大谷久

名古屋生まれ、札幌在住の小説家。ガガガ文庫にて自著「いばらの呪い師」1~3巻、「罪都B…

大谷久

名古屋生まれ、札幌在住の小説家。ガガガ文庫にて自著「いばらの呪い師」1~3巻、「罪都B×B」発売中。「脱衣伝」1,2巻も発売中!

最近の記事

謎の修学旅行のはなし

先日、妻と中学生時代の修学旅行の話になった際、 降って湧いた謎な話を綴ってみようと思います。 最初に言っておきますと謎は謎なままこの話題は終わってしまうので、 もしよかったらこのノートを読んだ皆さまからお知恵を貸して 頂きたかったりもします。 さて、妻の中学生時代の修学旅行、 この話題になった時にそもそも妻はだいぶ昔の話なので 記憶がほんとうに曖昧で、はっきりと思い出せないと話していました。 それを踏まえて、なのですが 謎なのはその修学旅行の旅程なのです。 子どもの頃、

    • 「人の話を聞かない妻」のはなし

      突然の自分語りをする場としてこの場所を使おうと思う。 これは私が十数年かけて経験してきたことであり、得てきたことでもある。 話は私の妻についてだ。 私の妻は彼女の母親からも「この子は人の話を聞かないのよ!」と事あるごとにお怒りの言葉を頂戴している程に「人の話を聞かない人」らしい。らしい、と書くのは私自身が本当に人の話を聞かない人なんているのだろうかと懐疑的に考えているからである。 そもそも「人の話を聞かない」とはどういうことだろうか。ごく当たり前に使われている言葉である。

      • 『純潔』

         副題 悪魔に「小」がつかない幾つかの理由  酩酊である。  なにに酩酊しているのか、それすらもわからぬ程の揺蕩なる心持ちである。  けれども意識はあり、五感は未だ手放してはいない。  その証拠に私の不細工な鼻にはこの部屋に漂う菫の香の匂いが届いていた。  爽やかでもなく、甘くもない、麝香のようでもない。  なにやら淫らな香りのように私は思う。もしこの世に悪魔がいるのだとしたら、悪魔の体臭とは菫香に近いのではないかと、私は推測している。 「麦酒を舐めて唸っているだけじゃあ、

        • がんばれいわ!!ロボコン ウララ〜!恋する汁なしタンタンメン!!の巻 を今年中にどうしても見たかった話。

          どうも全中華! がんばれいわ!!ロボコン ウララ〜!恋する汁なしタンタンメン!!の巻をようやく見ました、という思いを伝えたくて久々にnoteを開きました。 そもそもこの映画は今年の7月に公開された映画でしたが、昨今のコロナ禍の中、興味はあったものの劇場まで足を運ぶことを躊躇ってしまい、結局見られないままになってしまっていました。 けれどやっぱり見たい。 今年はコロナの影響で映画を観に行く機会がぐんと減ってしまった。 だからこそ動画配信サービスで見られる映画は積極的に見てい

        謎の修学旅行のはなし

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路9

           サーカム保険会社保養所と名付けられた施設は、保養所とは名ばかりで内部は最先端の医療機器が揃えられた最先端医療の現場だ。  恋路は例の彼女のツテでそこに運び込まれ、救命手術を受けたのは一ヶ月も前の出来事だった。  しかし恋路の怪我は重傷だった為、適切な処置をし目覚めるに充分な状態であるにもかかわらず彼が目を覚ますことはなかった。  代わりにというにはいささか不謹慎だが、目を覚まさない彼に触れると自身の才能が極限まで開花するという噂が病院内で広まるようになり彼の病室を訪れる者は

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路9

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路8

           折枝鼎は工場を後にしようと脱出用通路を歩いていた。  手駒にしたはずの四人の傭兵の断末魔は鼎の元にも届いていた。  そして外に控えているはずの協力者とも連絡が取れなくなっている。  状況は不利な方へと進んでいると考えた鼎は、これ以上この工場に留まっている意味はないと判断したのだ。  残された手駒である傭兵の最後の一人、傭兵部隊イーヴィル・エンパイアの傭兵長を恋路へと差し向けているが、他の傭兵があっさりと始末されたらしいという状況から推察しても、彼が恋路をどうにか出来るとは考

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路8

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路7

           鼎が訪れている廃工場の裏側、そこには物資搬入用にトラックや大型車でも入ることが出来る出入り口があった。  そこに今、一台の大型戦闘用車両(ガントラツク)が停まっている。  もちろん日本の公道を走っても不審に思われないよう商用トラックに似せた偽装は施されてはいるが、実際は戦場を走ることを想定した防弾装甲を施してあり内部には重火器がずらりと積まれていた。  そんな車両の中には武装した傭兵が八人ほど待機していた。  彼らはパソコンのモニターや通信機を使って仲間達と連絡を取り合って

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路7

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路6

           その男は深い後悔に取り憑かれていた。  男の素性は誰も分からない、それは男がとある研究に携わった際にその研究が秘匿中の秘匿であった為、関わった者全員の個人情報がこの世から抹消された為である。  故に男には国籍もなく、どこにも存在していた証拠もない、確かに実在しているはずなのに透明人間のような存在だった。  男の関わっていた研究というのはとある化学兵器の製造だった。  爆弾や毒ガスよりも効率よく、広大な領域を瞬く間に破壊出来る兵器を作りそれを欲している国や組織に売る。  男の

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路6

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路5

           レディバードガール。  それがコードネーム・ペンギン、羽鳥多摩湖の持つ能力だ。  掌から微弱に出ている電気信号を小鳥のような小さな生き物に打ち込むことによって、一定時間その小動物を操ることが出来るというもので、主な目的は通信機も使えないような極地の環境での連絡手段や偵察活動に用いるというものだ。  生体波動を操るというのが合成人間としてもっともポピュラーな能力として統和機構内では認知されており、逆に電気を操る能力というのはごく一部の者しか持っていない稀少な力だった。  統和

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路5

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路4

           相対した瞬間、恋路は目の前の女性が自分と同じく異質な能力を持った者だと確信していた。 (俺はこの目を知っている―――)  恋路はじっと鼎の目を見つめている。  その目は輝きのような、曇りのような、相反する色合いがちぐはぐに同居しているようないわく言い難い雰囲気を帯びていた。  それは普通の者ならまったく気にならなかったはずだ。  しかし恋路にとっては馴染み深いものだった。  なにせ鼎の目と恋路の目はよく似ていたからだ。形や大きさではなく―――使用用途という意味で。 (普通の

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路4

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路3

           雨理恋路と折枝鼎が出会う数時間前、恋路は予備校のロビーのベンチに座り、自販機で買った炭酸飲料をちびちびと口へと運んでいた。  同時に視線はロビーを通っていく生徒へと向けられている。  この予備校になにか異変がないか、それを調べる為に恋路が予備校へと潜入しろという命令を受けてから三日が経っていた。  今は夏休み前である為、夏期講習の申し込みに高校生がひっきりなしに予備校を訪れている。  恋路もそんな学生に混じって夏期講習の資料を貰いに来た振りをすれば簡単に校舎の中に入ることが

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路3

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路2

           折枝鼎((おりえだ・かなえ)が事務員として勤務する予備校で進路指導を兼ねたスクールカウンセラーの真似事を始めてから三ヶ月が経っていた。  予備校には塾講師の他に、授業に使う教材の準備や模試の会場設営などを行なう事務員が勤務しており、鼎はこの春に大学を卒業したばかりの新卒の社会人として大手予備校の事務として働き始めたばかりだった。  そんな鼎がなぜ、カウンセラーの真似事をしているのかといえば、有り体に言えば押しつけられたのだ。  この予備校には元々美大生の塾講師が進路指導兼カ

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路2

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路1

           雨理恋路(あめり・こいじ)という少年について、周囲の人間が持つ印象は一辺倒なものである。 「雨理? あぁ、あの変わりもんだろ? 何考えてるかわんねーやつ」  だいたいがこんなところだ。  他にやることが出来た―――という理由で通っていた高校をいきなり辞めてしまったり、かと思えば毎日のように繁華街をうろついているがなにか目的めいたものがありそうではない様子だったりと、彼がなにをしたいのか本人以外にはまるでわからなかった。  ただ、いわゆる不良や非行といった反社会的な行動をして

          ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路1

          血と薔薇と骨

             薔薇の繋がりは血の繋がりよりも濃い。  そんな言葉は私が勝手に作り上げたものなのですけれど、私がお嬢様より頂いた薔薇は、血よりも濃い赤色をした、そして香水を閉じ込めているかのように濃厚に香り立つ、それは美しい薔薇でした。  お嬢様のお屋敷は町を見下ろす高台にあって、そのお庭には幾本もの銀杏の木が並んでおりました。  季節になると銀杏の木々は風で葉を散らし、お屋敷のお庭はまるで黄色い絨毯でも敷き詰められたかのように銀杏の葉で溢れてしまうのです。  毎日がそんな有様でご

          血と薔薇と骨

          利尻満腹心中

          寒々とした冬の海は、夜のしずくが溶けているかのように暗く、それでいて荒涼で、眺めていると滅法気が滅入る。  年の暮れ、僕は船上にいた。  客船である。波に合わせてゆらゆらと揺れを感じている内に、気持ちが悪くなってきたので甲板に出て新鮮な外気を吸おうとし、立ち込める潮気に一層気分が悪くなっていた。  懐から取り出した煙草に燐寸で火をつけて一服する。  ふぅ、とため息まじりに紫煙を吐き出すと煙の向こうにゆらりと佇む旅の連れの姿が見えた。 「あらセンセイ、煙草をお吸いになるなんて

          利尻満腹心中

          千歳満腹心中

           世は嘉辰令月であるという。  であるならば、なにをするにも良い月なのだから心中日和とも言えよう。  心中令辰晴れ晴れしく、いざやゆかん心中旅。  そのような心境で僕は我が家の敷居を勇んで跨いだのではない。  我が心中旅は常に後ろ向きと前向きの間に、よるとひるとの合間に立ち消えゆくかげろうのように、どちらの岸にも寄り付かぬ茫洋とした思いから端を発するのである。  つまりは。  醒めぬ酩酊に身を委ね、酔闇の小路を彷徨っているうちにいつしか時代が移り変わっていたのだ。果てない二日

          千歳満腹心中