しげやまけいすけ

喫茶店、居酒屋、バー、スナックあたりに基本居座ってます  95年生まれ

しげやまけいすけ

喫茶店、居酒屋、バー、スナックあたりに基本居座ってます  95年生まれ

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すべての飲み会に参加してみた結果、どれも冒険そのものだった。

プロローグ 飲み会があるときに必ず考える「行く」か「行かない」か。これはRPGの選択画面と似たようなもので、行けば「何かあるかもしれない」し、行かなければ「何もない」。 これから語る3つのエピソードは、僕が成人してからの約7年間、飲み会という名の冒険にぜんぶ「行く」を選択したことで得られた、経験値についての話だ。 ◇ 苦手のレッテルを貼っていた大学の同級生 Aくんと、ふたりきりで飲みに行ってみた。 大学の講義で顔を合わすことの多かったAくんと僕は、当時それほど話すことが

    • 火葬場で迎えた、28度目の誕生日

      酸素の管を外し、弱々しくビールを飲む伯父の口元が、しばらく経った今も目に焼き付いている。俺はずっと焼肉が食べたかったんだと気丈に、そして寂しそうに微笑む伯父の表情を、これを書いている今でも昨日のことのように思い出す。どうせもうじき死ぬんだから好きにさせてくれと吐き捨てるかのように、半ば強引にビールと焼肉を嗜む姿を、伯父の弟である私の父や、母である私の祖母が時折切なそうに見つめていたあの表情を、どうしてかずっと忘れたくないと思っている。 これは、もうじき四十九日を迎える伯母

      • ひとりと、同じ星の人

        「ひとりと、」シリーズの概要は以下投稿の前書きにて 「人と話すのは好きだけど、それと同じくらい、人と話すのが苦手なんです」 気づけば、ずっと心にあったその葛藤を口にしている自分に驚いた。それはなんてことのない土曜の真昼間、陽の届かない喫茶店の端っこでこぼした本音だった。 ◇ いつも外に列ができるほどに人の気が多いその喫茶店のカウンターには、珍しく僕の他に客はいない。それなのに、一番端に座る僕のすぐ右隣に腰をおろした男を、思わず一瞥した。店員は僕の席からふたつ分空いた席に

        • ひとりと、『あの日、選ばれなかった君へ』

          「ひとりと、」シリーズの概要は以下投稿の前書きにて 本を読むとき、小説であれエッセイであれ、登場人物が自分に重なる瞬間がときどきある。そうなってしまうと自分をかえりみる時間が必要で、それが本を読む速度をゆるやかにしていく。その書き手と読み手の共同作業のような時間がたまらなく好きで、だから私はいつも本を読むのが遅い。誰かの書いた本が、私より私を知っている。私に向けて書かれたはずなどないのに、「なんでわかるの?」と問いただしたくなる衝動に駆られる。その高揚をたしなめるようにペー

        • 固定された記事

        すべての飲み会に参加してみた結果、どれも冒険そのものだった。

          ひとりと、目を合わせたことのないバーの店員

          「ひとりと、」シリーズの概要は以下投稿の前書きにて ひとりは好きだけど孤独が好きじゃないから街に出る私は、それでもときどき孤独を感じることがあった。それも、部屋に籠っていた方がまだましだったと思えるくらいの深い孤独だ。 少し前の話だけれど、月に数回足を運ぶバーがあった。そこは立ち飲み形式で、カウンターテーブルしかないこじんまりとした店だった。決まった店主というのがいなくて、仲良くしてくれる店員もいれば目を合わしたことのない店員もいた。仲良くしてくれる店員はとても趣味嗜好が

          ひとりと、目を合わせたことのないバーの店員

          名前も知らない/【妄想会話劇】

          ―キモ。と思ったらすぐこの話はやめるので言ってほしいのですが、僕、この喫茶店のことが好きなんです。 ―ありがとうございます。え、全然そんなこと思いませんよ。 ―いや、続きがあって、なんで好きなんだろうって思ったんです。老舗の純喫茶で煙草も吸えて、ジャズが心地よくて、騒がしいお客さんもいなくて、珈琲やケーキにもこだわっている。どれももちろん好きな理由としてあるのですが、それだけだったら探せば他にもあると思うんです。だからひとつにこだわる必要もないといいますか。でも、あ、僕は

          名前も知らない/【妄想会話劇】

          ひとりと、カフェで泣き唸る男と、ハダカ野口

          (「ひとりと、」シリーズ概要は以下投稿の前書きにて) 週末よく行く馴染みの喫茶店は、午後になるといつも満席で店の前に列ができるほどだった。だからいつもは午前中に足を運ぶのだけれど、その日は朝までお酒を飲んでいたので、十四時過ぎに向かったら案の定店の前に列ができていた。並んでまでその店に行くほどの魅力は確かにあって、だから並ぶことも考えたけれど、その日は花粉が無駄に頑張っていてその気力もなく、客席が多く確実に入れそうな店を適当に選んだ。 店に入るたびすぐに案内されたふたり掛

          ひとりと、カフェで泣き唸る男と、ハダカ野口

          ひとりと、深夜の居酒屋で元カレを想うギャル

          「ひとりと、」シリーズ 概要 数か月前、朝の珈琲と夜のお酒が楽しい街に引っ越した。 私は、ひとりが好きだけど孤独は好きじゃないから、家は仕事か食事か風呂か睡眠ぐらいでしか利用せず、平日の夜中と休日のほとんどの時間、街に出て過ごしている。カフェや喫茶店、居酒屋、バー、スナック…。長時間滞在できて、私の他に誰かがいる空間で過ごすのが好きだ。 働き盛りの27歳、独り身の一人暮らし。とはいえ特に稼いでいるわけでもないのにもかかわらず外で過ごしたい私は、安賃料の狭いアパートの一室を

          ひとりと、深夜の居酒屋で元カレを想うギャル

          金属バットの適温にふれる

          あまりにも好きなもののことは、誰でも読めるメディアに書き残したくない。しかもそれが人気を博すものだったら、その名前自体が記事の質に影響を及ぼす。そんな風に自分の好きを消費したくない。し、本人たちは多分こういうのを書く人を好まない。のだけれど、今回はさすがに、これだけは今の気持ちとして書き残しておきたいと思う。金属バットについて。 ◇ 大学4年生だった2017年春、就活で出版業界を受けては落ちるを繰り返していたころに、金属バットという漫才コンビに出会った(正確には「追い始め

          金属バットの適温にふれる

          出会わないほうが楽だった。だから出会えて嬉しかった。#アートとコピー

          大人になってから、なにかに打ち込むということをほとんどしてこなかった。 学生時代、小学生から高校生まで必死に打ち込んできたバスケットボールも、大学進学と同時にほとんどやる機会がなくなっていった。お酒が飲める年齢になれたことが嬉しくて毎日のように飲みに出かけ、たまにバスケットボールをしてもそこに反骨精神なんてものはなかった。 高校生の頃に志した保育士という夢も、ピアノに挫折して、実習も子どものかわいさよりしんどさが勝って、多分向いていないんだなと勝手に決めつけてちがう道を早々

          出会わないほうが楽だった。だから出会えて嬉しかった。#アートとコピー

          老人福祉施設でラップを披露してみたら、ご老人ブチアゲで職員ブチギレした話。

          最近の漫画や小説、映画などで、テーマのひとつとしてよく取り上げられている「対話の大切さ」。 直近の有名どころでいうと、どちらも漫画になってしまうが『進撃の巨人』や『タコピーの原罪』などがそれだ(もちろんそれだけがテーマではないけれど)。 対話をしないから争いが生まれる。対話をしないから「正義と悪」という概念が生じる。そんなことはもうみんなわかっているはずなのに、それでもないがしろにされてしまいがちなのが対話だ。 かくいう私も、対話ができない青年時代を過ごしてきた。いつも自

          老人福祉施設でラップを披露してみたら、ご老人ブチアゲで職員ブチギレした話。

          紀行エッセイ『海が苦手だった私が、人生初の一人旅で海を選んだ理由。』

          2018年10月20日 秋の新潟は、冬の東京に匹敵する寒さだった。 田ノ浦海岸には私の他に誰もいない。壮大な日本海と水平線に浮かぶ佐渡島を横目に、私は浜辺を力なく歩いた。 正面を向いていないから尚更だろうか、右目の片隅に見える佐渡島は、空と日本海の境目を曖昧に演出している。黒々しいそれは、まるで浴槽と壁の間に蔓延(はびこ)るカビのように思えてならなかった。 私はそれを視界に入れないよう、砂浜に視線を向けて歩いた。 厚手のダウンコートのせいか、腕を振ることすら億劫に思

          紀行エッセイ『海が苦手だった私が、人生初の一人旅で海を選んだ理由。』

          「たまには地球に優しくしよう」

          まず、この写真をご覧いただきたい。 月並だが、見るからにお洒落で美味しそうなお弁当だ。 食欲をそそる色合いだしおかずの種類も豊富で、育ち盛りの男の子でも満足が出来そう。 ただ、果たしてこの写真を見ただけでおかずの正体を特定できるだろうか。答えは否だ。これだけで全ての食材が分かる人など皆無ではないかと思う。だって、これらを「食材」と呼んでいいのかもわからないのだから。 普段私たちが料理をする時、野菜自体のことはもちろん食材と呼ぶが、果たしてそこから取り除いたヘタや皮など、生

          「たまには地球に優しくしよう」

          村上春樹の小説を読むと、つくづく「書く才能」だけでなく「読む才能」も存在すると痛感させられる。そうして自分の才能の無さに辟易する。何もかも汲み取ろうとして、結局汲み取れているのはほんの僅かなのだろう。そのことに落胆し、それでも文章を追うのが好きな私は明日も読む。今日は眠い明日読む

          村上春樹の小説を読むと、つくづく「書く才能」だけでなく「読む才能」も存在すると痛感させられる。そうして自分の才能の無さに辟易する。何もかも汲み取ろうとして、結局汲み取れているのはほんの僅かなのだろう。そのことに落胆し、それでも文章を追うのが好きな私は明日も読む。今日は眠い明日読む

          実写版『浦安鉄筋家族』、意外にもちゃんと面白い(世代だ)。編集もだが特にキャスティングが凄い。メインキャストもさることながら、花丸木に私が俳優界一尊敬している染谷将太を起用するとは思わなかった。まさか岸井ゆきのと染谷将太の組合せをこんな馬鹿で下品な物語(褒め言葉)で見れるなんて。

          実写版『浦安鉄筋家族』、意外にもちゃんと面白い(世代だ)。編集もだが特にキャスティングが凄い。メインキャストもさることながら、花丸木に私が俳優界一尊敬している染谷将太を起用するとは思わなかった。まさか岸井ゆきのと染谷将太の組合せをこんな馬鹿で下品な物語(褒め言葉)で見れるなんて。

          うめざわしゅんという世界

          まず断っておきたいのが、この本、圧倒的な表紙詐欺である。 初めてこの本を見つけたとき、表紙だけを見て著者の名前を見なかったのがいけなかった。 だからこの本の作者がうめざわしゅん先生だと気づくのに約一年八ヶ月もかかってしまっていた。 ここでもう彼の思惑にまんまとハマってしまっていたわけだ。萌え系の絵に対する偏見だものな。反省。 うめざわしゅん先生の存在を知ったきっかけは『パンティストッキングのような空の下』だ。二〇一五年くらいだったか。初めて読んだとき、衝撃を受けた。 短編

          うめざわしゅんという世界