私小説的

何者かになりたいわけではなくて、僕は僕を取り戻したい。

■「人間のやわらかい部分」と「もののあはれ」

数年前、大学の講義で観察映画を通じて「人間のやわらかい部分」について考える時間があって、その時のことを思い出した。

講義後、先生に話しかけたとき、本居宣長の詠んだ「事しあればうれしかなしと時々にうごくこころぞ人のまごころ」は「人間のやわらかい部分」と通じているのだと言っていたことが、深く印象に残っている。

ここで言う“まごころ”とは、誠意とかあた

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1994年、恵比寿と母とメリークリスマス。【東京シモダストーリー第3回】

東京に生まれ、33年を生きてきた僕・霜田明寛が、消えゆく平成の東京を綴るエッセイの第3回です。
“平成の東京”であり“僕の平成”であり“僕の東京”……2000年(14歳)、2003年(17歳)ときましたが、今回はさらに過去の“9歳”へ……!


2019年の成人の日。僕は、俳優の中川大志さんの“はたちを祝う会”というイベントの司会をするために、恵比寿ガーデンプレイスに向かっていた。
大事なイベン

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中学生団員⑤

最初は給食の時間にだけ起きていた吐き気と動悸が、だんだんと他の時間にも起こるようになった。

例えば帰りの会で突然吐き気に襲われて誰が何かに表彰されておめでとうみたいな話の途中で駆け帰ったり、一時間目の授業が始まって一分で吐き気に襲われて誰かが何かの変で殺されてかわいそうみたいな話の途中で教室を飛び出してトイレの個室にこもったりした。

トイレの個室に入ったらもう吐き気は全くなくなって、また戻ろう

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中学生団員④

「いい?俺が1、2、っていうから、それに合わせてリズムよく1、2、って乗ってね。乗ったら背筋伸ばしてバランスとって、うん、それで適性調べるからさ、うん、じっとしてて。あ、降りるときも俺の合図に合わせて1、2、ってタイミングよく降りてね。勝手に降りたりとかすると危ないから、俺の合図に合わせてね。うん。じゃあ、誰からやる?」

ニヤニヤした1年生3人組が互いに順番を譲っている。気色悪い譲り方をしている

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中学生団員③

クラスメイト達の会話が、反吐を吐くほど面白くない。

「反吐が出そうだ」という台詞が、比喩ではなく実際に生理現象として起こるとは思っていなかった。勉強になった。
やっぱ学校に行くと、勉強ができる。

そんな理由で体調を崩していいのか?

いや、崩してしまっているのだから仕方がないのだけれど。

別に俺が特別面白いわけではないし、小学校までの友達が神がかって面白すぎたということもないような気がする。

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中学生団員② (団員)

給食の時間になると吐き気と目眩がするようになり、初日は風邪かなんかだと思って早退して病院行って家で寝てみたら元気になって、次の日は普通に学校に行って普通に四時間目まで授業を受けて、それで給食の時間になったら、また吐き気と目眩。

次の日も、その次の日も、給食の時間になると吐き気と目眩。頑張って一口だけ食べてみるけど、その後はもう一点を見つめてじっと固まりL'Arc~en~Cielの「STAY AW

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中学生団員① (団員)

「キーンコーンカーンコーン」

ってみんなには聴こえてるらしいけど、それってさ、「鐘は『キーンコーンカーンコーン』って音だ」っていうのを最初に言われているから「キーンコーンカーンコーン」って鳴っているように聴こえてしまっているだけで、思い込んでしまっているだけで、先入観を取っ払って冷静に聴いてみたら「キーンコーンカーンコーン」だなんて聴こえないと思うわけ、現に俺には「ラーヌーゲーポー」って聴こえて

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2003年、18歳、三軒茶屋。~Complicated~【東京シモダストーリー第2回:後編】

ついに第1回で書いた、渋谷区桜丘町の道が“廃道”になりました。
ハイドウ。そんな言葉、初めて聞きました。
ということでこれは、東京に生まれ33年間を生きてきた僕・霜田明寛が、消えゆく平成の東京を、当時のカルチャーと交えながら綴っていくエッセイです。 
2回目の三軒茶屋編は、前編・中編・後編の3部作になってしまいました。
嵐の『できるだけ』を聞いていた高3の僕の話を中編で書いて、
後編にもというか、

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まほうを使わなくなったとき(雑記)

魔法は小さい頃みんな使えるんだよ。
と少女は語る。

黒々としたアスファルトの上、小さな影たちがゆっくりと坂を降りていく。小学生の少女3人組が並んで下校していた。高学年と言ったところか。

はつらつとしたズボン姿のボブ子と凛としたポニーテールのスレンダーの子と二つ結びのおっとりとしたメガネっ子。それぞれの個性が光っている。

真面目にボブ子は話続ける。

だからね、人間は魔法を使えるんだけど忘れて

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高田馬場でトーフをどーぞ。

学生の活気に背中を圧される高田馬場。

早稲田口改札では忙しそうに改札のドアが閉じることを諦めてピッピッと音鳴らしに徹している。"早稲田"と改札口に名前が付いているせいか、学生ばかりが目に入る。

高田馬場は若い。そんな第一印象であった。

夜20:00。駅を出ると道路の白線とビル群から光がぼぉっと道を照らしている。雪か雨か分からない中、傘を差した。傘の大群に埋もれると他者との距離が近く鬱陶しい。

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