客の成功のためにはリソース(お金や時間)、顧客の準備状態、コンテクストという障壁があるので、一緒に乗り越えてあげる必要があります。

売るだけ売って売りっぱなしではなく、顧客と一緒に歩むというのはいいですね。私はこういうやり方が好きです。

顧客体験はAIの力で進化する

パーソナライゼーションの売上効果は大きいそうです。昨今はネットでも携帯へのお知らせでも、色々な広告が出てきますよね。ネットの広告は閲覧履歴ですが、携帯へのお知らせは何を基準にしているのか知りません。

AIの力で進化するというタイトルの論文ですが、やっていることは従来通りデータ収集とデータ分析ですね。最近はアプリでカスタマージャーニーを把握する方法も広まってきているでしょう。スーパーの店内で棚の位置に応じた宣伝をすることも行われていますし。

この論文では部門横断型アジャイルチームで、迅速な実験と学習をしろと言っています。

個人の識別はアプリや会員カード(これもアプリ化が進んでいますね)、個人の行動履歴などはアプリやネットの履歴などから把握できますね。広くデータを収集して、チャンネル横断で顧客の行動を把握しつつ、こちらからプッシュします。

これをアジャイルで実験と学習を繰り返すことで、効果の高いパーソナライゼーションを行っていきます。

D2Cブランドが成長し続けるための4つの原則

メーカーのD2Cを見かけるようになりましたね。日本ではどっちかというとSPAが強いかな。新興ブランドだと実績がないのに店頭に置いてもらうのは難しいので、D2Cを選択しているケースがあるかもしれません。

D2Cを始めるに当たって気になった点をピックアップしてみます。

  • 若い消費者はベビーブーマーと比べて、有名人よりインフルエンサーの影響を受ける。

  • D2Cでは実物を見ることができないので、返品対応など対策を行う。

  • D2Cブランドが規模を拡大すると、実物を見て検討したい人への対応も検討する必要が出てくる。

  • D2CではLTV(顧客生涯価値)と、CAC(顧客獲得コスト)に対するLTVの余裕が主要な基準である。

  • 販売前後のサービスも考慮する。

  • 〇〇が売れそうという予想の前に顧客の声を集める。

D2Cを新興ブランドが始める際に、既存ブランドとの差別化に走らない方がいいそうです。特にありがちなのが、既存メーカーが直販を始めていて、既存メーカーに対して価格(安さ)で差別化するという戦略です。

これでは資金力で勝る既存メーカーの方が有利です。よって目指すべきは安価な代替品ではなく、独自の価値となります。しっかり価値を付けて、高めの価格で売りましょう。

順調に軌道に乗ったら、チャネル拡大をして売上を拡大しようと考えるときも来るでしょう。

このときは既存の小売店で売るかどうかに慎重になった方がいいそうです。なぜなら一般的な小売店では、棚の位置とか並べる量は、実績も資金力もある既存の大手企業の方が有利だからです。

振り返ってみると、新興ブランドを作るなら、D2Cだろうが何だろうが、安さではなく独自の価値で差別化するのは基本ですね。一方でLTVやCACを重視するというように、管理会計の基準を考える必要があります。

資金力で勝る既存企業に対して、不利にならないチャネル選択や戦略を考える必要がありますね。

日本企業のビジネスモデルを顧客起点に転換する方法

コロナ禍で収入が減った人が多く、それゆえPB(プライベートブランド)の購入が増加したそうです。そしてPBを選んだ人のうち、継続購入したい人は96%にもなるそうです。

私も色々な会社のPB商品を買っています。特にこだわりがない商品はPBで十分かなと思いますし、コンビニのPBによくある100円のお菓子は好きです。

コロナ禍で増えたと言えばUber Eatsのような宅配サービスです。こちらは80%の人が継続利用したいそうです。すごく需要が高いですね。配達料金を払ってでも、出かける手間を削減するメリットの方が大きいと感じている人が多いわけです。

こういう新たな変化が起きており、それに対応できた企業は時価総額を大きく伸ばしているというのがこの論文です。

もう一つ重要なこととして、OMO(Online Merges With Offline)戦略があります。ネットをリアルと融合する戦略です。例えば下記のようなことが該当します。

  • ネットで購入して実店舗で受け取る。

  • ネット上のユーザーの投稿が、使用例として店頭のディスプレイに表示される。

本文には書かれていませんが、ネットで予約して実店舗に行くのも該当するのかなと思いました。

いずれにせよ、OMO戦略はデザインの考え方を応用すれば色々なことができそうですね。この辺はデザイナーの力が大きく役立ちそうに感じます。

ネット・プロモーター3.0

ネット・プロモーター・スコアという、顧客に10点満点で評価を付けてもらうなどの方法を聞いたことがあるかもしれません。

ネット・プロモーター・システムは企業の財務制度では対処しきれない重要課題を解決するために支持されてきました。なにせ顧客に点数を付けてもらうわけです。企業目線ではなく顧客目線なのですね。

しかしスコアや質問の設定の仕方次第という問題もあります。また従業員が顧客サービスの改善よりも、自分のスコアを上げることに躍起になってしまうという問題もありました。

当然ながら顧客からの点数が良い方が評価も高くなるからです。それで10点を付けてくださいとお願いしてしまうケースもあったそうです。だったらサービスをよくして、いい点を付けたいと思わせた方がいいでしょうに。

そこで成長重視でプロモーター獲得成長という指標を使うといいそうです。

スコアが高い顧客すなわち満足度が高い顧客ほど、リピートや友人・知人への紹介を行います。よってプロモーター獲得成長ではリピート顧客とその紹介による売上成長を評価します。

これで満足度の高い顧客によってどれだけ売上が増えたのかを測ることができます。計算式は下記のようになります。単位は%です。

NRR + ENC - 100

NRRはNet Revenue Retentionです。会員制サービスなどサブスクリプション型サービスの売上継続率です。

ENCはEearned New Customersです。新規顧客獲得率です。

既存顧客が契約を継続したことによる今期の売上が、前期の80%だとしましょう。20%は解約されてしまったという計算です。そして新規顧客を獲得して前期の40%も売上が増えたとしましょう。

この場合のプロモーター獲得成長率は80%+40%-100%=20%となります。

このように継続と新規獲得を合わせてどれだけ売上が伸びたかを測るということです。お願いだからいい点数を付けてでは増えない指標ですね。

理想のレゴ体験は子供を育み、ビジネスにも成長をもたらす

伝統が長く定着したブランドでも、進化と新商品が必要なんだと感じました。伝統が長いブランドでもリブランディングはしますし(中川政七商店など)、時代に合わせてブランドを成長させていくという考えは、ブランディングにおいて重要ですから。

そういう意味では最近のレゴはなんとジャイロセンサーが入っているそうです。すごいですね。

レゴは難易度が色々あって、遊びながら腕を上げていくものだそうです。そして経験を積んだら、アレンジを加えたり、自分独自の作品を作ったりして楽しむものだそうです。ブロックだからこそできることですね。

こういう経験とともに遊び方も上達していくことをレゴジャーニーと定義して、重要視しているそうです。自社の製品において、顧客の利用シーンで重要なことを捉えるというのは大事なことですね。

またレゴや特に学習塾がそうなのですが、子供向けの製品やサービスは、利用者とお金の出してが違います。そして子供のおもちゃは3~4歳までは親が与えるそうですが、5歳以上になると子供自身が自分が欲しいものを選ぶようになるそうです。

思い返すと私も幼稚園の頃にピアノが欲しいと言ったことはあるけど、おもちゃ屋で自分が欲しいおもちゃを選んだのは小学校に上がったくらいだったと思います。主にプラモデルとかボードゲーム、ぬいぐるみだったと記憶しています。

この辺りも意識したマーケティングがいいのですね。レゴでは親がレゴで遊んでいたかどうかは影響が大きいそうです。親がレゴで遊んだ経験がある場合、子供と一緒にレゴで遊ぶのだそうです。

子供向けでは親と子供を分けて考えたり、一緒にやる場合を考えたりといったことが必要ですね。大人向けと違う観点です。

終わりに

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューでは1~2年に1回くらいはマーケティングの特集があります。

ここ数年で感じているのは、データサイエンスの活用が増えているということです。同時にアジャイルによる実験と学習も増えていますね。

現実的にはそこまでできている会社ばかりじゃないでしょうけど、こういう方法論があるんだということはしっかりと知っておきたいです。知っていれば自分でも使えますし、顧客にも提案できますから。

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