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【組織開発・戦略人事のプロが徹底解説!】 ビジネスにおけるコーチングの魅力とは? ~【前編】知識編~


『コーチング』と聞いて、どの様なイメージをお持ちでしょうか?

「最近、より一層見聞きするようになった」、「どんな経験やスキルが必要なのか分からない」、「興味はあるけど、何の役に立つのかはよく分からない」など、その言葉自体はビジネスシーンに浸透しつつも、具体的なことへの理解には、まだ及んでいない方がきっと多いのではないでしょうか。
 
また、職場においては、「マネージャーに必須のスキルとアプローチ」ということで、管理職研修の一環として『コーチング』を導入されている企業にお勤めの方もいらっしゃるのかもしれません。その場合、実際に有効なアプローチとしてチームに実践できていますでしょうか? または、受ける側としては、マネージャーのコミュニケーションに変化を感じましたか? そして、自身に何らかの良い影響は出てますでしょうか?
 
おそらく、答えは様々でしょう。


ということで、今回、『ICF(国際コーチング連盟)認定』の知見と、17年半のグローバル企業における 『経営戦略に紐付く戦略人事と組織開発』の経験から、「コーチングとは何か?」 の全体像の理解を皆さまと一緒に深めるべく、ビジネスブログでまとめることにしたのです。 



1. コーチングとは

まず初めに、『コーチング』とは、一般的には、相手の話に「傾聴」し、「効果的な質問」を重ねていく中で、相手に「気づき」や「行動するきっかけ」を与えながら、「行動変容」が促されることで、問題の解決やゴールの達成に「導くことを支援」する手法とプロセスのことです。
 
コーチングの歴史は古く、一説によれば、『コーチ (Coach)』という言葉が最初に登場したのは 1500 年代。その語源は『馬車』でした。

馬車の役割は、「大切な人を現在の場所からその人が望む場所まで送り届ける」ということで、『コーチ』という言葉にも、そういった意味合いが含まれたということです。そこから派生してコーチングは、『相手のゴール達成を支援する』という意味で使われるようになり始めました。

昨今では、コーチングは、マネージャーに求められるコミュニケーションスキルのひとつとして確立されておりますが、はじまりは、 1950 年代、当時ハーバード大学助教授であったマイルズ・ メイス (Myles Mace) 氏が著書『The Growth and Development of Executives』(1959 年 ) の中で、「マネジメントにはコーチングが重要なスキルである」としています。そして、1980 年代になると、コーチングに関する出版物が多く登場し始めました。
 
まず、アメリカにおいては、1980年代からビジネスにおいても活用され始めました。そして、『コーチ』は個人や組織のゴール達成を支援する存在として、教育、スポーツ、芸能、エグゼクティブ層などを中心に、さまざまな分野で発展を遂げることになります。

ビジネス環境が刻々と変わり、新型コロナウイルス感染症などでの世界的パンデミック含めて、世の中の Ambiguity(曖昧で不確実)な動きのなか、組織のあり方や働き方に対する考え方や意識も急激に変化をしていくことで、『コーチング』は、部下育成や組織のマネジメントにおいて、以前にも増して重要な資質・スキルとして求められるようになっているのです。


2. コーチングの目的

次に、コーチングの目的について理解を深めましょう。

コーチングの根本的な目的は、『相手が望む変化や成果を達成することを支援する』ことです。具体的な目指す姿・ゴールは、個々のニーズで多岐にわたりますが、例えば、"キャリア開発や今後のキャリアについて"、"リーダーシップスキルの向上"、"ライフとワークのバランス確立" など、相手の課題やニーズに合わせて設定されるのです。
 
また、コーチングは、相手の内なるポテンシャルを引き出すことに焦点を当て、その過程で新しい視点や行動の選択肢を提供することにも役立ちます。コーチングではよく、「答えは相手の中にある」と言われる通り、コーチが答えを提供したり、アドバイスをしたりすることはせず、相手が内省し、気づきを得て、行動変容していき、自己成長や自己理解の向上につながっていくことに意味があります。コーチングの目的は、ゴール達成だけでなく、「相手がより充実した人生を築くための手助けをすること」にもあると言えるでしょう。


3. コーチングの原則

コーチングには、大きく分けると、以下の3つの原則があります。
 インターラクティブ(双方向)であること
② テーラーメイド(個別対応)であること
③ オンゴーイング(現在進行形)であること

 
では、それぞれ見ていきましょう。

① インターラクティブ(双方向)であること
組織の中におけるコミュニケーションは、上司からチームメンバーへの指示・ 命令・伝達など、一方通行であることが少なくありません。一方、コーチングは、『インタラクティブ(双方向)』なコミュニケーションによって進行していきます。
 
コーチングにおいて大切なのは、コーチからの問いかけに対して、自由に発想できることです。相手が自分の考えや思いを十分に話せていない状態では、新たな気づきも生まれにくくなってしまうものです。また、コーチは相手の話にただ黙って耳を傾けているのではなく、話を聞いて興味を持ったこと、感じたことなどを率直に相手に伝えます。これを、コーチングでは『フィードバック』と言い、透明性がありタイムリーであることが重要なのです。
 
このように、『問い』を介して、共に自分の考えや思いを率直に話すことができる状態こそが、『インタラクティブ(双方向)』な状態と言えるでしょう。
 
② テーラーメイド(個別対応)であること
テーラーメイドとは、一人ひとりの体型に合わせて服を作るイメージのように、また、個人旅行を目的にする場合、どこに辿り着きたいのかの工程表を作成するように、コーチングの目的もコミュニケーショ ンも個別にデザインすることです。
 
価値観、考え方、行動の傾向、物事のとらえ方などは一人ひとり異なります。そのため、ある人とのコミュニケーションでは上手くいったとしても、そのやり方が他の人にも当てはまるとは限らないのです。よって、コーチングにおいても、一人ひとりをよく観察し、その人に最も適した方法を模索することが大切なのです。
 
また、物事の取り組み方や学習の仕方、思考の癖なども一人ひとり異なります。例えば、よくある事例として、上司が自分のうまくいくやり方を部下に押しつけても上手くいかないのはそのためです。よって、個の個性や持ち味を尊重し、その人の強みに目を向けることが、テーラーメイドの関わりではとても重要と言えるのです。
 
③ オンゴーイング(現在進行形)であること
コーチングでは、定期的にゴール達成に向けて対話する時間を持ち、継続的に相手と関わり続けることをしていきます。

コーチングにおける対話の中でどんなに戦略を練ったとしても、実際に行動を起こしてみると、現実との間にギャップが生じることはよくあることだと思います。

いち早くゴール達成に向かうには、そのギャップをタイムリーに認識し、軌道修正していくことが必要です。よって、コーチは、定期的に対話をして進捗を確認することはもちろんのこと、「相手が実践を通して得た気づきを言語化する機会の提供」、「現在地と次に向かう先のすり合わせ」、「新しいアプローチの模索と検討」、「成長や成果を共に祝福・称賛」といったように、相手が可能性を unlock(解放して最大化)しやすい風土創りにも心掛け、相手が前進し続けられるように関わっていくことが大切になってきます。


4. コーチングと他の手法との違い

『コーチング』と似たものに、ティーチング、セラピー、カウンセリングがありますが、それらの特徴と違いってお分かりでしょうか? それぞれ手法と目的が異なるため、ここで適切に理解しておきましょう。
 
コーチングとティーチングの違い>
『コーチング』が傾聴から始まるのに対し、ティーチングは、指導する相手に指示や助言を与えるところが、まず顕著な違いと言えるでしょう。
 
情報を持っている側が、持っていない側に対してその情報を与えるのがティーチングの在り方と言えるでしょう。つまり、ティーチングでは、まさに、『教師と生徒』のような関係性になるのです。
 
ティーチングは、明確な指示をした方が相手に伝わりやすいときに有効な手法と言われています。例えば、新入社員に対して、基本的なビジネスマナーなどを教える際には、ティーチングが有効なのはお分かりいただけるでしょう。
 
コーチングとセラピー・カウンセリングの違い>
セラピーやカウンセリングは、主に、現在抱えている問題を解決するために使われます。そのため、カウンセラーやセラピストの方々は、その問題が生じる原因を探るため、相手とともに『過去』を振り返り、さまざまなことがらについて深く掘り下げていくのです。
 
一方、コーチングの目的は、『未来』に向けて相手の行動変容を促すことです。つまり、相手が未来に向けて行動を起こす、あるいは行動を変えるというのが、コーチングの成果を測るひとつの指標なのです。コーチは、相手が目指す状態を手に入れるために、相手の置かれた現状、そして目指す状態をできる限り明確にして、それを実現させるためにどうしたらいいかを伴走していくのです。
 
このように、全て、相手の話を聞き質問して答えを導き出すという共通項はあるものの、それぞれ向かう先が異なるのです。つまり、他の手法が『過去~現在』に重きがあるのに対して、コーチングでは、主に『現在~未来』により焦点を当てるのです。また、セラピーやカウンセリングでは、傾聴と質問によって心理面でなんらかの問題を抱えている相手の心理的安寧を目指す一方で、コーチングでは、目指しているビジョンがある相手の主体性と能力を引き出すものなのです。
 

<違いを理解したうえで、コーチの役割とは?>
このように、コーチングは、相手の『目指す姿・ゴール達成に向けた対話』とも言えるでしょう。つまり、『未来に目指す姿』無くしてコーチングは成り立たないのです。この観点で、コーチの役割を定義するとすれば、『相手の目指す姿の達成に向けて伴走し、相手を主体的に前進させること』と言うことができるでしょう。
 
ここで重要なポイントは、『主体的に』ということです。つまり、コーチングにおいて『未来に目指す姿』とは、『本人が自ら選んだもの』であり、『自ら達成に向けて動いていけるもの』であるべきなのです。
 
未来視点に目を向けるコーチングにおいて、さらに特徴的なことは、『共に考える』ことです。『共に考える』コミュニケーションにおいては、意味の再解釈や新たな意味の創出が起こりやすくなるのです。そのとき重要なのは、『質問する人』or『質問される人』という区別ではなく、『問い』を介して、双方向にやり取りをすることです。
 
誰かと話すうちに、思いもよらなかった発想が湧いてきたり、想像もしていなかった結論にたどり着いたりするという経験は今までに無いでしょうか?
 
他者と共に考えるプロセスを通して、自分には無かった視点や考え方に触れることで、自分の視点・考え方を客観視し、よく見えるようになるものです。そして、そこから再解釈された視点や意味の変化は、新しい行動や関わりを引き起こしていき、未来の視点により一層つながっていくことでしょう。
 
つまり、相手の状態・ニーズ・目指す方向性などを理解したうえで、どの手法が適切で相手に有効かを判断することが大事なのです。その結果、コーチングが適していないケースも出てきます。コーチの役割として、場合によっては、カウンセラーなどの適切な方を、その相手に紹介することも大事になってくるのです。


5. コーチングを受けるメリット

コーチングを実践することで、個と組織は様々な点でのメリットを享受できる一方、注意も必要です。5章と6章では、コーチングにおけるメリットと共に、注意点に触れることで、成功の鍵となるポイントにも焦点を当てたいと思います。
 
コーチングを実践することで得られるメリット>
コーチングを実践することで得られるメリットを、特にコーチを受ける側視点で、代表的なものを4点挙げます。
 
① 自主性が育まれるきっかけになる
コーチングでは、「傾聴」と「効果的な質問」を通して、相手の中にある答えを引き出し、行動変容を促すことが特徴であることは既に触れた通りです。
 
例えば、キャリアにおけるコーチングの事例として、「何を目指しているのか?」「それを達成するために何をすべきなのか?」「自身が優先していることは何か?」といったように、相手の内面を具体的なオープンクエスチョンでの問いを繰り返すことで、探求と発見の思考のプロセスが相手の中で展開されていくことにつながっていきます。それに耳を傾け、傾聴と問いを繰り返すプロセスを通して、言語化しながら、前進していくことを伴走し、後押しすることで、相手の存在と気持ちを承認して勇気づけていくと良いでしょう。これを繰り返す中で、相手は自分で考え行動する力を身につけ、自主性が育まれていくことも期待できるでしょう。
 
②  気づけていなかった視点・課題などを発見できる
例えば、「目標を達成するために何が必要なのか?」「どのような行動をするべきか?」といった質問をより具体的に掘り下げていくことで、相手の思考の探求が始まり、相手は自分だけでは気づけなかった視点を持てたり、気づけていなかった課題、時には強みを発見できたりすることがあります。これを、『ブラインドスポット』と呼びます。

『ブラインドスポット』に対する気づきは、ハッとさせられることが一般的には多く、『アイオープニング』というように、目が覚めた感覚に近いものです。今までに自身が、ハッと目が覚めるような『アイオープニング』になった瞬間の体験を思い出してみてください。
 
新たな視点や見えていなかった課題に気づくことで、次に似たようなケースに出くわした際に、それを解決や解消するためには、どのような行動を具体的に取れば良いのかも自らで気づき、次の行動に変容が生まれることになるでしょう。
 
③  行動に本質的な変化が生まれる
コーチングを受けることで、相手の行動は本質から変化することが期待できます。相手は、コーチとの対話の中で、ゴールを明確にして課題に気づくことでしょう。そして、その課題を解消するために、自ずと行動が促されることでしょう。行動の結果がどうだったのかをコーチから客観的にフィードバックを受けることで、検証し、ゴールを達成するために必要な行動について模索して行動することが繰り返され、本質的な行動変容へとつながっていくことが期待されるのです。
 
④  組織内での連携が育まれ、組織の柔軟性や適応力が高まる
個に対するコーチングが、その個のスキルやマインドセットの向上に役立つだけではなく、チーム全体の対話が促進され、コラボレーションの向上にも発展することがあるのです。
 
コーチングの風土が醸成されたチームにおいては、「対話」が育まれ、互いの個性や持ち味を理解することに対する思考と行動が芽生えてくることが多いです。その結果、他者に対する配慮や敬意の意識が育まれ、自ずと協力体制が築かれることが期待効果としてあげられます。また、コーチングは、変化への適応を促進させる期待効果もあることから、個と組織全体が柔軟で適応力のある姿勢を身につけるきっかけにもつながり、急速に変化をしていく曖昧で不安定な世の中やビジネス環境に対して、アジャイルに対応できるようになるきっかけにもつながります


6. コーチングを受ける際の注意点

『コーチング』を受けることで、相手もコーチ側もデメリットを感じるケースはほとんどないと思われます。ただし、『ケミストリー』とよく言われるように、双方向の相性が問われるのもコーチングの特徴のひとつであり、コーチングによって何でもかんでも解決したり物事が好転するとは限らないということも覚えておく必要があります。
 
人間同士が双方向に促進する「対話」が故に、相性が合わないケースでは、信用・尊敬が伴わないことで、傾聴する姿勢が失われるばかりか、心理的安全性が醸成されず、自己開示さえもできない状況に陥ることがあり得るでしょう。そうなってしまうと、その1回の体験だけで、負のイメージを持つリスクも出てしまい、非常に勿体なく、残念なことであります。
 
コーチングでは、回数を重ねる中で、双方向の信頼関係を築けていけることが大事なポイントです。コーチングを受ける側がモチベーションを保ち能動的に動き続けられるかどうかは、コーチによるところが大きいものの、本来は、『コーチングを受ける側』に委ねられているのです。よって、コーチングを受ける際には、できるだけ、相手の得意分野や経験・実績を確かめたうえで、対話のスタイル含めて、数名のコーチ候補とまずは会い、自身に合いそうで信頼できるコーチを探すと良いでしょう。


7. コーチング成功の鍵

5章「コーチングのメリット」と、6章「注意点」を踏まえ、【前編】の最後の本章では、成功するための鍵を幾つか紹介いたします。
 
①  透明性あるコミュニケーション
コーチと相手との間には強い信頼関係が必要なことは何度も触れている通りです。オープン、且つ率直な対話こそが、効果的なコーチングの土壌となります。
 
②  ゴールの明確化とその共有
コーチングが成功するためには、明確で具体的なゴールが必要です。コーチングのプロセスでは、どのような成果を期待しているのかを明確に定義し、それに向けての計画を策定して、コーチングの対話の中で共有し、進捗を追っていくことが大事になります。
 
③  タイムリーなフィードバック
コーチングの成功は、タイムリーで率直なフィードバックをコーチが与えているかにもかかってきます。そのためには、コーチを受ける側も、自らの成長を実感していくために、フィードバックをオープンに素直に受け入れる姿勢が問われます
 
④ 持続的な学習を推奨する風土
成功するコーチングには、必ず、気づきと行動変容に基づく、継続的な学習が伴います。失敗を許容すること、強みを認め伸ばすこと、個々の違いに配慮し個を生かすこと、といった組織全体での学習と成長の風土が育まれることも、コーチングの持続的な成功には役立つと言えるでしょう。
 

繰り返しですが、コーチングには、個と組織双方の成果を飛躍的に向上させる力と可能性を秘めています。メリットを最大限に生かすと共に、注意する点も認識し、成功に導く鍵を常に思い返していきましょう。そのうえで、実践を繰り返し、個と組織の持続的な発展と成長を目指していきましょう!
 

続く【後編 - 実践編】では、「コーチの役割」、「コーチに求められるスキル」、「コーチングの具体的事例」、「コーチング実践で活かせる『GROWモデル』」に触れていきます。

ここまでお読みいただきありがとうございます!
以下【後編】も、是非ご覧いただき、皆さまの何らかのご参考になったり、前進のきっかけになれば嬉しく思います!


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