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華の刻

淋しさって一体なんやろ。なんなんやろね。
戯曲『淋しいのはお前だけじゃない』を読んだ。
タイトルがいいじゃないか。
今更だけれども。
ご存じの方も多いかもしれない、
市川森一脚本、1982年に放送されたTBSドラマ、の戯曲本だ。
 
借金取りの西田敏行が借金をしたやつらと旅芝居の一座を結成する。
座員は彼と彼から借金をした素人たち。
座長はヤクザの愛人だった女剣劇座長の娘(木の実ナナ)で、
看板役者はその男である旅役者(梅沢富美男)、
この二人もまた彼から借金をしている。
っていうかこの二人が借金をしている。
訳ありな人々が座となり、舞台に立ち、そのお金……
〝お花〟などを含めたお金で返済をしようと、する、さて、結果は……?
 
各話のサブタイトルには旅芝居の名作狂言の名が付けられている。
一本刀、仁吉、白浪、赤城山、沓掛、雪之丞、
そしてやっぱり瞼の母などなど。
これら芝居の中の話と現実の話が重なり、
近松が言うところの私もよくもじるところの
虚実皮膜の間として話が展開されてゆく。
 
ドラマにまつわる話はいろんな人から聞いていた。
当時、富美男サンや武生サン(富美男兄)と親しくしていて、
今も旅芝居ファンなお姐様だとか、古い役者だとか。
でも観たことはなかったし、
戯曲本も手には入れたけれど放ったままだった。
この度(体調悪かった時に新感線DVDを観てなどを経て)読み終えた。

己が生まれた年のドラマだ。
でも読んでいてぜんぜん古さを感じなかった。
それどころか、しみじみと思った。

「ああ、旅芝居だ」
 
芝居がたくさん出てくるからじゃない。
全盛期の富美男が出ているからでもない。
 
「旅芝居の旅芝居な魅力」
「旅芝居だからこそのにおいと空気」

本質が描かれていると感じたのだ。

いい悪いじゃない。好きとか嫌いじゃない。
「にほんの」「にほんてきな」情と滑稽さと笑い泣き泣き笑い、
好きとか嫌いとかも通り越したそのにおいが、
「作品(テレビドラマ)」にされていると思ったのだ。
 
人と人だからこそ、の、むずかしさ、ままならなさ。
もつれたややこしさ、笑ってまうこと、笑うしかないこと。
「それでも」生きること生きてゆくこと。
そう、きれいごとじゃねえのだ。
きれいだけれど。きれいじゃないのだ。
舞台。人。人と人。お金。花。華。
すべて、厚く塗った顔から滲むし、におう、匂い立つ。
 
いつも言ったりずっと書いてきたが、
わたしはその「におい」は
どれだけ時代が進み変わろうと消えないと思っている。
例えば誰かや何かが過剰に意図的に美化したり浄化したりしようとしたって、
きっと、ずっと。
からだの匂いと化粧と香水のにおいと食べ物のにおいが混じったにおい。
それはたぶん、淋しさのようなものではないか。
淋しさだけじゃない。
歓びだったり愛しさだったり滑稽さだったりと共の、
生きることそのもののにおい、
淋しさと隣り合わせ、いや、表裏一体というかそのもの、の。
だから、人は惹きつけられ、芝居小屋へと足を運ぶのだと思う。
芝居小屋には猥雑さと極彩色の明かりと共にいつもどこか常に薄暗さがある。
えもいわれぬ人間のにおいが立ち込める。
いいとか悪いとかじゃない。
それが好きとかでも全くないし、そうあってほしいとか嫌だとかでもない。
ただ、とても、人間のにおいだと思う。
 
先月、先々月と、旅芝居の舞台を観る機会がちょいちょいとあった。
大事なこと(舞台)は心に閉まっておきたいから
ネットの海の中にはそのまま書きたくないし書かない。
だが、なんだか胸がいっぱいになるくらいいろんなことを感じた。生きるきれいさを見た。グッと来た。
 
それらとは別に、
いつもの、「ほろ酔いでどっかの舞踊でも観ようかね」会もやった。
酒場梯子の相方であるイケメン好き姐さんと共にの不定期開催ツアーだ。
「これ」という舞踊はなかった。
「曲と、そのひと(役者)と、気持ち(?)と、所作と、舞台姿がぴたっと」
という舞踊が全然なかった。

ただ、「おもしろいな」というか「へぇー」という曲には出会った。
 
小田純平の『華の刻』だ。
 
旅芝居の舞踊でチョイ悪を気取りたい系役者というか
そういう系舞踊をするときに多用される曲を歌ってる小田サン。
ぶっちゃけあれ系舞踊は陶酔入って(踊る人も客席も)なんか気持ち悪い、ゾワゾワする。
小田サンは昨今某会長の縁からなんだろうがちょいちょい舞台にも出て役者と共演したりもしている。
だからなのか、ストレートに「旅役者」「旅芝居」をモチーフとした歌を歌っておられる。わたしは初めて知った聴いた。
 
踊っていたのは巧くはない役者だ。
いつ何を踊っても巧くない。
でもいつも言うが、巧いことだけがいつも必ずしも正しいし良い訳ではない世界だ。(わたしは嫌だけど)
技巧、見た目、愛想(ナカミも伴わないのにそればっかで媚びてるのはわたしは嫌だけど)、雰囲気、
さまざまな個性をさまざまなお客さんが好み、それぞれを応援する、多様さが深い、生きる舞台世界だ。
そこで、他の血族や師と比べられたりして
少々頑固かつまっすぐにも曲がってしまったような彼は、決してイケメンではないが、でも、腕や足の筋肉がいい意味で「エロい」。
なのに自慢の(?)肉体を魅せるような腕や足を出す舞踊もなく、〝省エネ〟な舞踊しかしなかった。
わたしと友人は「えー。出そうよー」とか
「脱いでよーそこしかええところないねんから」とかめちゃくちゃだがたいへん真面目な感想を言いながら帰路についたのだが、
彼が羽織姿で踊ったのが『華の刻』だった。
 
あの舞踊は、わるくなかった。曲の力なんだろう。けど。
 
あなたが居る限りここ(舞台)に生きましょう咲きましょう。
生きてますよ生かされてますよ。
咲いて咲かされてますよ。
そんな歌を小田サンがあの声あの歌い方でたっぷり歌う。
なんてこともない好きでもない巧くもない役者が淡々と踊る。
魅入っている人たちが居る。
芝居小屋でぎらぎらできらきらのライトが役者を照らす。
いろんなひとが居る。
舞台にいるひとも、いない人も、皆、皆、
咲いてる咲かされてる。生きてく。しょうもな。めっちゃええやん。
 
この書を見つけたのは関東の某百貨店の催し、昭和展だった。
「Momoさんの好きなスタン・ハンセンの「ラリアット百連発」っていう本があったよ」
とか教わって行ったらハンセンは売り切れていて、
高かったけどこれを買った。
 
宮藤官九郎の『タイガー&ドラゴン』は
本作オマージュの落語バージョンだ。
本人も公言されている。
宮藤さんはドラマ『不適切にもほどがある!』の際のインタビューでも言っていて、笑ってしまった。
「正しいのはお前だけじゃない」
ほんまにね。面倒臭いね。しょうもないね。
愛しいねえ。ほんに。とても。


この記事、読んで下さった方、お言葉やお気持ちを寄せて下さった方、ほんとにありがとうございます。


他では読めない旅芝居・大衆演劇記事、揃ってますよ。
よぉ書いたな。書いてきたな。前のBlogからやでな。

個人的な旅芝居観劇にはたぶんしばらく足が向くものが……なかなかないかも(?!)ですが。

旅芝居の某プロジェクト(仕事関係ね)はゆるゆると(?)進んでいます。
ただね、己一人のことじゃないし、あのような業界だし、狸(笑)ばかりだし、なかなかに、ゆるゆるですが。


◆◆
【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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12月Vol.34からは不定期コラムコーナー「DAYS」も書かせていただいています。

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酒場話「心はだか、ぴったんこ」(現在19話)と
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旅芝居・大衆演劇関係では各種ライティング業をずっとやってきました。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
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担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
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