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連載小説【正義屋グティ】   第52話・巨大カタツムリ


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前話はコチラ→【第51話・学ぶ人】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
     【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(ヨハンとホークの出会い)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回のあらすじ~

正義屋養成所襲撃事件からおよそ一年と半年。正義屋養成所の四年生となったグティ達は約65年前に起きた世紀対戦について学び、五神の一人であるコア様がホーク大国に誘拐されている事を知る。当時危機感を持ったカルム国は、世紀対戦の舞台であるスノーボールアイランドに向かい、突如島を覆ったとされている謎の氷を自国に持ち帰り研究を試みた。が、未知の物体をカルム国で研究することの危険性を懸念した政府は、同じ中央大陸連合国のまいまい島にその研究を任せることにした。そして3016年の現代、まいまい島に新しく代わった首長と顔を合わせるためカルム国の外務大臣がまいまい島に向かっていた。その護衛を任されたのが、グティ達だった。



52.巨大カタツムリ

どこを見ても青ばかりだ。目線を上げると、終わりの見えない紺碧の空に、塊となって浮かぶいくつかの高層雲。何の邪魔もされないと、気持ちよさげに翼を広げる渡り鳥や、それに対抗すべく巻き上げる心地よい風まで吹いている。その対極に位置している海も、これまた青い。しかしこちらの青は少し異なり、飽きることなく動き続けては、大きな波音を立てながら船に打ち付けてくる。終いには、海上の人間たちの鼻に潮の香りを突き刺し、もし口に入ろうものなら暫くその者の口内を辛く刺激し続けてくる。いつもならこれだけなのだが、今日のこの地にはもう一つ青の要素が混じっていた。それはカルム国が用意した豪華客船一隻の先端に集まる正義屋養成所生の青い髪だ。彼らは国に指定された鮮やかな髪と、今回の任務のために特別に用意された衣装を風になびかせながら、目と鼻の先に広がるまいまい島を横目にはしゃぎまくっていた。
「グリル、見ろよ俺結構似合うくね?」
そう自身気に問いかけたのは「でかいだけ」で有名なデンたんだった。デンたんは身に着けた黒い半そでのワイシャツを両手で持ち強調させると、丈のあっていない黒ジーンズのズボンをじたばたさせた。
「え、けっこー似合うじゃん。まぁ俺も負けてねぇけどな」
グリルも負けじと両手を広げると、歯を見せニッと笑う。すると、それと同時に島の方から強風が吹いてきたようで、ボタンを一つも留めていないグリルのワイシャツはマントのように後方へたなびいた。
「うわー!それかっけえな!」
「だろ、だろ!あ、でも真似すんなよ。俺一人だからかっこいいんだ。二人もいると、なんかだせぇ」
「えー、そうなのか?俺はかっこいいと思うんだけどなぁ」
六つあるボタンの内上から二つを外したところで手を止めたデンたんは、悲しそうな顔で船の柵に腕を置いた。すねたのか?グリルは、デンたんにしては珍しいとは思いつつも、哀愁の漂うその背中に近づいてみることにした。
「デンたん……?」
グリルがその方に左手を置いたその時、デンたんは素早くグリルの方を向き、
「わぁ!!」
と大声を上げた。
「ひぇ!」
まさか突然2mの巨体に脅かされることなど、思いもよらなかったグリルは両手を天に向け、そのまま背後に座り込んでしまった。しかし、問題はそのあとだった。しばらく吹き続けていた突風によりグリルの着ていたワイシャツはどこか空高く飛んで行き、すでに手の届かない場所に行ってしまったのだ。
「あぁ!俺の服!!」
「あははははっははは」
「笑ってる場合か、アホ!てか、お前元気じゃねえか!よかったよ!」
笑い転げる巨人と、上半身裸で天を仰ぐ少年、空にはボタンの留まっていない黒のワイシャツがひらひらと宙を舞っている。こんな光景を間近で見ていたグティ達が笑いを堪えれるはずもなく、その場にいる皆が腹を抱えてけらけらと笑った。
「おーい、グリル。お前、服はどうした?」
どんなタイミングだよ。グリルは今一番合いたくなかった存在を目の前にして、ひきつった笑いを作って見せた。
「えっとー、なんか、空を飛びたがってて……」
「んまあ、グリルは帰国後ボコるとして……上裸で入国なんてする奴がいたら正義屋のメンツが立たないから、今回一緒に来てくれたミラ所長に事情を話して服もらってきて来い」
「え、ミラ……所長ですか?」
グリルの顔色が曇った。ウォーカー先生は、グリルの顔色を窺うと、大きなため息を放ち、
「仕方ねえから、俺も行ってやるわ」
と、船の中にグリルを連れて歩を進めていった。

船内に入り所長室につくと、白のワンピースに身を包みおめかしが終わったいつも以上に美貌を放つミラ所長を前にグリルはずっと俯いていた。
「……なるほど、ね。それじゃあ、今この船にある予備の服は、この二着だけどどうする?」
そう聞かれ、仕方なく顔を上げたグリルの選択肢として挙がったのは、オレンジ色の半そでの服か、今回の任務で女子が身に着けている黒のワンピースだった。
「これ、だけですか?」
不慣れな敬語を使い別の選択肢を見出そうとしたグリルだったが、その希望は
「はい」
という一つ返事であっけなく潰えた。

再び船の先端

「グリル君、どんな服で来ると思う?グティ」
「そうだな、まぁ結局前と同じワイシャツもらうんじゃないかな」
ソフィアとグティはグリルが消えていった方向をじっと見つめながら、そんな会話をしていると、遠くからその影がこちらへと近づいてきた。
「おいおい、グリル。お前それ」
船の柵にもたれながらサイダーを飲んでいたカザマは、思わず背筋を伸ばした。なんとグリルは、スミスやソフィア達が来ているような黒のワンピースを羽織り、この場に現れたのだ。
「グリル……なんだよそれ?」
デンたんはたどたどしい口調で尋ねる。
「デンたん、今は3016年。そういう時代なんだよ」
それまでただ眺めていただけだったスミスは、デンたんの背中に手を添えた。
「スミス……どういうこと?」
「まぁとにかく、人それぞれでいいじゃない」
これといった理由を聞かされず納得できていないのか、首を横に傾け歪んだ表情を作るデンたんの目の先には、何か言いたげな顔を浮かべるグリルの姿があった。グリルの着たワンピースはサイズがぴったりであり、皮肉にも少しばかり似合っていた。
「スミス、なんか気を使ってもらったとこ悪いんだが、」
満を持して大きな一歩を踏み込んだグリルが口を開けた。
「服がなかったから仕方なくこれにしただけなんだよ!だからそういう扱いすんじゃねえ!」
黒の裾から入り込んだ潮風がグリルのワンピースに浮遊感を与える。想像以上に声が出てしまったらしく、グリルは少し頬を赤らめ助けを求めるような眼差しで同級生の顔を一人一人見つめていった。が、残念なことに、皆はゆっくりと回れ右をして目の前の島に焦点をやると、
「見ろよ!あの島。でっけえカタツムリみたいだな!」
「そうだな!……楽しそうや!」
などと、あまりにもわざとらしい声を上げていった。
「なぁ、みんなどうしたんだよ急に」
未だに状況を理解できていないデンたんを除いて……。

まいまい島。中央大陸連合国の一つであり、十年ほど前からは中央五大国の一国を担っている。気候は万年真夏のような気候であり、太陽の出ている日は溶けるような暑さに耐えながら国民は日々過ごしている。この島は簡単に説明すると巨大なカタツムリのような形をしていているが、国民が住んでいるのはカタツムリの甲羅の部分であり、模様の渦巻きが小さく(内側)になるほど高い場所に位置し、模様が大きくなる(外側)の場所ほど低く位置している。この甲羅の頂上部分には首長が暮らしている王宮があり、今回カルム国の外務大臣が向かおうとしている目的地でもある。全国民が裕福で幸福度の高い国と評判だが、国内の情報はすべて国が介しているため、本当の国民の声を世界はまだ知らなかった。

   To be continued…       第53話・ゴージャスな茶会
幸せな国、まいまい島。その本性とは。 2024年1月28日(日)投稿予定!
久しぶりな平和回でした!書いてみると意外と楽しいのですが、無限にかけてしまう(笑)平和回はしばらく封印ですね。 次回もお楽しみに!!


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