古橋

古橋です

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  • 小説

    大学生の時に書いた小説をリメイクしてます

  • 山田はいつもやさしかった

    山田と終わった

  • 山田は山田が好き

    山田から離れた後の自省録

  • 山田はいつもやさしい

    山田の話をまとめました。

最近の記事

愛日(小説)

先生の体はわたしがつくる。そう意気込んで始めた料理だったけど、七日目にしてもう、がたが来ている。なんだってこんなに手間がかかるのだろう? せっかちなわたしはいらいらしながらクックパッドを覗き込む。油の取りきれていないぬめぬめとした指で触ったせいで、端末の画面が汚れてしまう。ああ、と声を漏らす。ああ、もう! どれもこれも、先生のせいだ。先生が、メロンパンばかり食べているから。コンビニのメロンパンだけで、食生活を成り立たせているから。  先生はもう遠慮しない。来るときは「行き

    • 先輩(小説)

      恋は宗教。先輩は教祖。二人でいいから教会を作ろうよ。数Bなんか全く手につかない。数学担当の福ちゃんには悪いけど、私にはZ軸を学ぶ暇などない。福ちゃんは最近結婚した。よその高校で英語を教えている先生らしい。写真を見せてもらったら、とても綺麗な人だった。福ちゃん、福ちゃんもその人を崇拝しているよね。その人の言うこと全てがイエスさまの言葉みたいに感じられているんだよね。福ちゃんは困った顔をした。困っているのに口元ははにかんでいて、一緒にいて落ち着く人なんだよと言った。は? 死

      • 沈める(小説)

         ごうごうと音が鳴る。生あたたかい世界に抱かれたわたしは冬眠する動物のように安堵する。時間がゆっくりと流れる。旋回し、留まり、浮き沈みを始める。ずっとここにいられたらいいのに。ここにいて、誰も、わたしのこと、好きにも嫌いにもならないでくれたなら、いいのに。  水面に顔を出すと、世界の秒針が一気に進み出したような気がした。現実に戻される引力が不快だった。二十二歳。大人。浴槽に潜る、だなんて、どうかしている。追い焚きをしたはずの湯はいつの間にかぬるくなっていた。熱いシャワーを首筋

        • 山田は私のことを好きにならない。これからもずっと。#8

           今月も山田と会っていない。  「もうわたしとえっちするの飽きちゃった?」って聞いたら、「というより時間がない」って、返ってきた。山田も絶賛大鬱中なのかなあ。山田は嘘をつくタイプじゃないからーーというか恋人でもないたかがオナホールのわたしに嘘までついて、ごまかして話を逸らして遊び惚けるほど、わたしを人間扱いしていないと思うから、「時間がない」というのは、本当なんだろうと思う。山田は仕事ばかりしている。やりがい搾取されているのにも気づかないで(気づいているのかもしれない。山田

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        愛日(小説)

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          8本
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        • 山田は山田が好き
          3本
        • 山田はいつもやさしい
          5本

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          流れる (小説)

           思いがけない者からの思いがけない誘いに、あんずは胸を弾ませた。大学進学を機に上京していたみちが、地元へ帰ってくるのだった。あんずは下着姿のまま、畳に腰を下ろしている。久しぶりの化粧だ。エステティシャンの姉から譲り受けたファンデーションは、十二月の刺すような冷気のせいで、出しにくくなっていた。ポンプを外し、硝子の容器を上下に振る。たいへんな量が出て、化粧品特有のむっとした香りが立ち上る。出しすぎた液を両手で馴染ませ、顔を洗うようにして塗り込む。と、毛穴はたちまち埋められて、整

          流れる (小説)

          推し(小説)

          細野くんが今日もかわいい。線の細いからだ、尖った白い顎、さらさらと風になびく髪……。細野くんが今日もかわいい。  細野くんは同じ学科の男の子である。大学一年生のときから推していて、四年生になった今でも推している。細野くんとは、話なんて合わない。いつも彼の好きなゲームやアニメの話をただ聞いているだけだ。でも細野くんは顔がいい。細野くんはとてもかわいい。だからあたしは細野くんの話を聞いている。  あたしがあんまりにも推すものだから、友人たちは呆れた様子でその様子を見ていた。そん

          推し(小説)

          山田は山田の場所で、古橋は古橋の場所で生きょ #7

           読み終えて、感嘆してしまうたぐいの本がある。年を重ねるごとに、読み方や感じ方が変わってくるもの。夏目漱石の『こころ』も、そのうちの一つ。〈明治の精神〉と、西洋個人主義との間で揺れ動き、衰弱していった知識人の思い。拠り所がない新たな時代、人々が順応していったことで、ぽっかりと浮かばれてしまった知識人のやりきれなさ。あいまいで行き場のない、不安定な日本人の精神を、鋭い文章で描ききった作家が、夏目漱石という人だと思う。  初めて読んだのは高校生のとき。現代文の授業で取り上げられ

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          山田は山田の場所で、古橋は古橋の場所で生きょ #7

          犬(小説)

           犬になってしばらく経つ。  久しぶりにスマホを見てみたら、Aから一件、LINEが入っていた。本当に私のことを心配していたのは、Aだけだったんだなあ。仰向けになりながら、そんなことを思った。一年前からここにいるジョンが、見下ろしてくる。人間離れできていない、なんて言いたげな目だ。最近ジョンは少し痩せた。痩せたお陰で、それまで容貌に現れていた詐欺師みたいな胡散臭さが軽減されたと思う。 「ベス、俺、大学辞めるつもり」  私がスマホをソファに放ったのを確認して、ジョンがそう話しかけ

          犬(小説)

          ダイエット(小説)

           インスタグラムで「コンビニダイエット」と検索すると、カロリーの低い商品が表示される。保存したポストを開きながら、サラダチキン、ヨーグルト、0キロカロリーの青汁を選び、レジに持っていく。昨日は講義終わりにパンケーキを食べてしまった。あけみがクリームたっぷりのベリーパンケーキを頼んだので、私もそれを頼むしかなかったのだ。人と食べる時には、制限しちゃいけないというのが私のルール。カロリーばかり気にしている人間と食べたらご飯もまずく感じられるだろうし、ぼんやりとしているあけみも、内

          ダイエット(小説)

          梅雨(小説)

           うどんにワサビって、つけんの?  浅田の言葉を無視して、あたしはチューブをぎゅっと絞った。ぼとんと落ちた塊を、お箸でわしゃわしゃかき混ぜる。濁っためんつゆに、出来損ないの残骸が浮いてきて、ぐるぐる回った。ずるずるっと、一気にすする。つめたい。心地いい。ワサビとうどんって、どうしてこんなに合うんだろう。返事をしないあたしに、浅田は肩をすくめ、自分のつゆにえび天を浸す。  あたしはテレビのニュースを見ながら、浅田はスマホの画面を見ながら、向かい合って夕食を食べている。同棲して二

          梅雨(小説)

          山田、死ぬことすら許してやんないからねー #6

           「身体」というものに、興味がある。自分の位置する〈今ここ〉を絶対的に証明してくれるもの。私が〈今ここ〉で、この場所に存在することができている、という、確かなる証明。古橋ちゃん、男女ともに、身体の大きな人が好き。肩幅ががっしりとしていて、手足がしなやかに伸びていて、骨が太く、関節が大きいと、その人がしっかりと目の前に存在している気がしてくる。そういうもの。そういう、成熟した肉体を持つ人間だけが放つ存在の確かさに、ずっとずっと憧れてきた。  初めて人を好きになったのは、ちょっと

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          山田、死ぬことすら許してやんないからねー #6

          山田、古橋ちゃんは先に行くよ。#5

           長い時間、山田を待ったことがある。待たせたことも。いつだって山田は、どんなに遠いところにいても見つけてくれる。まっすぐ、迷いなく古橋に向かってきてくれる。改札の向こうから、コーヒーショップから、ドン・キホーテのアダルトブースの奥から(?)。それはもういろいろなところから。  最初のうちは気づくのが遅くて、驚かされることが多かった。でも途中からは、ちゃんと山田のことを探すようにした。怒ったような顔をした、筋肉質の、いばっているようにも見える歩き方をするその男の一瞬を、見逃した

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          山田、古橋ちゃんは先に行くよ。#5

          2023 短歌

          2023年に作って、覚えているやつ、、 思い出したら追加します 〈遠野旅行〉 踏みしめて歩く遠野の畦の道 胡瓜を持ちて河童釣る子ら ぶうん、ぶんとエンジン掛けし老体の蔵の書ごうと燃ゆる日 思いき どんど晴れ遠野の道を歩くとき だれが生きてもよいと言うこと 〈ガウディ展〉 逆さまにつられて核の形した教会よろしく死んだ老人 口づけを一度もさせぬおまえいて建造物はぼろぼろになる   〈山田とのこと〉 ふりかえって気にしてくれたら嬉しくてゆっくり歩く、困らせる、好き

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          山田、ケツ穴を預けて女の子になってくれ。#4

           北野監督の『首』を観た。祝日20時からのレイトショー。甘いカフェラテを買って一番後ろの席のド真ん中に座る。周りには幾人かのおじがいた。ベレー帽を被ったおじ、白髪頭のメガネおじ、死にそうなくらいよろけた足取りで謎カート押して入ってきたおじい……。ド田舎のイオン、しかもこの時間帯だと、やっぱり客層も癖強侍しかいないなーと思いながら、ウン年ぶりの映画館に目を瞬かせる。  ネタバレするつもりはない。しかし、秀吉が「首なんかどうだっていいんだ」と蹴り飛ばす場面が印象に残っている。人が

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          山田、ケツ穴を預けて女の子になってくれ。#4

          山田に母乳ふくませるまで死ねない #3

           山田の痛みは古橋の痛み、古橋の身体は山田の身体である。山田が死んだときには古橋が、古橋が死んだときは山田がその意志を継いでいかなければならないので、「こうしちゃいられねえ」と思って慌てて仲良しの三十路先輩に「古橋が死んだらあなたから山田に連絡をお願いします」と言ったら「縁起でもないことを言うな」と怒られてしまった。本気なのに。古橋はいつだって本気なのに。

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          山田に母乳ふくませるまで死ねない #3

          山田じゃない男におっふされると死にたくなる #2

           ふとした瞬間に、山田を感じるときがある。自分の身体から、山田の匂いがするのだった。すっ裸で姿見の前に立って、左の乳房を右手で持ち上げてみる。重い。これも山田が姿見の前でよくする癖の一つであった。順調に山田になっていく自分を見た。とにかく山田になりたくて、秋の始まりも過ごすことになりそうだった。

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          山田じゃない男におっふされると死にたくなる #2