マガジンのカバー画像

Bruder Mensch/親密な人

36
運営しているクリエイター

記事一覧

【詩の翻訳】赤い屋根/アルノー・ホルツ

【詩の翻訳】赤い屋根/アルノー・ホルツ

赤い屋根

僕は小さな、18歳の若者で、
顎を両方の拳にうずめて
腹ばいで寝っ転がって、
天窓から覗いてる。
僕の下に、傾斜のきつい中庭が。
僕の後ろに、放り投げられた本が。
フランツ・ホフマン……『奴隷狩り』……
なんて静かなんだ!

ただ向こう側にある木の節の雨どいの中で
麦わらを取りあって言い争う二匹のすずめと、
のこぎりをひく一人の男と、
そのあいだで、はっきりと教会からこちらへ、
少し間

もっとみる
【詩の翻訳】古いたんすの総ざらいのときに/クリストフ・メッケル

【詩の翻訳】古いたんすの総ざらいのときに/クリストフ・メッケル

古いたんすの総ざらいのときに

今日僕らは見つけた、古い戸棚の
引き出しを片付けているとき、出て行った家族たちの服を、
シルクハットを、フロックコートを、礼拝とお祭りにいくための
ニスの塗られたオーバーシューズを、
軽騎兵の、竜騎兵の、消防士の色鮮やかな制服を、そして思った、
古き良き時代を、無感動に。

僕らは服をバルコニーに吹く風の中へ掛けた、
うやうやしくではないが、しかしなんの
敬意もない

もっとみる
【詩の翻訳】ある少年の夏/カール・クローロ

【詩の翻訳】ある少年の夏/カール・クローロ

ある少年の夏

よく彼は丸めた足の指でさりげなく
謎めいたしるしをいくつも砂に描いた。
硬い実のなる茂みやスピノサスモモの木の中で
夏鳥が追いかけっこをしていた。彼の褐色の手は

丈夫な枝を曲げて釣竿にし、
葦から明るく響くフルートを切り取った。
夜には星々が冷ややかに彼の血の中でざわめき、
脆い夢々が転げ出てきた。

野いちごが彼のために口もとで熟れた、
彼がたわわな生垣から野いちごを取れないと

もっとみる
【詩の翻訳】ハーフェルラントのリベック村のリベックじいさん/テオドール・フォンターネ

【詩の翻訳】ハーフェルラントのリベック村のリベックじいさん/テオドール・フォンターネ

ハーフェルラントのリベック村のリベックじいさん

ハーフェルラントのリベック村のリベックじいさん、
庭に梨の木がありました。
こがね色の秋がきて、
見渡すかぎり梨が光り、
塔から正午の鐘が鳴り響くと、
リベックじいさんは両方のポケットをいっぱいにして、
木のサンダルの男の子がこっちに来ると、
こう呼びかけます。「僕、梨いらん?」
女の子が来れば、こう呼びかけます。「お嬢ちゃん、こっち来ねえ!梨ある

もっとみる
【詩の翻訳】父と子/フリードリヒ・シュナック

【詩の翻訳】父と子/フリードリヒ・シュナック

父と子

僕の手の中の小さな手、
若々しい草むらの中の僕とおまえ、
子どもの国の僕とおまえ、
僕らは長い通りを行こう。
僕の手の中のおまえの手!

僕の手の中の小さな手、
互いにやさしく握る。
僕とおまえ、長く続くものは何もない。
いつか、ああ!おまえと離れなければならない。
僕の手の中の小さな手。

僕の手の中の小さな手、
僕の歩みのそばの小さな歩み、
広い大地の中の小さな足、
いつかもう一緒に

もっとみる
【詩の翻訳】ゆりかごのそばの母/マティアス・クラウディウス

【詩の翻訳】ゆりかごのそばの母/マティアス・クラウディウス

ゆりかごのそばの母

ねんねよ、かわいい坊や、安らかに穏やかに、
おまえ、おまえのお父さんのそっくりさん!
それがおまえよ。でもおまえのお父さんは言うの、
鼻は似てないって。

ついさっきお父さんがここに来て
おまえの顔をのぞきこんで
言ったわ。「確かに僕に似てるところが多いけど、
鼻は似てないね。」

でも私は、小さすぎるだけで、
彼の鼻と同じに違いないと思うわ。
だって彼の鼻に似てないっていう

もっとみる
【詩の翻訳】黄金の球/ベリース・フォン・ミュンヒハウゼン

【詩の翻訳】黄金の球/ベリース・フォン・ミュンヒハウゼン

黄金の球

父が愛ゆえに私に何を与えたとしても、
私は父に報いることができなかった。というのも私は
子どものころまだ贈り物の価値を知らず
男になってからは男らしく厳しくなったからだ。

誰よりも熱烈に愛され、父の心を注がれた
息子は今や私へと成長し、
そして私はかつて与えられたものに報いているのだ、
私にそれを与えなかった人に——まだ返している。

というのも彼が男になり、男たちのように考えるとき

もっとみる
ゆりかごの歌/デトレフ・フォン・リーリエンクローン

ゆりかごの歌/デトレフ・フォン・リーリエンクローン

ゆりかごの歌

ドアの前で木は眠り、
庭中を夢が歩きまわる。
ゆっくりと月の小舟が漂い、
眠りながら雄鶏が鳴く。
お眠り、私のヴルフちゃん、お眠り。

お眠り、私のヴルフ。遅い時間に
私はお前の赤い口にキスをする。
お前の小さなぷくぷくの足を伸ばして、
まだ道や石ころの上には立たないで。
お眠り、私のヴルフちゃん、お眠り。

お眠り、私のヴルフ。時は来た。
雨がざわめき、風が吹き荒び、雪が降る。

もっとみる
敏感な耳/グスタフ・ファルケ

敏感な耳/グスタフ・ファルケ

敏感な耳

君は一人だった。
僕は鍵穴から
遅い時刻のランプの
くすんだ光をまだ見ていた。

どうして僕は立っているだけで中に入らなかったのか?
それでも燃えこがれ、
それでももう一度君の額をなで、
優しく囁かなければならなかったのは
僕だった、「どれほど君を愛していることか!」と。

昔からの邪悪な不安感が、
君に僕の心のすべてを見せて、
僕を次々と苦しませる。

今僕は長い夜の間じゅう寝転がっ

もっとみる
【詩の翻訳】子ども/フリードリヒ・ヘッベル

【詩の翻訳】子ども/フリードリヒ・ヘッベル

子ども

母は棺桶の中に横たわっている、
最後に美しく飾られて。
そのとき小さな子どもが中へ入って遊びだし、
母を見つけて驚く。

ブロンドの髪に埋もれた花冠が
子どもにはとても気に入ったのだ、
色とりどりに晴れやかに、
束にされた胸元の花は、もっとずっと。

そして穏やかに、ねだるように子どもは大声で言った。
「大好きなお母さん、僕に
お母さんの花束から一輪お花をちょうだい、
お母さんがとっても

もっとみる
【詩の翻訳】母/アルブレヒト・ハウスホーファー

【詩の翻訳】母/アルブレヒト・ハウスホーファー



僕は一本のろうそくの光の中であなたが
暗い門の枠の中に立っているのを見ている。
あなたは冷気が山から吹いてくるのを感じる。
寒かろう、母よ……それでもあなたは戻らない。

あなたは見送る、夜中に
まだわからない、暗い運命の期日へと急ぎ帰ってゆく僕を。
湛えた微笑みはかえって泣くのと同じこと、
伴う痛みは、どんな信頼でも癒せない。

僕はあなたが愛の光のなかで、
白い髪を震わせて立っているのを

もっとみる
【詩の翻訳】あこがれ/リカルダ・フーフ

【詩の翻訳】あこがれ/リカルダ・フーフ

憧れ

君のそばにいるためならば、
私は苦しみや危険を引き受けるだろう、
喜びと家と
地上の富を捨てるだろう。

私は君にこがれる、
満ち潮が砂浜にこがれるように、
秋のつばめが
南の国にこがれるように。

家で、夜に一人きりで、
月の光に包まれた
雪の積もった山を思うときの
アルプスの人のように。

Ricarda Huch: „Sehnsucht“, Hrsg. von Ernst Meyer

もっとみる
【詩の翻訳】盲人の独白/エーリヒ・ケストナー

【詩の翻訳】盲人の独白/エーリヒ・ケストナー

盲人の独白

すれ違う人たちは皆、
通り過ぎてゆく。
僕が盲人だから、僕には立ち止まる人が見えないのか?
僕は3時からずっと立っているのに……

今、また雨が降りだした!
雨が降っているとき、人は善良ではない。
そういうときに僕に出くわした人は、
まるで僕と出会わなかったかのようにふるまう。

僕は目を持たずに街中に立っている。
両目が鳴り響いて、まるで海に立っているみたいだ。
夜に僕は一匹の犬の

もっとみる
【詩の翻訳】家のまわりに風が吹く/ヴォルフガング・ヴァイラオホ

【詩の翻訳】家のまわりに風が吹く/ヴォルフガング・ヴァイラオホ

家のまわりに風が吹く

風が、風が、家のまわりに吹いている、
僕らはスープを平らげて、
それから楽しく眠りにつく。

しかし突然僕らはまた目を覚ます、
なんて悲痛なああ、という声、
僕らはもう眠れない。

それはああ、うう、という、
キリストが最後の祈りを捧げた地で当時聞こえたような声で、
そのときも誰も眠れなかったのだ。

それは風ではない、それは嵐ではない、
それは森の中の虫でもない、
それは

もっとみる