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「人の話を聞かない妻」のはなし
突然の自分語りをする場としてこの場所を使おうと思う。
これは私が十数年かけて経験してきたことであり、得てきたことでもある。
話は私の妻についてだ。
私の妻は彼女の母親からも「この子は人の話を聞かないのよ!」と事あるごとにお怒りの言葉を頂戴している程に「人の話を聞かない人」らしい。らしい、と書くのは私自身が本当に人の話を聞かない人なんているのだろうかと懐疑的に考えているからである。
そもそも「人
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路9
サーカム保険会社保養所と名付けられた施設は、保養所とは名ばかりで内部は最先端の医療機器が揃えられた最先端医療の現場だ。
恋路は例の彼女のツテでそこに運び込まれ、救命手術を受けたのは一ヶ月も前の出来事だった。
しかし恋路の怪我は重傷だった為、適切な処置をし目覚めるに充分な状態であるにもかかわらず彼が目を覚ますことはなかった。
代わりにというにはいささか不謹慎だが、目を覚まさない彼に触れると自
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路8
折枝鼎は工場を後にしようと脱出用通路を歩いていた。
手駒にしたはずの四人の傭兵の断末魔は鼎の元にも届いていた。
そして外に控えているはずの協力者とも連絡が取れなくなっている。
状況は不利な方へと進んでいると考えた鼎は、これ以上この工場に留まっている意味はないと判断したのだ。
残された手駒である傭兵の最後の一人、傭兵部隊イーヴィル・エンパイアの傭兵長を恋路へと差し向けているが、他の傭兵があ
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路7
鼎が訪れている廃工場の裏側、そこには物資搬入用にトラックや大型車でも入ることが出来る出入り口があった。
そこに今、一台の大型戦闘用車両(ガントラツク)が停まっている。
もちろん日本の公道を走っても不審に思われないよう商用トラックに似せた偽装は施されてはいるが、実際は戦場を走ることを想定した防弾装甲を施してあり内部には重火器がずらりと積まれていた。
そんな車両の中には武装した傭兵が八人ほど待
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路6
その男は深い後悔に取り憑かれていた。
男の素性は誰も分からない、それは男がとある研究に携わった際にその研究が秘匿中の秘匿であった為、関わった者全員の個人情報がこの世から抹消された為である。
故に男には国籍もなく、どこにも存在していた証拠もない、確かに実在しているはずなのに透明人間のような存在だった。
男の関わっていた研究というのはとある化学兵器の製造だった。
爆弾や毒ガスよりも効率よく、
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路5
レディバードガール。
それがコードネーム・ペンギン、羽鳥多摩湖の持つ能力だ。
掌から微弱に出ている電気信号を小鳥のような小さな生き物に打ち込むことによって、一定時間その小動物を操ることが出来るというもので、主な目的は通信機も使えないような極地の環境での連絡手段や偵察活動に用いるというものだ。
生体波動を操るというのが合成人間としてもっともポピュラーな能力として統和機構内では認知されており、
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路4
相対した瞬間、恋路は目の前の女性が自分と同じく異質な能力を持った者だと確信していた。
(俺はこの目を知っている―――)
恋路はじっと鼎の目を見つめている。
その目は輝きのような、曇りのような、相反する色合いがちぐはぐに同居しているようないわく言い難い雰囲気を帯びていた。
それは普通の者ならまったく気にならなかったはずだ。
しかし恋路にとっては馴染み深いものだった。
なにせ鼎の目と恋路の
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路3
雨理恋路と折枝鼎が出会う数時間前、恋路は予備校のロビーのベンチに座り、自販機で買った炭酸飲料をちびちびと口へと運んでいた。
同時に視線はロビーを通っていく生徒へと向けられている。
この予備校になにか異変がないか、それを調べる為に恋路が予備校へと潜入しろという命令を受けてから三日が経っていた。
今は夏休み前である為、夏期講習の申し込みに高校生がひっきりなしに予備校を訪れている。
恋路もそん
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路2
折枝鼎((おりえだ・かなえ)が事務員として勤務する予備校で進路指導を兼ねたスクールカウンセラーの真似事を始めてから三ヶ月が経っていた。
予備校には塾講師の他に、授業に使う教材の準備や模試の会場設営などを行なう事務員が勤務しており、鼎はこの春に大学を卒業したばかりの新卒の社会人として大手予備校の事務として働き始めたばかりだった。
そんな鼎がなぜ、カウンセラーの真似事をしているのかといえば、有り
ブギーポップアンブレラ/雨上がりの恋路1
雨理恋路(あめり・こいじ)という少年について、周囲の人間が持つ印象は一辺倒なものである。
「雨理? あぁ、あの変わりもんだろ? 何考えてるかわんねーやつ」
だいたいがこんなところだ。
他にやることが出来た―――という理由で通っていた高校をいきなり辞めてしまったり、かと思えば毎日のように繁華街をうろついているがなにか目的めいたものがありそうではない様子だったりと、彼がなにをしたいのか本人以外に