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「泣いたらいいよ」と言われたくないあなたへ   ―紫原明子さん「大人だって、泣いたらいいよ 」のすすめ

「泣いたらいいよ」と言われたくないあなたへ ―紫原明子さん「大人だって、泣いたらいいよ 」のすすめ

「泣いたらいいよ」と言われたら、「いや別に泣かないし」と反射的に身構える。そんなあなたに、この本を届けたい。

私はこれまで、「つらいときは泣いてもいいんだよ」などというセリフに、細心の注意を払いながら生きてきた。そこでうっかり涙の一粒でもこぼして、「少しはスッキリした?」などと得意げに言われようものなら、悔しくて夜も眠れない。
だって、泣くくらいで、スッキリするわけないじゃないか。目から水分がこ

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一人の参加者から見た「東京の生活史」プロジェクトの凄み

一人の参加者から見た「東京の生活史」プロジェクトの凄み

一人一人の人間に、生まれた場所があって、生きてきた時間があって、かなしみやたのしみがある。そういう当たり前のことを、私たちはいつも簡単に忘れてしまう。

先日紀伊國屋じんぶん大賞を受賞した「東京の生活史」。今をときめく岸政彦さんが指揮をとって、150人の聞き手が、150人の語り手に聞き取りをした、壮大な一冊だ。

去年の6月、その聞き手を公募すると知って、胸を高鳴らせたことをよく覚えている。それか

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書籍 「インターネットの外側で拾いあつめた言葉たち」 の販売を開始しました

書籍 「インターネットの外側で拾いあつめた言葉たち」 の販売を開始しました

編集長をつとめた本が、予約開始になりました!
「2000年から2020年まで、どんな人生を送ってきましたか?」というインタビューが詰まった一冊です。

落ち着かない日々が続きますが、確かに歩んできたこれまでの時間を、共に振り返ってみませんか。

私の書かせてもらった序章を公開しています!こんな目的で制作した本です。

「もぐら本2」の序章を公開〜この1年で失われた言葉を取り戻す試み〜

インターネ

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2021.5.2  東京か、神奈川か、それが問題だ

2021.5.2 東京か、神奈川か、それが問題だ

GWに映画館もショッピングモールも休業ってマジですか…と覚悟していたんですが、20時過ぎても普通にオープンしています。いちいち驚いてしまう。そして思い出す。私が住んでいるのは東京じゃない、神奈川だったんだと。

不思議ですよね。普段、あっちは東京だとか、こっちは神奈川だとか、いちいち意識することなんてめったにないのに。いまごろ武蔵小杉とか川崎とか、あるいは舞浜とか浦安とかには、都民が移動したりして

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一人ひとりの「合理性」を理解する――「地元を生きる 沖縄的共同性の社会学」を読む

一人ひとりの「合理性」を理解する――「地元を生きる 沖縄的共同性の社会学」を読む

待望の本が出たぞと手に取ったはいいけれど、予想以上に分厚くて重たくて、今はちょっと…と本棚に押し込んだ。

週末、改めて手に取って、ページをめくってみる。第一章で数字やグラフが並んでいるのを素通りし、さらに進むと、打越正行さんの著書「ヤンキーと地元」に登場した名前をいくつも発見した。

それは、30代になっても、地元の建設会社で働き、何人もの先輩に深夜呼び出され、送迎をさせられる毎日を送る男性の生

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いじわるな子は嫌いなままでいいのかも ――「となりのせきのますだくん」を読む

いじわるな子は嫌いなままでいいのかも ――「となりのせきのますだくん」を読む

もし、自分の子供が小学校に入って、「となりのせきのますだくんがいじわるしてくるの」と言ったら。私はなんて答えるんだろうか。

そのくらい放っておけばいいのよ? 先生に相談してみたら? 無視すればいいじゃない? 仕返ししちゃえ?

数十年ぶりに「となりのせきのますだくん」の表紙を見た。強烈な懐かしさを覚えるとともに、どういうストーリーだっけ、と頭をひねった。

とにかく、ますだくんがいじわるだとい

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歴史とか戦争とかいうワードが面倒くさい感じになっているけど、戦争関連の本を紹介します

歴史とか戦争とかいうワードが面倒くさい感じになっているけど、戦争関連の本を紹介します

最近どうも、歴史とか戦争とかいうワードそのものが、面倒くさい感じになりつつあります。
SNSで攻撃的なコメントを見かけるたびに「とりあえず口にしない方が良さそう」と思うのは、当然のことかもしれません。歴史好きとしては、とても悲しいですが。

私たちと同じたくさんの人間が過去をどう生きたのか、そこに私たちは何を感じるのか、そう感じるのはなぜなのか。これまで、そんなことを考えながら、歴史に触れることを

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レティシア・コロンバニ「三つ編み」を読んで  私たちは戦っていい

レティシア・コロンバニ「三つ編み」を読んで  私たちは戦っていい

私たちは戦っていい
「鏡にうつる自分の姿は敵ではなく、味方でなくてはならない」
―レティシア・コロンバニ「三つ編み」

仕事との戦い、子供との戦い、家族との戦い。
最近そうやって、何かを「戦い」と形容するのを避けていた。

だって、人生は戦いなんかじゃない。もっと幸せなものだ。だから肩の力を抜いていい、深呼吸してリラックスしよう。ずっとそう思ってきた。

だが、しかし。

それで

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彼女のようには生きたくない、でも大好きだ。 「村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝」を読む

彼女のようには生きたくない、でも大好きだ。 「村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝」を読む

ここ数年で、ダントツに面白かった本といえばこれだ。

村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝。その名の通り、伊藤野枝という女性の生涯を追っている。

明治に小さな漁村で生まれ、
活字を読みまくり、
堂々と金を無心し、
評論や創作をガツガツ書き、
好きな男とセックスしまくって、
子供を7人も産み、
世の中の圧力や理不尽に異を唱えつづけ、
28歳で憲兵に殺されてしまった。

野枝の名前は、よく「婦人解放

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10年振りに灰谷健次郎作品を読む 「少女の器」

10年振りに灰谷健次郎作品を読む 「少女の器」

ちゃんと私たち傷つけ合ってるのよ。確認しつづける母と娘の物語

「ママは存外にいいかげんなところがあるわ。親と子は平等だとか、親の人生と子供の人生は別々だとか、かっこのいいことばっかりいってるけど、じっさいにやってることはその逆さのことが多いのよ。ママ、それに気がついていないでしょ」

10代のころ、灰谷健次郎というと、お説教くさいイメージがあった。代表作の「太陽の子」なんて、それはもう素晴らしい

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2019年面白かった本 ベスト5

年末すべりこみで振り返り。
そもそもたくさん読めていないのですが、自分では選ばない本をいくつも読めた良い年でした。

1. 東畑開人「居るのはつらいよ」
東畑さんに「いるのはつらいよ」と言ってもらえて救われた人が、いったいどれだけいることでしょう。
私は、子育てのしんどさがうまく言葉にできなかったとき、ものすごく救われました。

いま振り返ると、息子が1歳を過ぎるころまでは、めまぐるしい非日常の

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みんな結婚ごっこなのかもしれない   ――能町みね子さん「結婚の奴」を読む

みんな結婚ごっこなのかもしれない ――能町みね子さん「結婚の奴」を読む

自分の中にある願望を認めて、ひとつずつ果たしてみる。こんなシンプルなことが、なかなかできない。

この一年ほど、能町みね子さんの「結婚の奴」が好きで好きで、何度も読み返している。誰かと結婚をしてみるという、静かで壮大な試みの一部始終。

そもそも、他人と恋愛をして共同生活を営むというのが、ものすごくハードルの高いことなのだ。それなのに私たちは、結婚というワードを使って、それが自然発生する出来事かの

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男性の育休は「伝染」する――光文社新書 「家族の幸せ」の経済学 を読む

男性の育休は「伝染」する――光文社新書 「家族の幸せ」の経済学 を読む

1歳から保育園に預けるなんてかわいそう。

数年前、そんなお決まりの台詞を言われたことがある。

しかし、私は何とも思わなかった。というよりも、未だにそんな台詞が生きていることに驚いた。

私の周りでは、子供を0歳や1歳で預けるのが主流だったので、どう頑張っても子供たちをかわいそうだと思えなかったのだ。

もし私が、10年前に子育てをしていたら。20年前だったら。心がチクリと痛んだのだろうか。

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