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コーチングと経験学習を組み合わせた人材育成内省サイクル

職場における人材育成において、コーチングは欠かせない要素になりつつあります。こちらのデロイト社のレポートによると、コーチング文化の根付いた組織は、業績を21%伸ばすことができたと報告しています。また、経験学習においても、毎日終業前に15分間内省に時間を費やした社員は、そうでない社員に比べ、23%パフォーマンスが良かったという研究結果があります。コーチングも経験学習も社員や部下の内面にある考えや課題を言語化し、そこから解決策を考え実行に移すという考え方では似ていると言えます。そこで、もし、この二つの考えが似ているのであれば、組み合わせて利用することにより、より効果の高い結果が期待できるのではと考えました。

経験学習等の内省サイクルに足りないコンセプト

経験学習とは、経験を内省・リフレクションすることにより、そこから学びを得ようとする考え方です。有名な経験学習モデルとして、コルブの経験学習サイクルがあります。そこで、まずは、簡単な経験学習の例として、雲が多い日に傘を持っていくということを学ぶ過程を見ていきたいと思います。

経験学習サイクルの例:雲が多い日に傘を持っていくことを学習
(確固たる経験)雨が降ってきて濡れた。
(内省的観察)雨が降る時は、雲が厚かった。
(抽象的にコンセプト化)雲が厚くなると雨が降りやすい。
(積極的検証)雲が厚い日に傘を持っていってみる。

もし、次の雲が厚い日に雨が降ったのであれば、雨が振りやすいことが検証されたことになりますので、そこから雲が厚い日には傘を持っていこうというということが学習されることになります。このように、実際に経験したことから、法則を導き出し、それを検証することによって学習することが経験学習となります。

経験学習の良い点は、誰に教わることもなく、自分自身に問いかける内省や振り返りによって、自己学習ができる点です。変化が激しく、過去に常識とされていたものが直ぐに役に立たなくなる世界では、経験から学ぶことが重要になり、経験学習はそれを可能にします。しかし、そこには目的というコンセプトは存在しません。よって、経験学習のサイクルの中だけでは、何のための経験かということは、含まれていません。これは、PDCAサイクルに対しても同様に言えます。PDCAサイクルも今あることを、改善するために計画し実行しましょうと言っているだけであり、何のために改善するかは、サイクル内には含まれていません。

このため、経験学習サイクルを職場において効果的に活用するためには、何のための経験学習であり、何のための内省なのかという目的や目標というコンセプトを組み合わせる必要があります。

経験学習を支えるコーチング

職場で使われるファシリテーションを中心としたコーチングは、目標を明確にし、その目標を達成するために現状分析を行い、できることを見つけ出し、それを確実に実現することを、質問を主としたコミュニケーションを通じて、導き出す作業です。コーチングの質問方法の基本として、GROWモデルというものがあり、このモデルに従って、質問を構成すると考えがまとまり易いとされています。

そこで、社員や部下が経験学習サイクルを実施する中で、マネージャーや管理職がGROWモデルといったコーチングの手法を用いて、より意義のあるサイクルを回すことができるのではないかと思いました。幸いGROWモデルもコルブの経験学習サイクルも4つのステージで構成されていますので、それぞれのステージを対にすることで以下のような流れが作れると考えます。

確固たる経験を目標と結びつける

確固たる経験のステージでは、実際に実施した事実を並べます。その経験に対して以下のような目標を確認する問いかけをすることで、経験を目標と結びつけて考えることができるようになります。

  • いつどこで、どのようにアクションを実施しましたか?

  • 今回のアクションは、どの目標を達成するためのアクションでしたか?

  • アクションによって、どんな結果がもたらされましたか?

内省的観察から現状を導き出す

内省的観察のステージでは、経験したことに対して、良かった点や悪かった点等、アクションの結果から言えることを列挙します。そこで列挙されている内容から、目標に対しての現在の立ち位置を確認するような問いかけによって、内省の精度を高めることができると思います。

  • 現在の状況は、目標達成に対して想定通りですか?

  • 想定通りでない場合、なぜ想定通りでないと思いますか?

  • 想定通りの場合、なぜ想定通りにできていると思いますか?

  • 目標達成を鑑みて現在の状況をどう思いますか?

  • 今後、どんなことが必要だと思いますか?

抽象的にコンセプト化した仮説を検証する選択肢を考える

抽象的にコンセプト化するステージでは、内省から見えてきた仮説・理屈・法則等を考え出します。それに加え、考え出された仮説・理屈・法則を活かせる選択肢を考える問いかけによって、次のアクションに繋げることができます。なお、次に検証したい内容を決めるステージがあるので、ここで考える際の選択肢の実現性はあまり考えずに、社員や部下がブレーンストーミング的に考えた方が、効果が高いと思います。

  • 今回のアクションを通じて、どんな傾向等が見えましたか?

  • その傾向を検証するためにできることには、どんなことがありますか?

  • 目標を達成するためにできることとして、他になにがありますか?

積極的検証を実施するための意思を確認する

積極的検証のステージでは、導きだされた仮説・理屈・法則等を検証するためのアクションを決めます。その具体的な内容を確認することで、やる意思が確認でき、さらに、目標に沿っていることを確認する問いかけを行うことで、目標達成をより確実にするアクションの検証を行うことができるようになると思います。

  • いつ、どうやってその検証アクションを行いますか?

  • そのアクションを行うことによって、どんな目標の達成に近づけると思いますか?

  • そのアクションによって、どんな結果を期待しますか?

  • どのアクションを行うことが一番有意義だと思いますか?

GROWモデルとコルブの経験学習サイクルを組み合わせる

業務報告の場をコーチングにより経験学習を促進し人材育成を行う場に

職場において、定例ミーティングや1on1ミーティング等で業務報告が実施されているケースが多いと思います。よって、それを起点とし、そこから、管理職の上司がGROWモデルに沿った質問をすることで、社員や部下は、目標に対して、現状を把握し、さらに、自ら次のアクションに関する選択肢を考え、その中から自らの意思を持ってやるべきことを選択し、実施することで、目標に沿ったアクションを自律的に行うことができるようになります。さらに、その考えをまとめる手順として、経験学習のサイクルの手順を踏むことで、経験で感じたことや気づいたことを内省し、そこから導き出された学びや仮説・理屈等を言語化し、それを次のアクションにて検証することで、社員や部下の職務におけるスキルも向上していくことが期待できます。

いずれにしても、業務に忙殺されるのではなく、アクション毎に、上司と部下共に、ちゃんと立ち止まり、内省し、何をやるべきかを再確認した上で、次のステップに進むことを意識的に行うことが目標を達成するため、また、スキルアップするために重要だと思いました。


現在、GROWモデルといったコーチングおよび内省や経験学習のフレームワークを活用した、目標およびアクションマネージメントシステムを開発しております。製品に関するご意見を募集しておりますので、何かございましたら、以下よりお気軽にご意見お寄せください。


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