函館次郎

ショートストーリーを気ままに制作・公開しています。テレビのミニ枠の脚本も書いています。…

函館次郎

ショートストーリーを気ままに制作・公開しています。テレビのミニ枠の脚本も書いています。暇潰しにどうぞ。

マガジン

  • 和歌心日記

    百人一首から想像したストーリーを書き集めました。

  • 刑事柳田、我慢できません!

    公安"デカ"柳田は常にターゲットの行確に忙しい。しかし、張り込みは長時間に渡り常に生理現象との戦いである。しかし、張り込み先の近くににはいつも気になるラーメン屋があって…

  • ただラーメンを食べたいだけなのに、こんなにも骨が折れるなんて

    男はただラーメンを食べたかった。 ただそれだけなのに、なぜこんなにも食べるまでに骨が折れるのか。 男は元傭兵だった。

  • 雨と宝石の魔法使い

    雨と宝石を支配する魔法使いが出会う人と世界を少しずつ救っていく物語。

  • 東京タワーの下で

    東京タワーを見る時に感じる高揚感をストーリーにしました。

記事一覧

和歌心日記 14 西行法師③

嘆けとて 月やは物を 思はする ***  キリエと一日児童館で過ごした藤原晴家は、母と車で家に帰った。  キリエはもう3000年も生きているという。本当だろうか。いや、…

函館次郎
2か月前
5

和歌心日記 14 西行法師②

嘆けとて 月やは物を 思はする ***  あれは藤原晴家が10歳の時だった。  晴家は街の児童館にいた。幼い頃から父を知らない晴家は、母が迎えに来るのを毎日児童館で…

函館次郎
2か月前
3

和歌心日記 14 西行法師①

嘆けとて 月やは物を 思はする  藤原晴家(ふじわら はれや)が彼女を初めて見たのは、彼の勤めるW大学の私の講義の教室だった。  後ろから三列目の晴家から見て左端、つ…

函館次郎
3か月前
5

白鳥の調べ

 山中実は自転車に乗るのが趣味だった。  休日は主に昼間、平日は仕事帰りにサイクリングをしている。東京は、郊外は勿論、都心にも意外と緑がたくさんある。東京都は小…

函館次郎
4か月前
10

刑事柳田、もう我慢できません 第六話 一条流がんこラーメン@四谷三丁目

「暑い…」  柳田は額と首の上から噴き出る汗を拭った。 「奴はどこで消えたんだ」  柳田は携帯電話を取り出し、電話を掛けた。 「はい」 「俺だ」 「はい」 「そちらは…

函館次郎
9か月前
6

刑事柳田、もう我慢できません 第五話 塩生姜ラーメン専門店mannish@神田

 柳田は水の入ったペットボトルを男の膝裏に投げつけた。 「グオ」  それがうまいこと膝裏の中にはまり、男はバランスを崩してツンのめる。そこを一気に距離を詰め、着て…

函館次郎
9か月前
1

和歌心日記 12 藤原興風

誰をかも 知る人にせむ 高砂の…。  その神社は願いを叶えてくれる。  昔からそんな噂があった。    入間心見は、昔母からそんなことを聞いた。  心見はもともと口数…

函館次郎
11か月前
7

和歌心日記 11 藤原義孝

君がため 惜しからざりし いのちさへ…。 そいつは、いつも一人だった。 そのせいで気味悪がられて、いじめられていた。 でも、みんなの前では決して泣かず、何があっても…

函館次郎
11か月前
13

和歌心日記 10 右近

忘らるる 身をば思はず ちかひてし…  まさか、そんなわけないよね。  入間愛子は、菊田明世という女性市議会議員が昨晩遅くに交通事故で亡くなったという記事を読み、…

函館次郎
1年前
18

和歌心日記 9 壬生忠見

恋すてふ 我が名はまだき 立ちにけり… 「ピアノ、好きなんですか?」 少し上気した顔で覗き込んでくる女性。 妖艶だ。 「え? あぁ、ええ」 「クラシックですか?」 …

函館次郎
1年前
14

和歌心日記 8 のニ 小野小町

花の色は うつりにけりな いたづらに 町子は、姉の絹子が働いている神社(それは自分の生まれた家でもあるのだが)のそばに数日前に落ちたと思われている隕石の痕跡であるク…

函館次郎
1年前
4

和歌心日記 8 小野小町

花の色は うつりにけりな いたづらに… 「この辺りに電気屋さんはありませんか?」 6月のある雨の日、小野町子は中学校の裏にある神社の参道で、突然ずぶ濡れの青年に話し…

函館次郎
1年前
4

和歌心日記 7 入道前太政大臣

花さそふ 嵐の庭の 雪ならで… 「もう何回目の春だろう」 坂口智也は会社の窓から見下ろす桜並木を見ていた。 3月になると、毎年感じる焦燥感と、次に入ってくる若者たち…

函館次郎
1年前
5

和歌心日記 6 崇徳院

瀬をはやみ 岩にわかるる 滝川の… 「いってらっしゃい」 「あぁ。ありがとう」 「ごめん。今までありがとう」 「もういいのよ。ほら、早く行って」 葉山道代は僕から2…

函館次郎
1年前
6

和歌心日記 5 壬生忠岑

有明の つれなく見えし 別れより… 寒空の下、篝高道はとぼとぼと線路脇のいつもの帰り道を歩いていた。 細い三日月が冷たく輝いている。 今日はついてなかった。 出勤早…

函館次郎
1年前
8

和歌心日記 4 参議篁

わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 「山手さん、ほんとに戻っちゃうんだべか?」 「そうなんです。急で…本社に欠員が出てしまったみたいで」 「んだかぁ、寂しくなるな…

函館次郎
1年前
16

和歌心日記 14 西行法師③

嘆けとて 月やは物を 思はする ***  キリエと一日児童館で過ごした藤原晴家は、母と車で家に帰った。  キリエはもう3000年も生きているという。本当だろうか。いや、そんなはずはない。そういえば、漫画や映画、ゲームにエルフという種族がいて、彼らは人間と比べると長生きで、耳がかなりピンと伸びていて、スラリとしている。まるでキリエにソックリだ。まさかエルフ? いや、エルフよりも前なのかもしれない。キリエがエルフの元になったってこともありえる。  晴家はもうキリエに関わってはい

和歌心日記 14 西行法師②

嘆けとて 月やは物を 思はする ***  あれは藤原晴家が10歳の時だった。  晴家は街の児童館にいた。幼い頃から父を知らない晴家は、母が迎えに来るのを毎日児童館で待っていた。  その日、母は仕事で少し遅くなるということで、他の児童が帰った後、晴家は一人児童館で待たせてもらうことになった。たまにあることだが、児童館側は迷惑そうだった。最近では勤務時間を守ることに厳しくなっており、児童館の担当者もたまたま予定がなかったから良いものの、無理矢理家に帰されてしまうこともある。

和歌心日記 14 西行法師①

嘆けとて 月やは物を 思はする  藤原晴家(ふじわら はれや)が彼女を初めて見たのは、彼の勤めるW大学の私の講義の教室だった。  後ろから三列目の晴家から見て左端、つまり彼女から見て右端の席に彼女は座っていた。  目鼻立ちはエキゾチックで、幾分耳が長く尖っている。その耳から垂れさがる緑色の石のピアスがとても印象的だった。そして、あの人に良く似ていた。  晴家はこのW大学の博士課程に在籍しており、週に二度学部生の講師を務めている。  専攻は日本文学史、平安時代の短歌、百人一

白鳥の調べ

 山中実は自転車に乗るのが趣味だった。  休日は主に昼間、平日は仕事帰りにサイクリングをしている。東京は、郊外は勿論、都心にも意外と緑がたくさんある。東京都は小金井市に住んでいる山中は、自分のアパートから小金井公園に出て、そこから五日市街道沿を走り、中央大学附属高校や東京学芸大学などがある道を通り、国分寺を超えて国立の一橋大学あたりまで行って家に戻ってくるのが日課となっていた。だいたい3時間ぐらいの行程だ。  もともと学生時代から運動部に入って活動していたが、40歳を前に基

刑事柳田、もう我慢できません 第六話 一条流がんこラーメン@四谷三丁目

「暑い…」  柳田は額と首の上から噴き出る汗を拭った。 「奴はどこで消えたんだ」  柳田は携帯電話を取り出し、電話を掛けた。 「はい」 「俺だ」 「はい」 「そちらはどうだ」 「動きなし」 「いまどのくらい張ってる?」 「3時間」 「わかった。こちらも動きなし。というより消息不明だ」 「了解」  携帯の電話が切れた。部下の来栖が南。自分が北のエリアを探していた。  柳田は、七日前、ミャンマー経由で羽田から入ったとされる中国系男性のターゲットを追っていた。  彼は防衛省の秘

刑事柳田、もう我慢できません 第五話 塩生姜ラーメン専門店mannish@神田

 柳田は水の入ったペットボトルを男の膝裏に投げつけた。 「グオ」  それがうまいこと膝裏の中にはまり、男はバランスを崩してツンのめる。そこを一気に距離を詰め、着ていたスーツのジャケットを男の頭に投げる。  頭を覆われ、男がそれを剥ぎ取るのに手間取っている間に、柳田はその背中に向かって飛び蹴りをかます。 「グェ」  男はそのままうつ伏せに倒れ込んだ。そこを押さえ込んで右腕を捻じ上げる。 「いてててて、助けてくれ」 「ほう、日本語いける口?」 「いけるいける。頼む、助けてくれ」

和歌心日記 12 藤原興風

誰をかも 知る人にせむ 高砂の…。  その神社は願いを叶えてくれる。  昔からそんな噂があった。    入間心見は、昔母からそんなことを聞いた。  心見はもともと口数が少ない子だった。そのため小さな時から友達があまりできなかった。よく一人で遊んでいた。近所に健太という同じ年の少年がいて、公園で一緒になったりすることが多かったが、特に話すでもなく、一緒に遊ぶこともなかった。  ある時心見は、母に連れられ近所の神社を訪れた。その神社は昔からあるようで、鳥居をくぐると不思議とひん

和歌心日記 11 藤原義孝

君がため 惜しからざりし いのちさへ…。 そいつは、いつも一人だった。 そのせいで気味悪がられて、いじめられていた。 でも、みんなの前では決して泣かず、何があっても、いつもなんだかぼんやりしていた。 誰にもやり返すこともなく、俺はとてももどかしかった。 そして、そいつのことがどうにも気になった。 「これ、おまえのだろ?」 「うん」 「なんか外の水道のところにひっかかってたから、取ってきた。はい」 「ありがとう」 そいつのだろうと思われる上履きが校舎の外にある水道の蛇口に

和歌心日記 10 右近

忘らるる 身をば思はず ちかひてし…  まさか、そんなわけないよね。  入間愛子は、菊田明世という女性市議会議員が昨晩遅くに交通事故で亡くなったという記事を読み、少しその手が震えた。  菊田は、学校内の虐めは虐められる側にも責任があると発言し、市民から酷く反感を買っていた。  愛子は、ママ友たちの間でも噂になっていた菊田に自分自身も反感を持っていたし、数年前に菊田の娘と自分の娘の間で起きたことも相まって、ママ友との井戸端会議のときに、つい軽い気持ちで、死んだって構わないよ

和歌心日記 9 壬生忠見

恋すてふ 我が名はまだき 立ちにけり… 「ピアノ、好きなんですか?」 少し上気した顔で覗き込んでくる女性。 妖艶だ。 「え? あぁ、ええ」 「クラシックですか?」 「あ、ええ、まぁ、ジャズとかも…いや、でもクラシックかな…」 山田海斗は六本木にあるピアノバーで一人飲んでいた。 西麻布から六本木まで六本木通りを北上する途中にあるその店は、前々から気になってはいたが、入る勇気がなかった。その日は一軒目に気分が良く酔っ払い、まだ時間も浅かったため、思い切って入ってみたのだっ

和歌心日記 8 のニ 小野小町

花の色は うつりにけりな いたづらに 町子は、姉の絹子が働いている神社(それは自分の生まれた家でもあるのだが)のそばに数日前に落ちたと思われている隕石の痕跡であるクレーターを調べにいった。 その途中、隕石が落ちたとされている日とほぼ同じ頃からこの神社の周りに現れるイケメンの若者高村清和と出会い、共にクレーターを調べることになった。 クレーターには何もなかったのだが、そこで高村は突拍子もない小野小町の物語を話し出した。 高村は小野小町に1000年前に出会ったという。高村によれ

和歌心日記 8 小野小町

花の色は うつりにけりな いたづらに… 「この辺りに電気屋さんはありませんか?」 6月のある雨の日、小野町子は中学校の裏にある神社の参道で、突然ずぶ濡れの青年に話しかけられた。 「え、あ、山を降りればありますけど、あなた傘は?」 「え?ああ、いいんです大丈夫」 少しカタコトのような感じがしたが気のせいか。 「ありがとう」 青年はそう言うと通り過ぎた。 「あの!」 青年は少し下ったところで振り向いた。 「これ」 町子はビニール傘を畳んで青年に向かって投げた。我ながら大胆だ。

和歌心日記 7 入道前太政大臣

花さそふ 嵐の庭の 雪ならで… 「もう何回目の春だろう」 坂口智也は会社の窓から見下ろす桜並木を見ていた。 3月になると、毎年感じる焦燥感と、次に入ってくる若者たちの姿。そして、それを見たときに感じる絶望感。 年降るに連れ、その思いは益々強くなる。 「部長、そろそろ会議です」 「ああ、じゃ行こう」 次の会議は四半期に一度の部長会議。経営課題の優先順位をつける戦略会議、この優先順位の高さがそのまま部の予算や強さの象徴となる会議だ。 坂口は自分の部門を背負っているが、最近特

和歌心日記 6 崇徳院

瀬をはやみ 岩にわかるる 滝川の… 「いってらっしゃい」 「あぁ。ありがとう」 「ごめん。今までありがとう」 「もういいのよ。ほら、早く行って」 葉山道代は僕から2歩下がって手を振った。 僕も、手を振り返すしかなく、ほどなくしてボーディングゲートをくぐった。 一度振り返ったが、道代はまだ僕を見てくれていた。 その顔が脳裏から離れない。 取り返しのつかないことを僕はしたんだと、その時感じていた。 「大、例の件、ゴーサインだすぞ。いいな?」 「大丈夫です。昨日現地の鉄鉱石

和歌心日記 5 壬生忠岑

有明の つれなく見えし 別れより… 寒空の下、篝高道はとぼとぼと線路脇のいつもの帰り道を歩いていた。 細い三日月が冷たく輝いている。 今日はついてなかった。 出勤早々顧客情報が漏れたかもしれないという部下からの報告を受け、各所大口顧客とシステム部で全履歴を確認し、漸く漏洩は免れたということが判明したのも束の間、再発防止策の策定を言い渡され、それを作る側ら、新規案件イベントのタレントがダブルブッキングで出演できないとの報告があり、それを別の部下と共に事務所に赴き何とかねじ込

和歌心日記 4 参議篁

わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 「山手さん、ほんとに戻っちゃうんだべか?」 「そうなんです。急で…本社に欠員が出てしまったみたいで」 「んだかぁ、寂しくなるなあ」 行きつけの小料理山手は目頭を熱くしていた…。 「青森営業所…まさか俺が?」 嘘だろ… 山手が弘前に越してきたのは5年前だった。 山手は本社ビル25階の廊下に貼られた人事異動用の掲示板を見た。 『経営企画部 戦略担当室長 山手一郎、 青森営業所 所長を命ずる』 社内に山手姓は一人、間違いなく自分の名前だ