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連載小説【正義屋グティ】   第57話・高貴な雪崩


~ご案内~

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】【㊗連載小説50話突破】
前話はコチラ→【第56話・ジェイルボックス】
重要参考話→【第50話・スノーボールアイランド】(氷の兵器)
      【第51話・学ぶ人】(現在の世界情勢)
物語の始まり&重要参考話→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~

正義屋養成所襲撃事件からおよそ一年と半年。正義屋養成所の四年生に進級したグティ達は、同じ中央五大国であるまいまい島の首長が変わったことを受け、カルム国の外務大臣がまいまい島へ挨拶に行く護衛を任されていた。まいまい島に着いたグティ達は足に銅の錠を付けた500人ほどの合唱団の歓迎を受け、その際に12歳の少女カリオペやチュイの弟だと言い張るヨハネスという少年に出会う。その後海辺を後にしたグティ達は巨大な門を越えると、先ほどまでとは別世界の高貴な街並みが広がっていた。そんな街をしばらく進むと突然道の真ん中にジェイルボックスと呼ばれる『世紀対戦で使われた氷を凝縮してできた緑色の液体』を研究する施設が現れ、本来の目的であるチェリー外務大臣の護衛組と別にグティ達数人はこの施設を見学することとなる。グティ達が目にするものとは……。

~カルム国とまいまい島の関係~

正義屋養成所の四年生となったグティ達は約65年前に起きた世紀対戦について学び、五神の一人であるコア様がホーク大国に誘拐されている事を知る。当時危機感を持ったカルム国は、世紀対戦の舞台であるスノーボールアイランドに向かい、突如島を覆ったとされている謎の氷を自国に持ち帰り研究を試みた。が、未知の物体をカルム国で研究することの危険性を懸念した政府は、同じ中央大陸連合国のまいまい島にその研究を任せることにした。その研究所こそジェイルボックスだ。

~登場人物~

グティレス・ヒカル
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
10歳の頃は大人しく穏やかな性格だったが、夢の中で出会った狼の話を聞き『正義』について疑問を抱くようになる。そしてその直後のデパートでの事件を経て自分の『正義』を見つけ、祖父の勧めから正義屋養成所に入学することを決意した。しかし、そのデパート事件で怒りを制御できなくなる病を患ってしまい、もしも怒りの感情を覚えたときグティの体は狼に変貌してしまう……。

ゴージーン・パターソン
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
総合分校時代からのグティの大親友。いつもにこやかで優しい性格であるがそれが故に他人の頼みを断れない大のお人よしだ。10歳の頃にグティの父親と交わした『小さな誓い』を守るために正義屋養成所に入所した。グティの謎の病気のことを知っている数少ない人間の一人である。優秀な頭脳を使いグティを支え続けた末にあるものとは……。

チュイ プロストコ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
身長は約150センチ。中性的な見た目で髪を伸ばし後頭部で奇麗に結んでいる。いつも冷静で約束は必ず守るからか友達が非常に多く周りからの信頼も厚い。だがそんなチュイにも苦い総合分校時代の思い出があるとか。

デューン アレグロ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生・ベルヴァ隊員)
性格は暗く、目つきが悪いで有名。怒ると何するか分からないと噂されているためか、あまり人が寄ってこない。そのため基本的にずっと一人で行動をしている謎多き人物。しかし、3015年の正義屋養成所襲撃事件の際に、反カルム国の組織・ベルヴァに所属していることが判明し、託された任務はグティを密かに護衛することだった。

ダグラス ミラ
正義屋養成所新所長(3015〜)
新入生歓迎会で突如として現れた新所長。顔はとても小さいのにも関らず身長は170cmあり、髪型はポニーテールでいつもミニスカートを履いている。そんなミラは正義屋養成所の男子生徒から多大なる支持を集めた。しかし何故か所長に抜擢されたのかは皆知らない。


―本編― 57.高貴な雪崩


ジェイルボックス 本館1F
「ようこそ、ジェイルボックスへ」
頑丈な鉄の二重扉を突破したその先には、巨大なプールの中に入れられた緑色の液体がサーという水声を立ててその場に浮かんでいた。ただの色のついた水と言えばそれまでかもしれないが、どこか殺気立ったその液体はグティ達の動きをピタリと止めた。
「この色って……」
グティは声を漏らした。六年前の海辺で見た夢に出てきた赤い狼が持つ『緑色の液体』にその色がそっくりだったのだ。(第1話)しかしこれはあくまでも異常に鮮明に見えた夢であって、現実ではない。そうはわかっておりながらも、グティはこれといった理由もなく緑色のプールへと足早に向かい、そおっと手を伸ばした。
「触るな!!」
緑の水面に右手を伸ばす少年の顔がグティだと判別できるほどまでに近づいたとき、扉の方から低めの雷声が本館内に響き渡った。
「アレグロ?どうしたんだよ、そんな大声を出して」
動きを再開させたパターソンはアレグロの聞いたことのない声量に内心震えていた。が、案外その必要はなかったみたいで、アレグロはまた口を紡ぎそっぽを向いてしまった。この鉄の箱にはやはり色のついた沈黙がお似合いのようだ。緑色の液体の鳴き声が音を独占する中、力強いヒールの音が水面すれすれの位置で動かなくなったグティの耳に段々強く聞こえてくるようになった。
「グティレス君。これは触ったら本当にヤバイやつだから、気を付けるんだよ」
そう声を発したのはミラだった。ミラはまさに『心ここにあらず』のグティを力づくでプールサイドの端に寄せると、案内人の目をぎょろりと見つめる。
「ところで今少しこの液体の水位が下がったような気がするんだけど、何か意味があるんですか?」
「あ、えぇ。このプールは貯水庫としての役割を果たしてまして、三階の研究スペースでこの液体が必要となった際にプールの底にある特別な装置で三階まで輸送するのです」
「つまり、ちょうどいま上に輸送されたというわけですね」
案内人が小さくうなずきかぶっていた黒のハットを手に取る。この施設の予習をしておいてよかった。そんな風に安堵しているようにも見えた。しかし一難去ってまた一難。ミラはヒールを踏み鳴らしながらずしずしと案内人に近づいていくとその手を両手で包み込み、
「是非、私たちをその三階に案内してくれないかしら」
と目を輝かせた。
「え、でも、それはさすがに……」
こちらもなかなか手ごわい。カルム国の人間が相手ならこの美貌で懇願されたら返事の選択肢は一つしかないのだが、この国ではそうでもないようだ。久々の体験に流石に焦ったのか、遂には案内人の手を全力の力で握りしめるという力業に出ることにした。
「いだだだだだ!!」
そんな男の声などミラには聞こえていないらしい。どんなにもがき続けても手を放そうとしないミラに恐怖した案内人は咄嗟に
「承知いたしました!」
と口走ってしまった。するとその言葉を合図にミラの手は先ほどまでが嘘のように力が抜けていき、ミラの粘り勝ちでひと段落が着いた。その様子を見つめるグティ達の視線の冷たさといったら、言うまでもないだろうか。
 
かん、かん、かんと階段を上る無数の足音がする。この研究所はどこまでも鉄が好きらしく、床や壁は勿論、階段や天井、電灯までもが殺風景な鉄の箱の一部だった。箱の外とは違いそんなつまらない景色でもグティ達には新鮮だったらしく、皆が首を回し辺りを見渡す。そんな間に気づいたら螺旋階段も終点に着き、グティ達は案内人の後を続き恐る恐る歩みを始めた。
「こちらが本館二階です。特に何かあるというわけではないですが、左下に見えますようにに一階の貯蔵庫が吹き抜けとなっております」
案内人が腰ほどの高さの鉄の手すりから細く血色の悪い手を出すと、グティ達は言われるがままその方角を瞰下した。二階は一階とは違いこれといった足場がほとんどなく、あるのは壁に沿った小道と、それらを繋ぐ三つの橋、そして本館に通じる鉄の扉のみだった。当然のことだが、二階というものは一階の真上に位置するフロアだ。それはつまり一歩間違えれば先ほどの危険なプールに真っ逆さまだという事も意味している。それを理解しきれていないのか、平気で進み続ける案内人とミラ、そしてアレグロは螺旋階段の手すりにしがみ付く三人を不思議そうに見つめていた。
「お前ら、何やってんだ」
アレグロは舌打ちで挟まれた棘まみれの言葉を吐き捨てる。もとはと言えばこの男がグティ達に恐怖を埋め込んだのだ。グティは数分前に怒鳴られたことを頭で思い返すと腹が立ってきたようで、手すりをしっかりと掴みながら眉間にしわを寄せアレグロを睥睨する。
「お、お前が脅かしたんだろうが!……第一この液体はなんでそんなにもあぶねぇんだよ!ただの色付き水じゃねぇか!」
「……お前、今なんか持っているか?」
「はぁ?」
グティは見当違いな回答にますますむかっ腹が立つ。が、ここで無視をするのもなんだか子供っぽいので、一枚大人であることを見せつけるためにポケットに入っていたクローバー模様のハンカチをアレグロに手渡した。
「よし。見てろよ」
あたかも当然かのように礼も言わずそのハンカチを奪うと、そのまま一階の緑のプールに向かって投げてしまった。
「あ!」
この男は何がしたいのだ。ひらひらと宙を舞うハンカチを目で追いながら怒りさえ含んだ短い声を上げる。しかし、次に出した同じ声は怒りや驚きではなく、恐怖でできたものだった。数秒前まで自分のポケットにあったお気に入りのハンカチは、ジュウという微音を立て一瞬にして消え去り少量の緑の灰となってグティの目の前を通過していったのだ。
「……あ」
グティは呆然としながら先ほど自分があの液体を触っていたら……と考えると震えが止まらなくなってきた。それはパターソンやチュイも同じだった。三人が息をしているのか怪しいほどまでに固まってしまったので呆れたミラはゆっくりと近づくと、
「じゃあ、三人は私と下でまっていようか」
と助け舟を出した。言葉は交わさずとも頭を何回も上下に振った三人は足早に階段を下ろうとした。
「グティレス・ヒカル!」
その瞬間、口荒にそう呼び止めると、グティは素早く近づいてきたアレグロに右肩をロックされ、
「お前は一緒に来い」
と、力づくで橋の上を引きずらていった。
「まって、まって。無理だから!なんで僕だけダメなんだよ!」
そう口では言い返していたが、じたばたした方が危険だと察したグティは身を流れに任せ目を固くつむった。
 
「おい、ここからは自分で歩け」
橋を渡り切り三階へ続く螺旋階段の前にグティは放り投げられた。
「アレグロ、お前な!」
丸みのあったグティの目がどこか鋭くなったように感じる。ジェイルボックスに入ってから散々な扱いをされたきたグティの怒りのボルテージはかなり蓄積されていたらしく、グティの体は唸り声を上げながら段々と青くなってきていた。
「……面倒な事を」
グティが怒りによって狼になってしまう事を知っているアレグロは、左の額に一滴の汗を垂らすと一歩後ろに下がり拳に力を込めた。その時だった。案内人が先に進んだ三階の方でジュウと何かが溶けるような音と共に爆発音と熱気が二階にまで伝わってきたのだ。
「何だ?!」
突然の出来事により、怒りを忘れたグティの体がどんどん人間に戻っていく。何が起こったのかわからないまま照明の消えた薄暗い三階を螺旋階段越しに見上げた。
「行くぞグティレス・ヒカル!」
アレグロはグティの隣を追い越しいち早く三階へと登っていき、グティもそのあとに続く。
「これは……やばいな」
三階に着いたグティは思わずそんな言葉をこぼした。グティの眼には、モニターとキーボードが置かれてある大量の机の横で大きな炎を上げながらこちらへと進んでくる火の手、そして何よりも壁に取り付けられた一階から輸送されたであろう緑の液体を貯めるガラス張りのタンクから、例の液体が漏れ出しているその様が印象的に映った。
「とにかく、一階のあいつらにこの状況を伝えてこの施設から脱出するぞ」
アレグロの言葉に久しぶりに激しく同意したグティは、
「そうしよう!」
と返事し、呆然としている案内人の服を掴みながら二階へと下った。が、予想外な出来事はどうも重なるようで、一階では入り口の二重扉から声を荒げる人々が雪崩のように入り込んできた。その人々に共通して言えることは皆身だしなみが高貴であり、その手には『敵国からのミサイル攻撃。直ちにジェイルボックスに避難せよ』という文字がでかでかと書かれたビラを握っていた。
「早く行けよ!俺は助かりてぇんだ!」
「ちょっと押さないで!お年寄りもいるのよ!」
「人が多くて苦しいよ!何があったの?!」
老若男女問わず様々な不満の言葉が増えていくと同様に、殺風景な鉄の箱に雪崩れ込んでくる人の数は増え続けていった。
「何が起こっているんだ!こんなもの何かの罠に決まっているじゃないか!」
人々の声を小耳に挟んだグティはあれほどまでに恐れていた橋の手すりから身を乗り出し、鳥瞰する。
「これが平和ボケした国の末路だ」
アレグロは静かに言い放つと、脱出を諦めたのか手すりにもたれるように腰かけ案内人を睨んだ。
「お前の仕業か?」
案内人は突然飛んできた疑いの目に手を横に振り回す。
「ち、違いますよ!私はS様からのお頼みを受けて」
「じゃあ、俺たちはどうしたら助かる?」
「……では、そちらの扉からプラネットに逃げましょう。そうしたら助けが来るまでの猶予が増えます」
案内人がプラネットに続く二階の鉄の扉を指目すると、タイミングよくその扉がゆっくりと横に開いた。そしてその中からは黒の服に身を包みライフルを手にもつ、いかにも犯人な男が三人ほど姿を現し、こうまくし立てた。
「ハイゾーンでふんぞり返っている連中!ごきげんよう。今日を持ってお前たちの地位は終わる。俺たちは……カギュウだ!!!」
 
 
       To be continued……    第58話・ひとの価値
ジェイルボックスに訪れた明確な危機。どうする、グティ達……2024年3月24日(日)夜投稿予定!ようやく動き出しましたね。ここまで既に七話。まいまい島編けっこう長くなりそうな予感……。お楽しみに!!
 


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