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波 紋

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今度こそ本当の波紋
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ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

34 不為な家事 年末、どことなく浮かれたような雰囲気が漂ってくる。私は、仕事がら年末年始の休みはなく、普段と変わりない。毎年これといって仕事納めも始めもなく、淡々と年をまたぐ。 シフトの調整のため、飛び飛びで休みはあり、掃除などをして過ごしている。 今日も冬晴れのいい天気だ。朝、窓を開け放ち、冷たく澄んだ空気を部屋に入れる。 こたつを上げ、箒で部屋を掃く。 溜まったホコリが日の光に反射しながら舞い上がり飛んでいく。 私は家事全般が好きで、できれるなら主夫になりたいと

ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

33 一日一畳 今日は今年一番の冷え込みらしい。 雪の予報は外れ、朝、東の窓のカーテンを開けてみると眩しい陽が差してきた。 窓についていた雫が垂れ落ちている。 結露というのはあまり好まれないようだが、私はこの水と光と温度の微妙なバランスによって演出される冬の窓が好きである。 ガラスを這いながら垂れ落ちる水滴は、途中で止まったり、隣のやつとくっついたりと、生き物のような振る舞いをみせ、いくつもの跡を残しながらいつの間にか消えていく。 コタツに入り、背を座椅子にもたれかけ、首だ

ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

32 指南カフェ 左後ろの席から聞こえてくる会話が気になる。 一人の中年男が同じく中年の男女2人に何かの指南をしている。 「年金・・・」 「不安、・・・」 「あやしまれたら・・・」 「楽しい気持ちにさせる・・・」 「一回引くってのが大事・・・」 「あなたを誘っているのではないという・・・」「私があなたをだます人間だとおもってんの?とか・・・、」 「そこはオブラートに包んで・・・」 「月3人とか・・・、そこは目標設定して・・・」 宗教ではないらしい。 会話の内容は聞き取

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31 四十路経 数日間昼夜逆転の生活が続き、すっかり本来の夜行性が戻ってしまった。 深夜、低くラジオをかけ、クローキーにどうでも良いドローイングなどして眠気が訪れるのを待つ。 2時すぎ、スマホを開くと母親からラインが入っていた。 [じいちゃんが亡くなりました。連絡ください]20:20 その時間はまだ仕事中だったため、受信に気づかなかった。帰宅してもなぜかその日はスマホを離していた。 [わかりました] と、一応そっけない返信をしたが、母はもう寝ていたようで、折り返しの連絡は

第1回 かみのやま温泉駅(山形県)

2021年12月30日収集。 かみのやま温泉駅に到着し、わたしは早速スタンプ台を探した。 ずいぶんとキョロキョロしていたので、このままでは不審者に間違われてしまうのではと思い、自分で探すことを諦めて駅員さんを頼ることにした。 みどりの窓口には、3人ほどの駅員さんがいた。わたしと友人以外には誰も客がおらず、3人の視線は一気にわたしたちに集中した。これからスタンプ台の在処を聞くことが恥ずかしく思えるくらい、なぜか自分自身に緊張が走る。 「どうされました?」 「あの、記念スタ

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29 高松夜話 瀬戸内。二日目も朝から晴天。 豊島と小豆島を見て回った。フェリーのデッキに座り、缶ビールを片手に、夕日に染まる島々をながめながら高松に戻ったのは18時半。 連泊することにした宿に再度チェックインする。昨日と同じ手順なので、説明の電話はさらにそっけなく、鍵の入った金庫の番号だけを告げられて終了。今日も風呂は沸いていない。 荷物を置き、シャワーを浴びて、軽く飲みに行くことにした。 昨日少し目星をつけていた居酒屋が軒を連ねる路地を目指す。 全く調べず、細い路

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28 ベリーライトトリップ 夜半雨が激しくなった。 8月28日午前0時18分。 ネット検索。瀬戸内国際芸術際2022。 サイトを開いてすぐ何故か調べるのも面倒く味気ないので、すぐに閉じる。 一昨日、飛行機のチケットは取った。 行くことは行くが、それ以外はノープランである。 ベリーショートトリップ。夏休み特別企画として、ちょと足を伸ばし、瀬戸内までライトトリップとすることにした。 目的は瀬戸芸を見に行く事ではない。見ることは見るが、夜勤明けで2泊3日の日程では点在す

ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

27 鉢植え録 その鉢植えを私はいつから所有いているか覚えがなかった。 少なくとも10年くらいになるだろうか。何度か枯れかけたが、水さえ切らさねければまた生気を取り戻し、緑の葉を茂らせた。 この葉っぱは一体何なのか、長い間特に興味もなかったが、数年前、この植物が何かを知る出来事が起こった。 初夏だったと思う。玄関で靴を履いている際、ふとその鉢植えを見ると、半ば木になりかけた茎の部分が緑色に膨らんでいる。 よく見ると、それは小指半分ほどの青虫だった。ちょうど葉の色と同化し、

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26 憑き物にちなんで 猛暑が続き、7月を待たずして梅雨が明けたという知らせを聞き、身を乗り出して今年は長い夏を期待したのに、7月に入った途端、空梅雨から一転、雨続きというわけのわからない天候。乗り出した身はズッコケて伏したまま起き上がる機を失った。 時折晴れ間ものぞいたが、重たい雲が垂れ込め、不穏な冷たい風がどこからともなく吹いてきたり、不意に気温が上がったり下がったり。どうも気分の冴えない日々が続き、気づけばもう末日。 この一ヶ月何をしてたのかというと、スーパーで買った

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25 バナダンと明け天 バナダン。といっても誰もピンとこないだろうが、私の中ではだいぶ前からこの呼び方が定着している。 アフリカの友達の名前のような呼び名は、何のことはない、バナナが入っているダンボールのことだ。 さて、前回紹介した例のイベントの概要は次のようなもの。 昭和期の闇市や夜店のように、ござを敷き「作物」を並べる。 「作物」とは、 売るほどでない作品。 制作過程で出たような作品未満のもの。 既製品だが何かしら手を加えたもの。 実家にあるような、何だかわか

ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

24 採集日 6月某日。晴れ。気温が高い。汗ばむ陽気。河原。丸い手のひらサイズの小石。20個ほど。 6月某日。晴れ。気温が高い。吹き抜ける風。某デザイン事務所。置いていたイベントで使ったゴミ。ダンボール一箱。 6月某日。晴れ。風が心地よい。亡くなった美術作家のアトリエ。絵の具や画材、創作で出たゴミのようなもの。ダンボール3箱。 6月某日。くもり。湿気が高い。実家の六畳。昔書いた絵の残骸。植物図鑑。 6月某日。晴れ。心地よい晴天。海辺。流木、プラスチック、錆びた鉄クズ。

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23 Medium 5月中の休みはほとんど家にいて作業をしていた。 知人のイベントに使う飾り付けを作っていたのだ。仕事のあった日も夜22時頃から机に向かい、手内職のような夜なべ仕事が続いた。 家の一間は足の踏み場もないくらいの惨状となったまま半月が過ぎた。 ようやくイベントが終わ って、少しずつ部屋を片付けをする夜。制作の過程で出たゴミくずや、試作で使った素材などを手にとって眺めながらぼんやりと過ごしていた。 この制作で出たゴミのようなもの。これがなかなか曲者なのである

ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

22 痴呆町 大型連休も過ぎた5月の初旬。 賑わった各地の喧騒はどこへやら。 地方のまた地方の町の、緩慢とした駅前広場。 平日の午後。 一時間前からバスをまっている。 まるで浮遊霊のように漂う人がちらほら。 ベンチに座ってるおかっぱ頭のメガネをかけたおばさんは何を待ってるのか。 スーツ姿の男もずっとスマホを見たまま30分。仕事をしているのか、ただスーツを着ているだけのか。 赤ら顔パーマヘアーのリュック中年男は、バスが来る前にどこへともなく歩いていった。 空はどんよりとし

ベリーショートトリップ〜たまにどこかにいっている〜

21 春化 すっかり春めいた4月の初旬。春の植え付けに向けて、畑の土を起こしに行いった。 チンゲン菜、大根菜など、菜花系の葉物が秋口に一度食べるぐらい収穫したきりそのままになっている。冬に入る前、引っこ抜いて片付けようと思ったが、わずかに葉に緑色を留めており、枯れるに任せて放っておくことにした。 その後、時折様子を見に行くと、これが一向に枯れる気配はない。そして氷点下が続く極寒の1月、2月も耐え忍び、縮こまりながら冬を越した。 それが3月も中頃。いよいよ待ってましたとば