記事一覧
#11 「 いつも、どこかで 」
平日の昼間だからか、改札口を通ったのは僕ひとりだけだ。
駅前ロータリーの中央にある噴水は、壊れているのか節約のためか水が止まっていて、干上がったタイルの上で数羽の鳩が気持ち良さそうに日向ぼっこをしている。
彼らを驚かさないようにそうっと噴水の縁に座って、ジーンズの後ろポケットから地図を引っ張り出した。
無造作に折りたんだから、地図には縦横斜めに不規則な皺が寄っている。
不動産屋のホームページで数枚
#32 「 ピーちゃんお空に行ったよ(備忘録として) 」
今朝、4時8分に娘からメッセージが届いていた。
夜勤から帰宅した7時過ぎ、相方に「メッセージ見た?」と訊かれてから知った。
スマートフォンの通知を見てなかった。
でも、それで良かったのかもしれない。
現場で聞くよりも。
天気予報よりもずいぶんと遅いタイミングで冷たい雨が降りはじめた。
15年前に大阪から東京に転勤してきた。
現場畑から新規開拓の営業に配置換えされたぼくは、知らない土地で仕事に追わ
#28 「 ぼくの生まれ育った町 」
六月の初旬、四年ぶりに帰省した。
梅雨の走りで、雨が降ったかと思うと青空が顔を出す。そんな空とにらっめっこをしながらぷらぷらと歩く。
二十五歳でこの町をはなれてから、もう三十年以上経つのだなあ・・・なんて、しみじみしたとかしなかったとか。
まちはいきもの。伸びたり縮んだり、ふくらんだりしぼんだり。
次は、もう少しゆっくりしたいな。
お袋が持たせてくれた弁当を空港で食べながら、そう思ったん
#25 「 春に... 」
相変らず 他愛もない 嘘や本当の中で
永遠に 続きそうな今を 滑るように 歩いてる
大好きとか 大嫌いを 飽きもせず繰り返し
幾つもの 後悔を抱いて また一人 花を見る
青すぎる空に 戸惑っては
閉ざした窓で 切り取って 迷いながら
誰も約束してくれない 地図を片手に
夜にもたれかかって 朝を迎える
小さく吐くから ため息で
深く吸い込めば 深呼吸なのにね
上手くいかないことばかりだよ
君は
#23 「 We hope... 」
なんでこんなことするの?
テレビの画面を見て君は訊く
それぞれに正義があるんだよ
僕はリモコンで煩わしい音声をミュートした
話し合えばいいのに
画面を凝視したままの君が独り言のように呟く
もう、長いこと対話してきてるはずなんだけどね
できるだけ感情を交えないように答えた
分かりあえない?
そうかもね
自分が良ければそれでいいの?
そうかもね
それでいいの?
いいと思う人もいれば、そうじゃないという
#22 「 no name 」
あなたがこの部屋に持ち込んだ、
愛や約束が腐っていくよ。
シーツの上でだけ、並べて、弄ぶから、
嘘にも本当にもなれずに。
だから言ったのに、
そんなものいらないって。
嘘。
そう、噓つきはわたし。
無音のテレビがカーテンに映す、
わたしとあなたの影を、
わたしが勝手にそう呼んだだけ。
初めから無いものを、
そう呼んだのは、わたし。
< 了 >
#20 「 Good Morning 」
からだのラインがはっきりとなぞれる赤いニットのワンピースを着たその女は、朝の通勤ラッシュの車内でわかりやすく場違いだった。
甘いアルコールの匂いと安っぽくて粉っぽい化粧の匂いを振りまきながら、力なく吊革にぶら下がってメトロの揺れにからだを預けている。
横に並んで立っていた中年のサラリーマンが、スマホの画面からチラリと目線を移し、女のどこかの何かを確認して小さく頷く。
俺は女の後ろで、空調の風に煽ら