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ブレンターノ「天才・悪」感想

天才について学びたくて

ブレンターノはドイツの哲学者で、フッサールの現象学に大きな影響を与えた。(と、本の表紙裏にそう書かれてあった。)

ぶっちゃけ誰なのかはわからなかったのだが、「天才」について調べたかったので、とりあえず買って読んでみた。

「天才」と「悪」の2つの論文を収録している。

届いた本を開いてみて驚いたのは、旧漢字を使用していること。

帯には2018年春のリクエスト復刊と書かれている。

訳文がある程度古いことは覚悟して購入したものの、旧漢字にびびりちらかして、購入した当初はそのまま積読してしまった。

再度、読み始めたきっかけは、自分でもよく覚えていない。そういう気分になったのだろう。

読み進めてみると、思っていたよりは読みやすい。
その理由は、講演を基にしたものだからだろう。

訳文自体は古くても、内容自体はそんなに晦渋というほどではないので、そこそこ理解できる。

それに、この本の面白いと感じられる部分は引用部であることが多い。

「へー、そんなのがあるんだ」と、その辺の実用書みたいな感じで読むこともできる。

気になったのは、ゲーテの引用があまりに多いこと。多分、ブレンターノはゲーテが大好きなのだろうと感じられた。

自分もゲーテは好きなので、ちょっと親近感が湧く。

と言っても、自分は「ファウスト第一部」しか読了したことがなく、「ファウスト第二部」と「若きウェルテルの悩み」を積読している状態である。

自分はまだまだ浅いゲーテ好きなので、もっと読みたいと元気付けられた。

「天才」

「天才」は、カントの美的判断力批判(おそらく「判断力批判」)からの引用を発端として話が展開される。

「学問の領域においては、最も偉大な発見者と最も黽勉な追随者もしくは弟子との差異は(種類の差ではなくて)ただ程度上のことに過ぎない」

ブレンターノ「天才・悪」

ちなみに黽勉(びんべん)は、つとめ励むこと。精を出すこと。という意味。

この引用の主張は学者の場合においてその通りだが、芸術家においてはどうだろうかという論旨である。

結論としては芸術家においてもそうであるということになる。

天才が天才たる理由は、「美的価値が高いもののみを生み出すこと」と、「美的効果をもつものを強烈な刺激をもって受け入れる感受性があること」。
この2点の主張は面白かったので引用する。

故に我々は天才的芸術家が特に豊饒、旺盛な想像を有するのみならず、その想像たる一般にもしくは主として、あたかも美的価値多きもののみをもたらすものであるということを想定せねばならぬと思う。

ブレンターノ「天才・悪」p.44

すなわちそれは、美的効果を有するものを特に強烈なる印象をもって受容れるところの旺盛な感受性である。

ブレンターノ「天才・悪」p.44

これらの記述から、美学などを学べば、天才への理解も深まるかもしれないと思った(美学について学んだことがないので、とんちんかんなことを言ってるかもしれない)。

少し前に述べた通りゲーテが引用される他にも、ニュートンとアルキメデスの類似性から始まり、モーツァルト、アリストテレス、バルザック、ダンテなどの様々な偉人が挙げられる。

実用書っぽさが出るのは、引用の多さによるものだろう。
何が言いたいのかわからなくても、引用文さえわかれば楽しめる内容だった。

「悪」

「悪」は、悪について書かれたものというよりは、悲劇論である。

無論、悲劇・喜劇について考える際に引用されるのは、アリストテレスである。
ゲーテほどではないにしても、アリストテレスもブレンターノは結構好きそうである。

正直なところ、「悪」よりも「天才」の方が読んでいて面白い。

というのも、「天才」は予備知識なく楽しめたのに対して、「悪」は若干の知識を要する。

もちろん知識なしでもそれなりに楽しめるが、
読んでいて、先にその作品について読んでおかないと何を言ってるのかよくわからない箇所が散見される。

特にソプォクレスの「アンティゴネー」は、イメージとしてわかりにくかった。
事前に読んでおけば、説明に納得感は増すだろうと思う。

他に挙げられた作品としては、モリエールの「ジョルジュ・ダンダン」「人間ぎらい」、シェイクスピア「ロミオとジュリエット」「ジュリアス・シーザー」などである。

文学系の話なので、そういう類いの内容が好きな人には良い。

ただ自分は戯曲についての知識があまりないので、小説だけでなく戯曲をもっと読んでいれば、悲劇論についての話をより理解し楽しめたのではないかと思う。

覚えた旧漢字

旧漢字で書かれた本を読了したのは、人生で初めての経験だった。青空文庫で旧漢字ありのものを読んだことはあったが。

当てずっぽうで読めた漢字もあれば、まったく何の漢字なのか調べないと見当もつかないものも多かった。

立命館大学の新旧字対応表がわかりやすくて、お世話になった。

今回の読書で覚えた旧漢字を、思い出せる範囲で書いてみる。

  • 變→変(變化→変化)

  • 轉→転(轉變→転変)

  • 假→仮(假令→仮令。「たとい」もしくは「たとえ」と訓読するらしい)

  • 點→点(觀點→観点など。點の単体での使用も多め)

  • 體→体(全體→全体)

  • 圖→図(意圖→意図、構圖→構図など)

  • 實→実(實際→実際など)

今回の読書で読みたくなった本

ゲーテとの対話

高校生の頃に読みたくて探したが、近くの本屋には軒並み置いていなかったので、読みたくても読めなかった。
そういえば、読んでいないと思い出したので、読んでみたい。

人間ぎらい

モリエールの戯曲を1作も読んだことがないので、さすがにまずいかなと思うので読んでみたい。

レビューを読むと、エッカーマン「ゲーテとの対話」で、どうやらゲーテがめちゃくちゃおすすめしてくるらしい。
やっぱり、ブレンターノはゲーテ大好きおじさんなのだろう。

ソポクレース「アンティゴネー」

名前が出てきてよくわからなかったので。同じ著者の「オイディプス王」も気になるが、書かれた順番はこれが先らしいし、翻訳も比較的新しいので、こちらから読みたい。

河合隼雄に高校生の時にはまり、フロイトやユングについて興味をもって、その説明に時々、「オイディプス王」が出てきていた記憶がある。

アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン「美学」

美学について学んでみたいと思ったので、「美学(aesthetica)」という概念を生み出した古典を読みたい。カントの『判断力批判』も読んでみたい。

ちょっと難しすぎるかもしれないという懸念はある。

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