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◎完結【小説】「twenty all」

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新感覚の学園小説です。 たった2人の弓道部員、里香と空良が「弓道場の設立」を目指して奮闘するものがたり。果たして、2人の想いは届くのか?
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【小説】(最終回)「twenty all」231

【小説】(最終回)「twenty all」231

「なーに、二人だけの世界を作ってるんですかぁ?」

 道場の中から、静香がニヤニヤと笑いながら茶々を入れる。
 自然と見詰め合っていた空良と佳乃は、慌ててパッと離れた。

「何でもないよ。それより、今夜の射初め射会の準備は出来たのか?」
「心配しないで、もうバッチリよ!」
 観月が、ドンと胸を張って頷いた。

「だからソラ君、礼配で二本とも外すんじゃないわよ。縁起が悪いからね」
「バカ言うなっ!」

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【小説】「twenty all」230

【小説】「twenty all」230

「何これ、気持ちいいー!」

 道場に足を踏み入れた観月は、早速はしゃぎ出した。

「ちゃんと神棚もあるんですね。うーん、いい感じ」
 静香も、珍しく満足そうに浮かれている。

「コラコラ、うろちょろするのは片付けをしてからだぞ!」
 空良が、二人を嗜める。
「まったく・・・」
 ブツブツ言っている彼を見て、隣にいた佳乃は、思わずプッと吹き出した。
「・・・何が可笑しい?」
「いえ、別に」
 佳乃

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【小説】「twenty all」229

【小説】「twenty all」229

「ありがとうございました!」
 1台の中型トラックが走り去るのを見送った空良は、深々と頭を下げた。

 隣に立っていた池谷が、感無量といった表情を浮かべる。
「とうとう、やっちまったな」
「・・・ええ」

 彼等の目前には、たった今完成したばかりの新しい「弓道場」が建っていた。

 外壁が白基調に統一された道場の中からは、新築の木の匂いが漂って来る。

 また、矢道の手前3分の1程度まで敷き詰めら

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【小説】「twenty all」228

【小説】「twenty all」228

 拝啓 国府田空良様

 少し堅苦しいかも知れませんが、どうか許して下さい。

 この手紙を貴方が読んでいるという事は、私はもうこの世にはいないのでしょうね。

 自分の本心を、こんな形でしか伝える事が出来なかったなんて、ホント馬鹿な先輩だと思う。

 まず、インターハイ本選出場おめでとう、そして「個人戦優勝」おめでとう、もかな。

 書いてしまえるのは、私が空良君の射を信じているからです。

 

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【小説】「twenty all」227

【小説】「twenty all」227

「・・・ごめんなさい」
 駅前通りの喫茶店で、安崎亜紀子は深々と頭を下げた。

「私、全部知ってたの。里香先輩の事も、あなたと先輩の間で、何があったかも」
 彼女は、本当に申し訳ない気持ちで謝った。

「うちの学校に転校して、里香先輩は真っ直ぐに私の所に来たわ。入部させて欲しい、って」
 亜紀子の脳裏に、あの時の真剣な表情をした里香が浮かんだ。

「三年生はみんな引退してるって言っても、私は弓をや

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【小説】「twenty all」226

【小説】「twenty all」226

 夏の暑い日の、昼下がり。

 河上里香の告別式には、多くの人が哀しみと共に列を成していた。

 難しい漢字が羅列された、聞き覚えの無い難病に罹った彼女は、
 3か月間の闘病生活の末、帰らぬ人になってしまった。

 粛々と葬儀は進み、出棺の時間となった。
 彼女の入った棺を抱えた者の中に、空良の姿もあった。

 散々泣き腫らした後のような顔をした彼は、全ての感情を押し殺して、棺を持っている。
 や

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【小説】「twenty all」225

【小説】「twenty all」225

「やったあっ!!」
 勝利の瞬間飛び上がった佳乃は、感極まった表情で、空良を迎える体制を作った。
 が、彼の様子がおかしい事に気が付く。
「・・・先輩?」

「やったよ、ソラ君やったよ!」
 看的小屋から飛び出して来た観月は、喜びを分かち合おうとして、矢道横に居るであろう同級生の姿を探した。

 すると、矢道の遥か後ろ、体育館方面でスマートフォンを耳に当てている静香を発見した。

「やったねシズ、

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【小説】「twenty all」224

【小説】「twenty all」224

 的中を左右する重要な役割を持つ「角見」が崩れた今、通常的より難易度の高い八寸的を射抜く確率は、皆無に等しい。
 落胆と諦めが意識の中を過った時、空良は皮肉にも、頭の芯がすうっと冷めていくのを感じた。
 無念の表情を浮かべて、彼は謝罪の言葉を口にした。

「すみません、里香セ・・・」

 その時、
 奇跡が起こった。

 突然、今迄感じたことが無い角見の感覚に襲われた空良。
(なっ、何だァ!?)

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【小説】「twenty all」223

【小説】「twenty all」223

(負ける、ものか!)

 会で伸び合いながら、空良は必死に狙いを付けていた。
 一方の御角も、痙攣を起こしている左腕に必死で力を送り込んでいる。
(このまま、永遠に続くのだろうか)
 空良がそう思った瞬間、彼の周りからフッと時が消えた。

『・・・1年D組、国府田空良です』
『私は、弓道部部長の河上里香です。宜しくね』

『空良君、私に勇気を頂戴』
『あと、少しだったのになあ・・・』

『橋を架け

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【小説】「twenty all」222

【小説】「twenty all」222

(20射か・・・)
 空良は、矢立から勝負矢を引き抜いて、ふと思い出した。
 今年の3月、文化センター弓道場。
 里香に負けたのも、ちょうど20射目だった。
(まったく、因果なものだな)
 彼は、一人で自虐的に微笑った。

「・・・そんな事、言えないわよ」
 静香は、電話をかけて来た相手に、そう言った。
「今、試合中なんだよ・・・頑張っているんだよ」

 涙声になって、スマートフォンを降ろしながら

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【小説】「twenty all」221

【小説】「twenty all」221

「あー怖い・・・」
 看的帳で顔を覆っていた静香は、先程から制服の胸ポケットに入れていたスマートフォンが、ブルブルと震えている事に気が付いた。

 慌てて矢道から下がり、応答ボタンを押す。
「・・・もしもし」

「月島ァ!!」
「はいっ!」
 空良の呼び掛けに、佳乃は素早く反応した。
 彼から弦を失った弓を受け取り、手早く新しい弦を張り直す。

「やっぱり、必要だったろ?」
 空良の言葉に、彼女は

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【小説】「twenty all」220

【小説】「twenty all」220

 ダアァン!!
 八寸的が裂けるのではないかという程の衝撃を与えて、御角の矢は勢い良く突き刺さった。
 続いて、
 空良の放った矢は、狙い違わず的の方に伸びて行き、その中心に吸い込まれて行った。

「・・・すげえ」
 二人の競射を見ていた外西が、感嘆の言葉を漏らした。
「これはもう、地区予選レベルの戦いじゃない。インターハイ全国レベルの競射だ」

「柔」の空良に、「剛」の御角。
 タイプの違う二人

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【小説】「twenty all」219

【小説】「twenty all」219

 12射目、13射目、
 二人とも、全く抜く気配が無い。

 進行泣かせの展開に、審判は「八寸的」の使用を指示した。
 通常の霞的より一回り小さいその的は、的中させるのが困難になる為、競射が長引いた時に使用される。
 しかし、空良と御角の表情に全く翳りは無かった。

(お生憎様だな、国府田)
 御角は、自信有り気にニヤッと笑った。
(こうなる事を想定して、俺は1か月前から八寸的の練習をして来たんだ

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【小説】「twenty all」218

【小説】「twenty all」218

「先輩、やったぁ!」
 感極まってぶわっと涙が溢れてきた佳乃は、射場を出て来た空良に駆け寄った。

 が、彼は黙ってそれを押し止める。
「まだ、終わっていない」
 空良の視線の先には、既に次の射の準備に入っている御角の姿があった。
 思わず息を呑む佳乃。
 彼は、静かに言った。
「ここからが、本当の勝負だ」

 11射目、
 的前に立ったのは、空良と御角の二人だけ。
 もう、彼等の勝負を邪魔する者

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