マガジンのカバー画像

小説 / 詩

13
若輩ながら創作した小説や物語、詩などをまとめています。
運営しているクリエイター

記事一覧

【詩】今日が終わるまで

【詩】今日が終わるまで

 とりあえず今日、今日が終わるまで走り切る。

 解決しえぬ問題も、誰にも漏らせぬ不条理も、寝床まで抱えて、今日という時の中に閉じ込めてしまおう。

 明日には、いくつか削げ落ちて、気にならなくなるだろう。

 苦難の様々を抱え過ぎ、心が焦げつくその前に、とりあえず今日を走り切ろう。

 そのうち気づかぬ日の中で、いつかの悩みは消え失せて、同じものは二つとなく、心は色合い変えてゆく。

 だから、

もっとみる
【詩】好きなひと

【詩】好きなひと

好きなひとが、出来てしまった。
毎日、快晴の下を軽やかに。浮き立つ想いを追いかけて、今日という日が愛おしい。この高揚は、誰のため。

好きなひとが、出来てしまった。
毎日、灰色雲に戸惑い歩く。笑みもなさげに眼が泳ぐ。今日という日も気が知れず。淀んだ苦味は、誰のため。

好きなひとが、出来てしまった。
毎日、さめざめしき雨を踏み。追えた者すらもう見えず。今日という日が永遠のよう。この想いは、我のもの

もっとみる
note短編小説|感動のラスト

note短編小説|感動のラスト

 「あの子がなして死んでしもうたんか、よう分からんのですが、自殺とか薬じゃないと思うんです。いまも信じられんです。あんな優しい子……」

 子を失った母親が涙を堪え、声を震わせるインタビュー映像がスクランブル交差点のモニターに映る。しかしそれを見上げ、彼女の涙から悲しみを共有する者はいない。誰も注目しないのではなく、その場に人間が存在しないのだ。

 晴天の下、渋谷のど真ん中を闊歩する人々の姿はな

もっとみる
【怪奇中編小説】『見るな』最終章

【怪奇中編小説】『見るな』最終章

 菜月との初めてのデートは、思わぬ形で成功した。

 職場だけではない菜月の新たな一面を知れたことで、春子は彼女とのこれから先の仕事にも期待と喜びを膨らませ、同じく菜月もそう感じてくれていれば良いなと切に願った。

 香椎駅に着いたのは二十時を少し回ったころだった。思えば自分が仕事終わりに乗るいつもの便であった。気分上々の軽い足取りでいつもの帰路を進む春子。

 歩き始めてしばらくするとLINEの

もっとみる
【怪奇中編小説】『見るな』第三章【全四章】

【怪奇中編小説】『見るな』第三章【全四章】

 二人はランチを駅ビル最上階のレストランエリアで済ませた。

 菜月の相談はといえば、春子からすれば大したことではなく、どの新人にもよくある業務上のあれがまだ不安だとか、あの人のここが苦手でどう接すればいいかとか、そういった類のものだった。

 恋愛の話、学生時代の話、趣味の話など話題は尽きなかったが、菜月の悩みの根本は寂しさなのだと、会話をしながら春子は察した。

 学生期間を終え、運悪く就職活

もっとみる
【怪奇中編小説】『見るな』第二章【全四章】

【怪奇中編小説】『見るな』第二章【全四章】

 耳につく甲高いビープ音が店内に響く。

 「あ、大変申し訳ありません!少々お待ちください!」と春子は会計中の客へ詫びを入れ、iPadのレジアプリの会計方法を交通系ICカードへと選択し直す。客は交通系ICカードで会計するつもりだったが、春子はそれを「かしこまりました」と笑顔で快く了承し、クレジットカードの会計モードを選択していたために起きた細やかなアクシデントだったが、完全に無意識の所作であったこ

もっとみる
【怪奇中編小説】『見るな』第一章【全四章】

【怪奇中編小説】『見るな』第一章【全四章】

【あらすじ】
 毎日の変化なき日常に安心を抱いている春子。ある夜の帰宅中、ぼんやりと眺めていた邸宅の二階の一室だけに灯りが灯っているのに目が留まるが、その瞬間、春子の視線に気づいたかのように部屋の灯りが消え、奇妙な感覚に捕らわれる。それは春子の変化なき日常を大きく変えることになる始まりに過ぎなかった。

 毎日、同じ時間に起き、同じ時間の電車に乗り、同じ時間に出社する。

 土日祝が連なる大型連休

もっとみる
note短編小説|希望の想い

note短編小説|希望の想い

 息継ぎのたび歓声が舞い込んでは、捻った身体を再び水流が覆い、静寂が訪れる。それを何度も繰り返し、水希(みずき)はプールサイドへと疾走する。

 幼少から水泳界で神童とされ、周囲の期待に臆せずに連勝を重ねてきた彼女の最後の高校総体。

 水面から顔を上げる。歓声は消え、ゴーグルもスイムキャップもない。水着もなくブラとショーツでだけである。
 プールの青い水底はなく、暗黒が広がる。ここは樹海にぽっか

もっとみる
note短編小説|サヨナラ、老害先輩。

note短編小説|サヨナラ、老害先輩。

Takei.K
やっと辞めたな、ハシヤ

ナカジマ.S
最高!あの老害とこれ以上いたら、刺してた

野中タカコ
刺すw
でもセクハラで潰そうと思ってた

ナカジマシンジ
セクハラ案件リアル過ぎw

O.Tadao
 二次会行かずに正解でしたね

 延々とハシヤへの罵倒は続く。

 ここは同年代社員が集い、会社や上司の愚痴をばら

もっとみる
note短編小説|棺桶からのニュース速報

note短編小説|棺桶からのニュース速報

 「佐竹、開けろ!警察だ!」怒号が飛ぶ。

 文京区は本駒込(ほんこまごめ)の寂れたアパートの2階、角部屋の玄関前に背広を着た男たち四人が詰めている。近隣住民も物々しさから朝の散歩を中断したり、家の窓から覗いたりと様子を窺う。

 「坂井、気持ちは分かるがガナり過ぎだ。朝の九時過ぎだ」
 「すみません、けど警官やられてますし……」
 「そらぁ分かっとるが」年長の若杉が坂井をなだめる。

 一週間前

もっとみる
note短編小説|カメレオンの最期:後編

note短編小説|カメレオンの最期:後編

この記事は『カメレオンの最期』という短編小説の後編です。
前編はこちらから。

note短編小説|カメレオンの最期:前編
https://note.com/da_bun_takebtz/n/nb363b222e1f2

では、続きをお楽しみください。

【第三章】終末旅行

 志賀島の海岸と空を見つめながら、止むことがない風に打たれるアヤカ。いよいよこの世界の終わりが近づいてきたことを、まざまざと

もっとみる
note短編小説|カメレオンの最期:前編

note短編小説|カメレオンの最期:前編

 「あらかたの混乱は終えただろう」アヤカはそう感じていたが、しかし自分の心と頭の混乱は、いま始まったばかりでそれをなんとか収めるため、この人気(ひとけ)のない志賀島の海岸で一服をしようと決め込んだ。

 人生で初めての大罪を犯した直後、人はどんな気分になるのかなんて考えもしなかった。「きっと良い気はしないだろう」という漠然とした想像がほのかにあったが、それ以上に自由への渇望のほうが勝ってしまい、そ

もっとみる
note短編小説|靄(もや)がかった者

note短編小説|靄(もや)がかった者

 そこには何もなかった。

 教会や学校、食堂といった数々の建築物や家々のほんの一部だけが僅かに取り残され、かつてそこに存在していた人々の営みの残り香だけが、鼻を突く焼け焦げたすすの匂いを纏って立ち上がり、それ以上の意味を成していなかった。

 建築物だけではない。過去の世界で生きていた“何者か”だったモノの残骸が散り散りに点在して微動だにしない。ある者は俯いたり縮こまって身をすぼめ、またある者は

もっとみる