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【散文詩小説】時代遅れの寵児シリーズ

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観察眼も文章力も感性もないのですが、とにかく書いてみようと、散文詩と小説の掛け合わせのような作品をひたすらに書いてます。重ねるごとに上手くなって行けたらいいなと思います♪
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記事一覧

【散文詩小説】時代遅れの寵児⑩伴走

【散文詩小説】時代遅れの寵児⑩伴走

俺の再就職活動における
最大の功労者は、妻だ。

と言っても、当時はまだ
彼女だった。

彼女とは、再就職を始める
少し前から付き合いはじめ
ていたが、その頃から、
転職の意思は伝えていた。

再就職活動が
四ヶ月かかった理由には、
そんな彼女の存在も
影響していたと思う。

彼女のサポートは、
ほぼ、彼女にとっての
自分事になっていた。

提出資料作りから、
就職情報誌の購入に加え、
面接対策ま

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【散文詩小説】時代遅れの寵児⑨挑戦

【散文詩小説】時代遅れの寵児⑨挑戦

四ヶ月もかかったのか、
四ヶ月で済んだのか…。

兎にも角にも、再就職活動にその時間を費やした。

視点を少し変えれば、
長い社会人人生においては
1、2年程休んでもバチは
当たらないだろうし、
もう少し広い視野で社会を
見渡す事もできたかも…と、思うとやや残念に思う。

だが、そもそもが「休むため」ではなく、「這い上がるため」の時間なのだから、
そんな発想は浮かぶ訳が
なかったし、そんな悠長な

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【散文詩小説】時代遅れの寵児⑧決意

【散文詩小説】時代遅れの寵児⑧決意

同じ船に乗る。
同じ方角に向いて、
同じ目的地を目指す。

それが出来なくなっら、
船を降りるしかない…。

5年間勤めた会社を辞めた。

先の事を決めるよりも、
先に辞めることを選んだ。

想像以上にあっさりとした
幕切だった。

そっと肩を叩く人。
激励する人。
涙ぐむ人。

それぞれいろんなパターンで
見送ってくれた。

でも、引き留める人は
いなかった。

「出世する迄顔出すな」

上司は

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【散文詩小説】時代遅れの寵児⑦時代

【散文詩小説】時代遅れの寵児⑦時代

もうすぐ、
社会人として五年目を
迎えようとしていた。

石の上ではないが、
流石に3年以上過ごすと、
その場所の良し悪しも、
外界との差にも気づく。

何より顕著だったのは、
後輩たちの「離脱」だ。

間違っちゃいけないのは、
「脱落」ではないと言う事。

「逃げ恥」なんて言葉が
トレンド入りする時代とは
違う。

「ブラック」を「ホワイト」と信じ込むのが大人の嗜み。

「終身雇用」と「年功序列

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【散文詩小説】時代遅れの寵児⑥相克

【散文詩小説】時代遅れの寵児⑥相克

こうありたいと思う
自分でいたいから、
そうあるべきだと思う
自分を演じる。

多分きっとあいつなら、
多分きっとそうするはず。

いつだって俺は、
こうありたいと思う、
あいつになっている。

なろうとする。

なりすます。

あいつは、理想 
あいつは、幻想 
あいつは、虚栄

どれも、本物じゃない。

本当は、臆病
本当は、適当
本当は、能天気

なのに、何故か、
あいつになりたがる。

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【散文詩小説】時代遅れの寵児⑤親父

【散文詩小説】時代遅れの寵児⑤親父

昭和11年11月15日、
俺の親父は、
この世に生まれた。

幼い頃に両親をなくし、
兄弟丸ごと、
親戚に引き取られた。

中学卒業後に上京。
丁稚奉公から始まり、
自分で靴屋を始めた。

…が、鳴かず飛ばず。

母との結婚を機に、
店をたたみ、靴工場の
職人として会社勤めになる。

…が、給料は安い。

風呂なしアパート、
六畳ひと間で暮らす日々。

朝、一杯のインスタント
コーヒーで目を覚ます

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【散文詩小説】時代遅れの寵児④青蛙

【散文詩小説】時代遅れの寵児④青蛙

「日東駒専」

個人の実力以前に、
入り口からランク分けされる
学生にとって、氷河期の就活がどれだけ苦戦するか、
想像に難くない。

無論、
大学受験の比ではなかった。
面接や採用枠はもちろん、
書類選考で篩にかけられる。

そう、
試験すら受けれないのだ。

それでも、
世間知らずの前向きさで、
どうにかこうにか内定を
もらった会社は、
同族経営の中小企業。

上司は、社長の息子。
一期一会をい

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【散文詩小説】時代遅れの寵児③妥協

【散文詩小説】時代遅れの寵児③妥協

1勝6敗…

団塊Jr.が蔓延る受験戦争。
俺は、一年浪人の末に、
なんとか1つ合格通知を
手にれた。

工場の職人の末っ子で、
風呂なしアパートで育った。

そんな家庭に金なんてない。

奨学金で進学した俺は、
4年間バイト三昧の日々。

大学へはほとんど行かず、
代返とコピーで単位を取る。

ギリギリの成績で卒業するといった有様だったが、学業以外の勉強は充実した。

バイト先は、
食べ放題の焼

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【散文詩小説】時代遅れの寵児②過信

【散文詩小説】時代遅れの寵児②過信

「あなたが一番輝いていたのはいつですか?」

もし、そう聞かれたら、
俺は「いつ」
と、答えるだろうか?

7歳上の姉と、
3歳上の兄に続いて、
工場で働く職人の
末っ子として生まれた。

風呂なしアパートの
狭い部屋で家族五人暮らし。

親子で銭湯に通ひ、
兄弟三人、並んで眠る。

一人の時間なんてない。

姉の会話の中で、
兄のペースに併せて暮らす。

いつも身の丈にあってない。

気がつけば

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【散文詩小説】時代遅れの寵児①理由

【散文詩小説】時代遅れの寵児①理由

もう半世紀を越えた。

立ち止まりを余儀なくされて、6年が過ぎた。

ひと昔前なら、あと10年頑張れば悠々自適な日々が待っているのだろうけど、そんな時代遅れな生き方が通用する時代じゃない。

何故なのか?
何故、踏み外したのか?

かつて「蔑んだ側」に、
今、俺は立ち止まっている。

かつて「そっち側」と読んでいた場所に、俺はいる。

何故、俺は立ち止まってしまったのか?

いや、知っている。

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