マガジンのカバー画像

本について

44
好きな本についてのあれこれ。
運営しているクリエイター

記事一覧

三浦しをんさんの物語が拓いてくれた植物への興味

三浦しをんさんの物語が拓いてくれた植物への興味

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りすることにした2024年。

4月のテーマは「植物」について。
と言いつつ、5月も半ばになってしまった。

想像以上に膨大な量の文章を読むことになったのだけれど、それでもページをめくるたびに、「植物」が秘める知性と、長い年月をかけて築かれる森の複雑さに惹きこまれていった。

思考や感情が存在しない「植物」をめぐる物語もともと「植物」に興味を持

もっとみる
本屋大賞に選ばれなくとも「おもしろい!」と言いたい

本屋大賞に選ばれなくとも「おもしろい!」と言いたい

全国の書店員が選んだ「いちばん売りたい本」として、毎年、書店員の投票によって絞られた10作品の候補作から、大賞となる作品が選ばれる「本屋大賞」。

4月10日に発表された2024年の本屋大賞に選ばれたのは、宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』だった。

本作では、中学2年生の夏休みをすべて西部大津店に捧げた少女、成瀬あかりが突き進んでいく人生が、滋賀県の街並みとともに描かれる。

主人公・成瀬

もっとみる
物語で描かれていた「AI/人工知能」が現実になるかもしれない

物語で描かれていた「AI/人工知能」が現実になるかもしれない

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りしていくことを抱負にした2024年。

3月に選んだテーマは「AI/人工知能」。

現代において、飛躍的な進歩を遂げている「AI/人工知能」について、その目をみはるほどの成長スピードは肌身で実感していたものの、実際のところ「何がすごいのか」はあまり理解できていなかった。

また、「AI/人工知能」を扱った物語は今までも多く存在していたけれど、

もっとみる
少年の「可塑性」は更生に繋がるのか【天使のナイフ・不可逆少年】

少年の「可塑性」は更生に繋がるのか【天使のナイフ・不可逆少年】

2024年は月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りしてみようと思い、2月もnoteを書いている。

2月に選んだテーマは「更生」。

このテーマについて学びたいと思ったのは、社会派ミステリのなかでもたびたび登場する「少年法」の是非、そして、子どもが生まれながらに宿している「可塑性」について、きちんと向き合ってみたいと思ったからだった。

どんな少年にも「可塑性」は存在しているのか

もっとみる
『ラブカは静かに弓を持つ』を読んで興味をもった「著作権」の在り方

『ラブカは静かに弓を持つ』を読んで興味をもった「著作権」の在り方

月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りしてみようと思ったのが、今年の初め。

詳しい経緯は、下記のnoteに書いているので読んでもらえれば嬉しい。

そんなこんなで、1月のテーマは「著作権」について。

なぜ、著作権に興味を持ったかというと、きっかけは安壇美緒さんの『ラブカは静かに弓を持つ』という長編小説を読んだことだった。

ある日、音楽著作権を管理する会社に勤務している主人公

もっとみる
2024年は月ごとにテーマを決めて興味を深掘りしてみる

2024年は月ごとにテーマを決めて興味を深掘りしてみる

これまで小説を通して、たくさんの興味に出会った。

思いがけない興味に惹かれて、実際にその分野について調べてみたり、現地に行ってその魅力を体感してみたり、とりあえず物語から続く矢印の方向に歩いてみることが多かった。

今年は、そんな物語で出会った興味を
もっと深掘りしてみたいなと思っている。

きっかけは、安壇美緒さんの『ラブカは静かに弓を持つ』という小説を読んだことだった。

上司から音楽教室へ

もっとみる
小説を入り口にして、新しい興味に出会える場所をつくりたいと思った

小説を入り口にして、新しい興味に出会える場所をつくりたいと思った

12月15日、『Epilogue→』という名前で「小説を入り口にして、新しい興味に出会える場所」をnoteに立ち上げた。

今回の記事では、そんな『Epilogue→』という場所をつくろうと思ったきっかけについて語ってみようと思う。

『Epilogue→』を作ったきっかけ子どものころから、小説を読むのが好きだった。

現実では決して出会うことのできない、非日常的な出来事の数々に一喜一憂しながら、

もっとみる
美しく残酷なレーエンデの地も、彼らとともになら歩いていける

美しく残酷なレーエンデの地も、彼らとともになら歩いていける

子どものころから、少し影のあるファンタジー世界に憧れていた。

『ハリーポッター』シリーズをはじめ、『デルトラクエスト』や『十二国記』など、不思議で魅惑的な世界が広がるなかで、決して順風満帆な冒険が続くわけではなく、苦難の連続に立ち向かいながら成長していく冒険譚。

そんな物語が好きだった。

そして、主人公たちが歩む険しい旅路をともに乗り越えられるのは、彼らが冒険する舞台となる非現実的な世界観に

もっとみる
15年の時を経たとしても、まっさらな気持ちで作品を読みたい

15年の時を経たとしても、まっさらな気持ちで作品を読みたい

先日、初めて湊かなえさんの「告白」を読んだ。

中学校の終業式の日に行われたホームルーム。

幼い娘を校内で亡くした女性教師が放った衝撃の告白によって、騒がしかった教室は一転して静まりかえり、異様な雰囲気をまとったまま、物語は幕を開ける。

彼女の告白によって火蓋が切られると、それぞれの章でクラスメイト、犯人、犯人の家族と語り手を変えながら、しだいに事件の全容が浮き彫りになっていく。

語り手とな

もっとみる
芸人さんのエッセイには言葉の面白さが溢れている

芸人さんのエッセイには言葉の面白さが溢れている

数あるエッセイの中でも、特に好きなのが
様々な芸人によって綴られたエッセイ。

漫才、コント、そしてバラエティの平場で、時には体を張って笑いを取り、時には話術を駆使して爆笑を掻っ攫う、そんな芸人さんたちへのリスペクトは止まるところを知らない。

さらに言うと、そんな芸人さんのセンスを余すことなく堪能できるのが、このエッセイと言う分野だと個人的には思うのだ。

言葉一つで、エピソード一つで
ここまで

もっとみる
ささやかな幸せをつぶれるほど抱きしめて【ブラフマンの埋葬/ 小川洋子】

ささやかな幸せをつぶれるほど抱きしめて【ブラフマンの埋葬/ 小川洋子】

今まで読んだ小説の中で
好きな小説はたくさんあった。

もともとミステリーが好きなので、予想だにしない結末が待っている作品は記憶を消して何度も読み返したいと思うし、二転三転するストーリーには読んでいる最中、感情がジェットコースターのように振り回される。

では、今まで読んだ小説の中で
心に深く刻まれている小説はなんだろうか。

振り返ってみると、共通しているのは
ギャップのある世界観があるというこ

もっとみる
重厚な音楽と革命の足音が響く街【革命前夜/須賀しのぶ】

重厚な音楽と革命の足音が響く街【革命前夜/須賀しのぶ】

自分はベルリンの壁が聳え立つ
冷戦下のドイツを知らない。

爆撃によって一瞬で全ての色が消え去り
未だ瓦礫が残るドレスデンの街を歩いたことはない。

それでも、この物語を読んでいると、当時、蔓延していたであろう閉塞感、そして、それぞれの街の空気感や風景の色合いを、まるでその場に立っているかのように肌で感じ取ることができる。

この「革命前夜」という小説では、冷戦下のドイツに音楽留学のために訪れた主

もっとみる
浅草で育まれる文化と人情に生きる人々【浅草ルンタッタ】

浅草で育まれる文化と人情に生きる人々【浅草ルンタッタ】

浅草に越してきてから、3年半ほど経った。

今はまた、近くの街に引っ越してしまったのだけど、ずっと関西で生まれ育った自分にとっては、東京というとてつもなく大きな都市で、初めて一人暮らしをすることになった浅草という街には、数え切れないほどの思い出が詰まっている。

浅草といえば、言わずとしれた東京の大観光地であり、浅草寺へと続く雷門の前では多くの旅行客で賑わい、一歩、仲見世商店街に足を踏み入れたのな

もっとみる
物語に濃縮された少女たちの想い

物語に濃縮された少女たちの想い

人が死ぬ瞬間を見たいと願った二人の少女は、互いにすれ違いながら、それぞれが思い描く「死」と言う存在に向き合っていく、湊かなえの長編小説。

親友の自殺を目撃したと語る転校生の告白を聞いた高校生の由紀と敦子は、暗い過去の記憶を思い出しながら「死」について考えを巡らす。

その後、二人の少女は夏休みの間、死の瞬間を目撃するために、死の匂いが色濃く漂う老人ホームと小児科病棟へ訪れる。お互いに秘密にしなが

もっとみる