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◇ 夏の片道切符

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今年の夏の記録。 散文詩、自由詩。
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透明な青。

夏の中でしか、心が生きていけなかった。

ーーこの音が聞こえると、あっという間に時間が巻き戻る。

真夏の光を遮る衛生的な青いタイル。
冷たさの残る床に膝を抱えて、光の軌跡を目が捉えていた。
振り向いた影のシルエット。逆光。
あなたは夏の被写体。
ぼんやりしたまま光は途切れずに、
そしてアンニュイは続く。

焼け爛れてしまったら。
あの夏のスワッグ。
渇いた体で目が覚める、明け方の静けさ。

無邪

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「夏がいくね」
すれ違いざま、誰かに囁かれた気がした。

あれやこれやと思案して、計画まで立てようが、
結局なにひとつ片付かないことこそが夏だった気がする。
ここに無いものにばかり想いを馳せるのが季節。
過ぎ去ってから、その中を遊泳していたことを知る。

紫陽花の葬送

紫陽花の葬送



「あの花は、去年の初夏に死んでしまったのよ。

心を連れ去ったまま、

永遠に届かない初夏のゆめに溶けてしまった。

枯れてまた新しい夢が開くのをあなたは気づかないふりをして、

足元の影はまた色濃くなる。

脆弱な心が夏の陽射しに焼け爛れないように
浅い呼吸をくりかえすたび。

忘れてしまうことに罪悪感を抱く生き物。
どこまでいっても誰かの為になんか生きれない。

水平線と夏が混

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次へ。

次へ。

今日は少し涼しかった。

〝明日は台風なんですってね〟
半年通っている整骨院で、今日初めて担当してくれた先生が言っていた。

〝声はいつも聞こえていたけど、こうして顔を合わせるのははじめてですね〟

パーテーション越しに一度だけ話したことがあった。なるほど、だから緊張しなかったのか。
声から受ける他人の印象は不思議だ。
人と話すのはとても緊張する。
上手く息が吸えなくなるし、なんだか声が出しにくく

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水彩

水彩

今日は朝からずっと涼しい。
遠回りして帰る道、音楽ひとつで様変わりする景色と気持ちと一緒に。
夏が終わってしまいそう。

幸せな時に聴いていた音楽よりも、
そうではなかった時に繰り返し聴いていた音楽の方が、随分と長い時間私を支えて形成してくれたように感じる。

誰かから頂く幸せは消耗品みたい。
寄り添う音楽は一瞬で変化する。
景色が美しかったとか、カフェラテが美味しかったとか、もらった気持ちが嬉し

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hate.

hate.

感情が乱れている毎日。
今年の夏はなんだか遣る瀬ない気持ちばかりであまり楽しくない。
いきたい場所に行って見たい景色をみたいと、
色々な感情を夏に昇華させたいと思っていたけど。
日常をこなすので精一杯になって、
やらなくちゃいけないことをやるだけで毎日が過ぎていく。

音楽を聴いて思いを馳せるだけ。
波の音 砂の感触
ここに無いものばかりに心を寄せて、
またあした、またあしたと言い訳を更新してい

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paper castle.

paper castle.

真夜中の真っ白なマンションと華奢な外階段を照らす衛生的なオレンジのライト

鮮明な光が輪郭を飛ばして、
まるでペーパークラフトのお城みたいだ。

心が止まってしまうと物事は奥行きを見失い、
平面的になる。
晴天を流れる入道雲も、味覚も水槽も、
あなたへの思いも。

疲れてしまったら、その次はどうしたらいい?

生活を謳歌する木漏れ日と小休止に憧れる。
平凡なはずなのにこんなにも日常から乖離してい

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痣のような青と、夏夜。

痣のような青と、夏夜。

底を這うように流れる熱帯夜
ガラスに映る針の月
空っぽの駐車場と首都高のテールランプ

夏ですもの。
愚行だらけ。
一年で一番、頭がわるくなる季節だから

永遠のさようならには程遠く私はまだ刹那の生き物。

クーラーのきいた部屋で亡霊狩り。
真夜中の繁華街で大号泣。
あなたの毎日は忙しない。

赤信号が青へ変わる。
酷暑を過ぎたら融解しよう。
かき氷とプールは嫌い。
だからどうしても、真夜中の

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7月。

7月。

あっという間に梅雨が明けて、
余韻に浸る間も無く夏がやってきた。

心が青色に染まってから、何度目の夏だろう。
すぐ隣にある大切な私の心象世界には、
どこまでも純度の高い夏の青がまざっている。

一年中音楽は大好き。
言葉は大好き。

それでも夏に心が残ってしまうのは、
縁取る音楽や言葉がいくつもあるからかもしれない。

◆◆◆◆

7月頭のこと。
一年ぶりに会った友人と、
朝から夜まで下北沢でお

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零れる日々の色。

零れる日々の色。

日々感情に振り回されている。

心の中身が誰からも見えなくてよかったなって、
私はたまに安堵する。

表面的に変化がなかったとしても、
抱えきれないくらい振り切れてしまう日もあるし
とてもじゃないけど神様にも君にも知られたくないようなぐちゃぐちゃな色が停滞している日もある。

考えることをやめてしまったら、人間の美徳が無くなってしまうかな。
ただ息をして、夜を待つだけなんて。

自分以外の何にもな

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view

view

夜の音に耳を澄ませて、湿った水溜りの絨毯を歩く。

通りすがる人の靴音や、
車輪が水をはじくつぶさな音、

遠くの踏切の警告音や、近くを風が過ぎる音。

雨が降る静かな夜には心地いい音が溢れている。

トタンに落ちる雨粒、湿った看板の絵。

雨に濡れた花の香りのように
身体中 すべての器官へ循環する愛や優しさ

雨の夜は穏やかで、いつも傍にあるものが特別よく見える気がする。

足りない物を数えるに

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梅雨の長雨

梅雨の長雨

春の化身さん。
あなたは今どこにいますか。

関東が梅雨入りして、もうすぐ1週間。
気温が急に下がった今日は朝からずっと雨が降っていました。

日曜日の居住区はひっそりとしていて
誰もいない建設途中のビルはまるで
誰かがやりかけたままの積み木遊びのようです。

君は雨が好きですか。

こんな風に全てが灰色をした水彩画のような町を
傘の中から見つめる時
その雨の音や気配に 私は酷く安

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