葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂け…

葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂ければ幸いです

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小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

独身の棚内昭子はこの道のプロである。この道と言うのは、スーパーのレジ打ちであった。地元のスーパーで働き始めたのは二十歳の春。 気が付けば28年も働いていた。年齢…

第90話「世の中はコインが決めている」

 正論くんから衝撃的な発言を聞いて、もっとも驚いたのはハナちゃんだった。  そりゃ、狛さんが一度死んでいると聞いたら、そんなリアクションになるだろう。だけど僕は…

第89話「世の中はコインが決めている」

 正論くんがノートに書いた詳細を見せてくれた。十年前、絵馬カナエは銀次郎が設立した『名もない会社』へ誘われる。同時期、鳥居二子も誘われたと思われる。だが同年、鳥…

第88話「世の中はコインが決めている」

 様子がおかしかったのは、縁日かざりだけじゃない。狛さんの様子もおかしかった。戸惑いながら、僕はゆっくりと狛さんへ近づいた。そのとき、背後でドアの閉まる音が聞こ…

第87話「世の中はコインが決めている」

 駅へ到着すると、僕はタクシー乗り場に留まっていたタクシーへ慌てて乗り込んだ。この時間帯なら電車より車の方が早い。目的地を告げると、運転手へ急いで行ってくれと頼…

第86話「世の中はコインが決めている」

 真実がわかった以上、縁日かざりと直接会って止めなければいけない。そう決意したとき、僕の胸で泣きじゃくる露子が顔を上げた。 「はじめくん、もう一つ話があるの。私…

第85話「世の中はコインが決めている」

 始まりは廃墟へ行った日だった……  廃墟へ来てから、僕たちグループは二手に分かれた。倉木先輩と神宮寺と縁日かざり。そして、僕と露子の二人。そのあと、僕と露子は…

第84話「世の中はコインが決めている」

 果たして、露子は部屋に来てくれるのか?これは一つの賭けだった。来なければ僕に対して隠し事があるということ。部屋に来てくれたら、縁日かざりと一緒に来るかもしれな…

第83話「世の中はコインが決めている」

 せっかくの休日だったけど、のんびり過ごすわけにはいかない。だが、何かしないと気が紛れなかったので、溜まった洗濯物を洗濯機へ放り込んでいた。  すると、テーブル…

第82話「世の中はコインが決めている」

 こんな非常事態にも関わらず、仕事は仕事として出勤しなければならない。早く、縁日かざりの件を解決させなきゃいけないのに。無意識に深い溜息を吐いてしまう。  工場…

第81話「世の中はコインが決めている」

 縁日かざりが発狂したあと、大声で泣き叫んだ。目は充血して、鼻水を垂らしながら嘔吐しては泣く。呆気にとられて、僕はオロオロするしかなかった。  すると、急にピタ…

第80話「世の中はコインが決めている」

 僕が縁日かざりと出会い、最愛の恋人と別れた思い出。過去を振り返ってみても、縁日かざりという女性は不思議な存在だと思い出す。  物語は現在に戻り、縁日かざりの話…

第79話「世の中はコインが決めている」

 理由を知りたいと言った時点で、僕はさっき聞いた話が頭に浮かぶ。廃墟で男女が情事を行なっている。麻呂さんが瞳だけを動かして、知りたいのか解答を待っていた。 「知…

第78話「世の中はコインが決めている」

 ツンデレの麻呂さん、今はどっちなんだろうか。その辺のところはわからないけど、今夜は良く話してくれた。 「変な噂は聞いてたの。はじめくんは知ってる?」 「変な噂…

第77話「世の中はコインが決めている」

 火の玉は科学的に立証されていると聞いたことがある。オバケという類ではなく、科学的に火の玉っぽい青白い光が浮遊するらしい。  詳しくは知らないけど、テレビで観た…

第76話「世の中はコインが決めている」

 目的の廃墟に着く前、神宮寺が病棟の話をしてくれた。昭和四十年頃、山間の小さな集落で謎の奇病が流行ったらしい。政府は感染を恐れて、奇病にかかった患者を収容するよ…

小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

独身の棚内昭子はこの道のプロである。この道と言うのは、スーパーのレジ打ちであった。地元のスーパーで働き始めたのは二十歳の春。

気が付けば28年も働いていた。年齢も四十八歳と肌の折り返し地点に迫る。見た目は四十代前半に見られるが、年々足腰が弱くなってきてると、最近の昭子は口にしていた。

それでもレジ打ちに関しては年々速くなると言っていた。つまり昭子は歳を重ねるごとに、レジ打ちのスピードが上がって

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第90話「世の中はコインが決めている」

第90話「世の中はコインが決めている」

 正論くんから衝撃的な発言を聞いて、もっとも驚いたのはハナちゃんだった。

 そりゃ、狛さんが一度死んでいると聞いたら、そんなリアクションになるだろう。だけど僕はイマイチピンときていない。一度死んだと言われても、曖昧な言い方だったし理由も聞かされていないからだ。

「どういう意味で言ってんの。正論くん、説明しなさいよ」と声を大にしてハナちゃんが言う。

「言うなれば、ハナちゃんの中で絵馬さんは一度

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第89話「世の中はコインが決めている」

第89話「世の中はコインが決めている」

 正論くんがノートに書いた詳細を見せてくれた。十年前、絵馬カナエは銀次郎が設立した『名もない会社』へ誘われる。同時期、鳥居二子も誘われたと思われる。だが同年、鳥居二子は家を出て行ったきり帰って来ない。

 数年後、銀次郎がスナックを訪れる。そして、草刈華子(ハナ)へ絵馬カナエが亡くなったことを話した。

 このとき、ハナちゃんは絵馬カナエが銀次郎の愛人だということを知る。銀次郎本人から聞いたからだ

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第88話「世の中はコインが決めている」

第88話「世の中はコインが決めている」

 様子がおかしかったのは、縁日かざりだけじゃない。狛さんの様子もおかしかった。戸惑いながら、僕はゆっくりと狛さんへ近づいた。そのとき、背後でドアの閉まる音が聞こえた。振り向くと、正論くんが息を切らして入って来た。

 どうして彼がここへやって来たのか、訳も分からないまま僕は正論くんを見つめた。

「やれやれ、間に合ったような間に合わなかったような。そんな感じみたいだな。やられたよ。まさか、縁日かざ

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第87話「世の中はコインが決めている」

第87話「世の中はコインが決めている」

 駅へ到着すると、僕はタクシー乗り場に留まっていたタクシーへ慌てて乗り込んだ。この時間帯なら電車より車の方が早い。目的地を告げると、運転手へ急いで行ってくれと頼んだ。

 向かってる途中、正論くんへ連絡を入れたが仕事なのか出てくれない。ハナちゃんに関しては連絡先さえ知らない。下手すりゃ、ハナちゃんだって危ない。

 いや、ハナちゃんより、狛さんに連絡すれば良い。慌てて狛さんの電話番号を押した。

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第86話「世の中はコインが決めている」

第86話「世の中はコインが決めている」

 真実がわかった以上、縁日かざりと直接会って止めなければいけない。そう決意したとき、僕の胸で泣きじゃくる露子が顔を上げた。

「はじめくん、もう一つ話があるの。私、逆らうことができないから従うしかなかった」

「何か命令されたのか?」

「実は数日前、突然かざりから連絡があったの。あの日の恐怖があったから言われるままに従った。深夜のファミレスに呼ばれて、ある事をやって欲しいと頼まれたの。それを成功

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第85話「世の中はコインが決めている」

第85話「世の中はコインが決めている」

 始まりは廃墟へ行った日だった……

 廃墟へ来てから、僕たちグループは二手に分かれた。倉木先輩と神宮寺と縁日かざり。そして、僕と露子の二人。そのあと、僕と露子は身体の関係を持った。

「あのとき、部屋に入る前、物音が聞こえたのを覚えていない?」と露子が訊いてきた。

「覚えてるよ。確か、僕たちの背後で物音が聞こえた。あのときは気のせいだと思っていたけど」

「あれ、かざりが私たちを後ろからつけて

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第84話「世の中はコインが決めている」

第84話「世の中はコインが決めている」

 果たして、露子は部屋に来てくれるのか?これは一つの賭けだった。来なければ僕に対して隠し事があるということ。部屋に来てくれたら、縁日かざりと一緒に来るかもしれない。

 それはそれで核心に迫れる。

 迷った挙句、露子は部屋へ来ることを選んだ。一時間後に到着するということで、僕は待っていると言って電話を切った。

 正論くんへ報告しようと思ったが、一人で解決したかったのでやめた。それに露子と縁日か

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第83話「世の中はコインが決めている」

第83話「世の中はコインが決めている」

 せっかくの休日だったけど、のんびり過ごすわけにはいかない。だが、何かしないと気が紛れなかったので、溜まった洗濯物を洗濯機へ放り込んでいた。

 すると、テーブルの携帯電話が鳴り慌てて洗濯機の前から早足で部屋へ戻った。知らない番号だったけど、もしかしてハナちゃんかもしれない。

 そう言えば、彼女と番号交換をしていなかったな。

「はい、もしもし」電話に出ると、数秒ほど間があった。

 間違い電話

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第82話「世の中はコインが決めている」

第82話「世の中はコインが決めている」

 こんな非常事態にも関わらず、仕事は仕事として出勤しなければならない。早く、縁日かざりの件を解決させなきゃいけないのに。無意識に深い溜息を吐いてしまう。

 工場が見えたとき、何度目かの深い溜息を零した。出入り口のチェックを受けて工場へ入る。更衣室で着替えを済ませて、持ち場に着くと生産数を目に通した。

 チラッと絵馬さんを見たが、他の社員と愉しげに喋っている。

 以前の絵馬さんに見られない光景

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第81話「世の中はコインが決めている」

第81話「世の中はコインが決めている」

 縁日かざりが発狂したあと、大声で泣き叫んだ。目は充血して、鼻水を垂らしながら嘔吐しては泣く。呆気にとられて、僕はオロオロするしかなかった。

 すると、急にピタッと泣き止んだ。あれだけ発狂して泣き叫んだ挙句、彼女は澄ました顔で虚ろな目をしている。感情の起伏が激しいとか、そんなんで片付けられない。ただただ恐怖を感じるのだった。

「ふふ、ふふふ、ごめん。ごめんなさい。私の勝手な独りよがりだったよね

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第80話「世の中はコインが決めている」

第80話「世の中はコインが決めている」

 僕が縁日かざりと出会い、最愛の恋人と別れた思い出。過去を振り返ってみても、縁日かざりという女性は不思議な存在だと思い出す。

 物語は現在に戻り、縁日かざりの話を聞いてるところだった。

「私ね、まだ処女なんだよ」と縁日かざりが口許に笑みを浮かべて言う。

「そ、そうなんだ」と僕は真顔で言った。笑わないと約束したので、もちろん表情に出さなかった。

「驚いた?」

「いや、経験のない子は世の中に

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第79話「世の中はコインが決めている」

第79話「世の中はコインが決めている」

 理由を知りたいと言った時点で、僕はさっき聞いた話が頭に浮かぶ。廃墟で男女が情事を行なっている。麻呂さんが瞳だけを動かして、知りたいのか解答を待っていた。

「知りたいかな?」と少々マヌケな声で言った。

「……こっちに来て座らない」と麻呂さんがふっくらとした唇を動かして呟いた。

 無意識に懐中電灯を消して、僕はベッドへ近寄った。緩やかな風を顔に感じながら、ベッドの上へ座るとギシギシと音が鳴る。

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第78話「世の中はコインが決めている」

第78話「世の中はコインが決めている」

 ツンデレの麻呂さん、今はどっちなんだろうか。その辺のところはわからないけど、今夜は良く話してくれた。

「変な噂は聞いてたの。はじめくんは知ってる?」

「変な噂?知らないけど」

「廃墟サークルという隠れた目的のことよ。今日みたいな廃墟に女の子を誘って、良からぬことを考えているの。無理矢理じゃないらしいけど。それでも雰囲気に負けて関係持っちゃうらしいよ」と麻呂さんが眉を寄せながら言う。

 そ

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第77話「世の中はコインが決めている」

第77話「世の中はコインが決めている」

 火の玉は科学的に立証されていると聞いたことがある。オバケという類ではなく、科学的に火の玉っぽい青白い光が浮遊するらしい。

 詳しくは知らないけど、テレビで観たことがあった。

「なんやなんや、面白いことになってきたで!ほな、もっと奥に進もうか!」と倉木先輩が面白半分に言う。

「鳥居、お前怖いんじゃねぇの。怖かったら車で待ってろよ」と神宮寺が笑いながら言う。

 そう言ってくる奴ほどビビってる

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第76話「世の中はコインが決めている」

第76話「世の中はコインが決めている」

 目的の廃墟に着く前、神宮寺が病棟の話をしてくれた。昭和四十年頃、山間の小さな集落で謎の奇病が流行ったらしい。政府は感染を恐れて、奇病にかかった患者を収容するように山奥へ病棟を建てた。

 だが、集落で発生した奇病は収まるどころか、次々と感染者が出た。そのうち、村人全員が感染者となり、世に知れ渡る頃には村人全員が山奥の病棟へ移された。

「当時、その病棟で働いていた医者の証言から世に知れ渡ったらし

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