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春キャベツ焼きそばをつくろう!

季節の野菜を食べるようになったのは、野菜が好きだからとかおしゃれだからとかではなく、お財布に優しいからである。


はじめての一人暮らしは大学生の頃、3食規則正しくて代わり映えも新しいアイディアもない実家のご飯から解放され、勝手気ままに食べたり食べなかったりすることが楽しかった。奨学金を借りていてあまりお金もなかったけれど、家計についてしっかり考えることはなかった。安いからといってレトルトのソースでスパゲッティばかり食べていたら、ビタミン不足のせいか、ものすごい頻度で風邪をひいた。


2度目の一人暮らしは、はじめて自分の職を得たときだった。親の扶養から外れて自分で生計を立てることとなり、はじめての一人暮らしではずさんだった家計管理をしっかりしようと思った。人のお金で生きるのはどこまでも気ままで、自分のお金で生きるにはどこまでも神経を尖らせなければいけないことを、あらかじめ感じ取っているようだった。家計管理の本を読み、そのやりかたを踏襲して月々の予算立てをした。

働き始めてから数週間で、退社後の人間が長蛇の列をなすスーパーに数日おきに並ぶのは全く不毛だと感じ、買い出しは週末に1回だけすることにした。月々の食費予算を4か5で割って、週ごとの予算内で買い出しをする。予算を決めて買い出しをすると、個々の商品の値段が急にシビアに見えてくる。


貯蓄を人並みかそれ以上にと組んだ予算だったので、勝手気ままに飲み食いすると、週ごとの予算はすぐに弾け飛ぶ。レシピ上の一人分の分量は少なくとも、食材はそれ以上のポーションで売られているので、あらかじめ献立を決めてレシピ通りに必要な材料を揃えようとすると、外食した方が安いんじゃないか?と思うようになる。予算内で収めつつ、1週間の食料として十分な量を確保しようとすると、その時々で安い食材を買うことになる。その時々で安い食材とはつまり、旬の食材なのだ。


魚はほとんど買わなかったので、こと野菜に関して旬を実感することとなる。毎週同じスーパーに通うので、1週間ごとの価格の変動を意識する。食卓でよく見かける野菜、レシピによく登場する野菜(じゃがいも、にんじん、たまねぎ、キャベツ、きゅうり、ほうれん草、トマト、なす、あたりだろうか?)を、旬じゃない時期に買おうとすると、2~3倍ほどの値段がする。予算枠の限られた人間に、冬のトマトやきゅうりは買えたものではない。代わりに、別の棚にはこのボリュームでこの値段?!(喜びのほう)という旬の野菜が並ぶ。


旬を選ぶことで、細々とした1週間分の予算で、買い物袋いっぱいの野菜を買うことができる。幸運にも最初の春にすばやくそれに気づいたわたしは、春キャベツ、新じゃが、新玉ねぎの虜になった。やわらかく芯の気にならない緑と黄緑のグラデーションのキャベツ、みずみずしくて薄い皮ごと食べられるうすベージュのじゃがいも、あまくてやわらかくてすぐに火が通るまっしろな玉ねぎ。ともすれば季節を問わず無心で食べていたであろう食材が、旬に食べれば別物のように感動を引き起こす。


このやり方だと、レシピ本位ではなく食材本位の買い出しとなるので、買った食材からレシピを考えていかねばならない。食材ありきでレシピを考えるのは難しいと思うかもしれないが、旬なので、最悪どの食材も塩をするだけでおいしい。わたしの場合は焼いて塩をするだけでいいやと開き直って、満足して食べている。おいしい塩が家にひとつあると、こんな妥協ができる。

どの食材がいつ旬なのかわからないという方は、日々の買い物で、目当ての商品でなくとも価格をチェックし、だんだん安くなっているものがあれば、それが旬に近づいている可能性が高い。わたし自身、どの野菜がいつ旬なのか調べたわけではなく、価格推移から感覚的に学んでいる。


今年も春が花粉とともにやってきているが、最近のヒット自炊は春キャベツ焼きそば。材料は豚バラ肉(切り落としの方が安いが、脂がたくさん出るのでバラにした方が良い)、春キャベツ、マルちゃんの焼きそば。春キャベツの使いみちを考えていたときに焼きそばを思いつき、もやしとかにんじんもあった方がいいなと考えたものの、買いに行くのも面倒なので食材3つのみでシンプルに作ってみたらこれがおいしい。具の種類が多くないことで、春キャベツのおいしさをしっかり感じることができる。


<作り方>

1. 少なめの油(大さじ1/2)で1/3の長さに切った豚バラ肉(3枚)をフライパンで焼く。豚肉から油が出るまでジリジリ焼く。

2. 大きめに切った春キャベツ(1/8個)をフライパンに加えて、強火で豚肉の脂が馴染むまで炒める。

3. マルちゃんのレシピ通りに焼きそばを加えて炒め、ソースであえる。

4. 盛り付けて、七味唐辛子をかけて食べる。


繰り返すが、豚の脂をキャベツと麺が吸うことでおいしくなっているので、ここはケチらず豚バラを買おう。


焼きそばに七味唐辛子をかけて食べるのは、高山なおみさんの真似だったなと思って、心当たりの本を見返してみる。すると、上で自分オリジナルと思って書いた作り方は、同書の『ソース焼きそば』とほぼ同じであった!!!違うところは、豚肉の量が1.5倍になっていて長めに切るところ、半熟目玉焼きを載せないところ、青のりをかけないところ、食べるときにウスターソースをかけないところ。豚肉とキャベツだけのシンプルな焼きそばのレシピは、自分で思いついた産物かと思ったら、以前に見ていたものだった。


とはいえ豚肉の脂に力点を置いているところはわたしのオリジナルだと思っているので、ぜひ脂多めの豚バラで春キャベツをおいしく食べてみてください。高山なおみさんの『自炊。何にしようか』は、手間をかけない地味深いレシピがたくさん載っていて、いちばん好きなレシピ本。好きすぎて、とうとうレシピが自分の中に入り込んでいた!


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