一葉なつ

一葉の言の葉をひらり。読んだり書いたりしてみようと思ったり。

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自己紹介 【一葉なつ】

「一葉なつ」です。 五千円札のひと。 そうそう、樋口一葉さんをシンボライズして筆名にしました。 樋口一葉さんの戸籍名は「奈津」、ご自身では「夏子」と名乗っていたみたいです。 筆名にした理由はいくつかあって、 残された作品や言葉が好きなのは勿論なんですが、季節も夏が好きでして。 数年前、とあるワインバーの店主に、会計時出した五千円札を眺めて「そうだ!樋口一葉に似てる、すっきりしたー!」って言われたことがあって(嬉しいのかどうか…)。 それからは、「誰に似てるってよく言

    • 【対話体短編小説】隠微

      「本はね、私の知らない世界を教えてくれるの。」 「その世界に入り込めるの?」 「入り込むときもあれば、客観的に眺めているときもある。」 「僕はあまり読まないから。その感覚分からないな。」 「病院の先生って忙しいでしょ?人の生命に関わっているんだもの。働く規定の時間なんてあってないようなものじゃない。」 「そうだね。」 「そう、だから。そういうことは、小説を読んで自分に言い聞かせるの。家族や恋人とも十分な時間が作れない、そんなのは当たり前なんだって。そういう世界で生

      • 【エッセイ】言葉が見つからない

        こんばんは、一葉です。 描き始めた小説がどうやらうまく書けなくて。打っては消しての日々を繰り返し12月となってしまいました。 大好きなイチョウも、カメラにおさめることができずぼんやりと過ごしています。 最近は、小説を読むか絵を描くかの日々です。 帽子が好きなので帽子を被った女性を描くことが多いです。そんな日々です。 大切な人ができると 安心より不安な気持ちが増えていきます。 なんででしょうね。 安心して眠りにつきたいのに 不安で眠れないなんて そんなのは愛ではない

        • 【エッセイ】渋いとは

          おひさしぶりです、一葉です。 この1週間で、いろんな人から、いろんな柿をいただきまして。手に取った柿を剥いで頬張ると、口の中の水分が全部奪われました。今まで感じたことの無いような口腔の渇き…とんでもない毒でも口に入れたかのような。はい、これは渋柿の渋抜きをする前の柿でした。タンニンの仕業です。渋いとはまさにこのことをいうのですね。2時間くらい口の中がおかしなことになりました、一葉です。 さて、最近の一葉。 本読みに明け暮れて、書くことから遠ざかっておりました。 会いたい夜

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        自己紹介 【一葉なつ】

          【短編小説】神経衰弱のような恋のような愛

          「こういうスキンシップはこまめにとりたいタイプだよ、僕は。」 外はシトシトと雨が降っていて、昨日まで続いた秋晴れが嘘の様で、部屋の中にいても冬のはじまりのような気温だった。私は2人掛けの小さなソファの右端に座り本を読んでいた。好きな作家の最新刊を読み進めて半分くらいになった時だった。彼は浴室から出てきて、ソファの左側に座った。私の左半分の側面と彼の右半分の側面がぴったりくっついた。そのまま彼は私の肩に頭を置く。 「こういうスキンシップはこまめにとりたいタイプだよ、僕は。君

          【短編小説】神経衰弱のような恋のような愛

          【短編小説】魔法が解けても

          ボトルインクに浸して、試し紙でインクを整えてから、繊細に滑らかにその万年筆は泳いだ。 フランス語で“Joyeux anniversaire” その下に彼の名前が記されて金色の箔がまわりに施されたそのシールは、19世紀当時の新聞Journal de l'Empireを再現したラッピングペーパーの包み箱に貼られた。 「お客様のお気持ちが届きますように、私どもよりささやかなプレゼントです。」 強弱の美しいそのカリグラフィを私の方向に向けた。丁寧で無駄のない動き。その箱はオリジナ

          【短編小説】魔法が解けても

          【短編小説】11688日

          紙パックから、最後のドリップコーヒーを取り出した。フツフツと響いてプツンッと音が鳴る。湧いたお湯を少しずつフィルターに垂らして透明の耐熱グラスに落ちていく雫を見て目元がじわりと滲んだ。あまりにも儚い時間は、ほろ苦い。 >>もう会うのやめにしたい 誰も幸せにならない。もしくは誰かが傷つくんだ。そんなことを何度か繰り返した人生だから、分かってしまう。もうそういうことは、無しにするって約束したから、過去の自分に。フツフツとこみ上げてきたものがプツンッと切れる。そう、それは電気ケ

          【短編小説】11688日

          【エッセイ】仕事に生きる

          こんにちは。一葉です。 この夏秋は、仕事がうまくいきませんでした。 ほんともうげんなりで。 でもね、この1週間でけっこう嬉しいことがあって。 一緒にお仕事したいなあという企業さんに、 Web面談のアポイントをお願いしていたんです。 そしたら100以上の応募がある中で、新規で面談の機会をいただきまして。 外部パートナーとしてお取引が開始となりました。 先方の代表の方、同じ歳くらいなんですけど、すごく博識があって、 仕事の進め方とか、お客さんへの提案の仕方とかも すごく勉強

          【エッセイ】仕事に生きる

          【エッセイ】穴のないドーナツ

          コインランドリーでドラム式の洗濯機を眺めていた。洗われているのか、かき乱されているのか分からなくなった。0時を過ぎた国道の赤い点滅信号でブレーキを踏みながら思った。好きになる前にも一旦止まれのサインがあればいいのにと。カーテンの隙間からのぞく光が眩しくて目を閉じた。今日もお腹は減るし、くしゃみもする。ああ、生きているのだ。私も、どこかのあの人も。 そんなことを思いながら、8つの丸が輪のように繋がったドーナツの、一粒をちぎって口に入れた一葉です。 一葉は夏とイチョウが好きで

          【エッセイ】穴のないドーナツ

          【短編小説】ピンキーリング

          備前焼のどっしりとした器に、さっと炙られたエイヒレが盛られ運ばれてきた。 「ありがとう。」 関西弁のありがとうってなんでこんなに温かいんだろう。この後、ビールが運ばれたときも、かつおのたたきや、大根やはんぺんや卵がのったおでんが運ばれたときも、彼は変わらず「ありがとう。」と言った。蟻が10匹みたいなイントネーションで。 今まさに私の目の前でほくほくの大根を食べながら”うまい”と食べる男、多田健司。35歳。広告代理店のアートディレクター。そして私、小川美穂。35歳、ジュエリー

          【短編小説】ピンキーリング

          【エッセイ】大人行きの学生

          こんばんは、来月6回目の車検を受ける一葉です。14万kmを越した車ですが、乗り潰そうと思っています。できるなら車の無い生活をしたいくらいです。乗り潰したら、車を所有しないという生活にシフトしたいなと思っています。でも宝くじが当たったら一番にFIATに行くつもりです。(買うんかい)(イタ車好きです) さて、今日は9月も終わり頃。長い長い大学生の夏休みも終わり頃。ということで大学生の話でもしましょうか。 一葉は土日、イベント関連のバイトの仕事に入っているのですが。イベントの仕

          【エッセイ】大人行きの学生

          【エッセイ】未完成のもの

          こんばんは、一葉です。すっかり秋ですが、冬っていつからなんでしょう。(暦とかそういう観点ではなく雰囲気で)ハロウィンは秋ですかね?マフラーと手袋使用率が街に7割くらい存在しはじめてからですかね?今年は冬を感じる時を探してみたいと思います。 さて今日は、書き留めた冒頭文(台詞)…というよりも続きが書けなかった文章を8つ紹介します。終わりが見えなかったり、書き続けるのが苦しくなりそうになったら、パツッと終わらせるタイプでして。(恋愛もそうしたいところですけど、そこはいつまでも歯

          【エッセイ】未完成のもの

          【短編小説】離れるということ

          「こんなことなら、出会わなきゃよかったね。」 今にもこぼれそうなものを瞳いっぱいに溜めて、彼女は微笑んだ。さよならの玄関で。 -r- 「あなた、あの子と付き合ってるの?」 少し冷ややかな感じで鯵の南蛮漬けに南という高知のお酒が出された。カウンターの向こう側に戻った洋子さんは、片腕を組んで尖った口先に煙草を加え煙を吐いている。自分で注いだ御猪口の中で小さな波紋が出来て僕は静かに眺めるしかなかった。 「最近、あの子とよく来るじゃない。知ってるの?あんたにバツがついてることも、子

          【短編小説】離れるということ

          【短編小説】光

          「光の画家を見に行きませんか?」 僕はその時、大学3年で彼女は2年生だった。僕は理工学部で彼女は法学部で、キャンパスも違った僕たちが出会ったのは、古民家を再生して造られた建物の中で彼女がオーダーを聞き、僕があいがけのスパイスカレーを頼んだ時だった。壁いっぱいに古書が詰め込まれたカレー屋で、僕は休みの日になるとそこでカレーを食べたり珈琲を飲んだりして本を読んだ。コップの水があと一口になった時、彼女は水の中でカットレモンがぷかぷかと浮かんだボトルを持って僕の隣で止まった。 「

          【短編小説】光

          【エッセイ】未練なんてないさ嘘さ嘘どこさ暗闇さ暗闇どこさ

          こんばんは、一葉です。先日、大根をおろしました。そうです、秋刀魚にのっけて食べるためです。おいしい季節の到来ですね。 さて今日は、好きな音楽の話でもしましょうか。あ、好きなお花についてでもいいですね。好きなごはんの話でもいいですか?はい、ここで共通することがあります。音楽も花もごはんも、いずれの好きも過去に愛した人がちらつきませんか?という話です。 いつの間にか彼が聴いていた曲を口ずさんでいたり、誕生日に送られた花が特別になっていたり、はじめて一緒に食べたものが大好物にな

          【エッセイ】未練なんてないさ嘘さ嘘どこさ暗闇さ暗闇どこさ

          【詩】

          知りたくもないことを 見たくもないものを そういう魔物が存在している 指を動かすほどに 絶望に駆られ 未来など期待するなと 画面の向こう側が嘲笑う 閉ざされた空間で 開けた世界が 人間を蝕んでいく 知りたくなかった 見たくなかった 触れたくなかった それでもこの世界が 希望に満ちたもので あってほしいと願っている 君と出会えたのも そう、だから。