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「生きづらさ」の原因は、自分の中の「男らしさ・女らしさ」

「生きづらさ」という言葉を聞かない日がないほど、その広がりには驚く。丁寧に見てほしい、職場に、まわりに、かつての笑顔を失った人はいないだろうか。多様化が叫ばれる今、「男らしさ・女らしさ」という言葉は、たしかに影を潜めた。やっと私たちは違和感のある抑圧から「自分らしさ」を手に入れた、はず。それが、おかしい自分らしく闊歩しているはずなのに、なんだか元気がでない。どうやら、言葉こそ消えつつあるが、「男らしさ・女らしさ」の呪縛に行くてを阻まられ生きづらくなっているようだ。
 
自分らしさに苦しむ

何をするのも多様性が求められる今、性別も二項対立ではなくなり性的表現も志向も自由となった。そして、「男らしさ・女らしさ」は「自分らしさ」に姿を変えた。性別役割分業から生まれた「男らしさ・女らしさ」は、現在の価値観との間にズレが生じて、職場や家庭に違和感が出始めた。「自分らしく」生きるために、女性も「#KuToo」運動(女性が職場でヒールやパンプスの強制をなくす呼びかけ)など、アクションを起こすようになった。しかし、なかなかそれに続くものは少ない。まだまだ女性が力強く切り込んで行動することは、ネガティブな印象をもたれることが多いからだ。残念なことに、女性は一歩足を踏み出そうとするたびに、刷り込まれた「男らしさ・女らしさ」を敏感に察知し、反射的にブレーキをかけるのだ。出来るだけ悪目立ちしないようにと。かつて、国家的方針だった「男は仕事、女は 家事」という性別役割分担の影響は根強く、「男性とはこうあるもの・女性とはこうあるもの」があらゆる言動に待ったをかける。ある社会の一定期間、常識とされてきたものを修正していくことは大変難しい。世代を超えて常識は刷り込まれつづけ、価値観の変わった時代を生きる者たちへの生きづらさに繋がってゆく。
 
女性活躍の壁

なでしこ銘柄説明会(経済産業省)の基調講演で東京家政学院大学特別招聘教授である野村浩子氏は、次のような指摘をした。女性活躍の壁となっているものは、ジェンダーバイアスである。

女性はリーダー像を目指そうと思うと、今でもダブルバインド(2つの矛盾した命令)の状況におかれる。これはアメリカでも日本でも、企業でも共通する。力強いリーダーシップを発揮すると、女性らしさから著しく逸脱されているとして、嫌がられ嫌われるという課題を抱えている。しかも、男性のみならず女性からも嫌悪感をもたれる。なぜなら、気持ちのなかに、「女のくせに」「女だてらに」があるからだ。

なでしこ銘柄説明会(経済産業省)の基調講演
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 男性の「否認の病」とは?

一方、男性も、法や制度、社会構造が男性優位になっているとは言え、同じく「男らしさ」による生きづらさを抱えている。精神科医の松本俊彦氏は、アルコール依存症を「否認の病」としている。それは、「自分がアルコール依存症であることを認めない」という「否認」だそうだが、男性たちのうつ病などにも、そういう構造性がみられるのではないかと指摘する。男性も昔から、「男の子は泣いたらいけない」とか、「男は弱音をはいちゃだめだ」と言われてきた。常にトラウマのようにそれがまとわりつき、病気であることを認めることは男らしくないという感情に陥ってしまう。その結果、自分がうつ病だとか病気であることを否認したり、受診が遅れたりする傾向があるという。さらに、自殺についても女性は未遂が多いが、男性は既遂が多いという。それは、かなり追い詰められた状態で決断するからだ。男性も降りられない人生に、がんじがらめになっている。仕事ができるとか、出世して地位があがるとかそんなことでしか、自分を肯定できなくなっているのだ。男性もまた、「男のくせに」という呪縛に囚われて、生きづらさを抱えている。



生きづらさは個人の問題ではない

女性も男性も、それぞれ「生きづらさ」の背景は、自分たちに刷り込まれた「男らしさ・女らしさ」が強く影響している。多様化が進み、常識も大きく変わっていくという意識をもちつつ、ステレオタイプの男性像や女性像にある違和感を、丁寧に見直していくことが必要だ。そして、「生きづらさ」を感じても、自分だけの問題として抱えず、個人の力では解決できない社会問題の影響が強いことを自覚し、自分を責めたりを追い詰めたりしないことが大事である。社会問題は複合的で一朝一夕に答えが出るものではないが、あきらめず進みたい。


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