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ラブタームーラの魔法昆虫

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記事一覧

21.星降り湖で(最終回)

 タンポポ団一同は一旦家に戻り、夜が訪れるのを待った。
 ふだんは夜の外出など許されない小学2年の子ども達だったが、博物館の館長が一緒だと聞かされ、二つ返事で許可がもらえた。
 雲1つない、明るい満月の夜だった。そろって博物館へと赴き、光アゲハの入ったカゴを持つ館長と合流する。
 虫カゴは、まるでランタンのようにキラキラと明るく輝いていた。これなら、夜の森を十分に照らしてくれるだろう。もちろん、帰

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20.最後の魔法昆虫

 金曜日、美奈子が学校から帰るなり、館長から電話があった。
「美奈子君、わかったぞ、シャリオン・レリアリウム・クレイアンティス・パナハヒュウム・マニールキラ・スタムミア・トゥーレリア・フォルディラクスの正体が!」
「ええっ、どんな怪物なんですか?」
「怪物? とんでもない。シャリオン・レリアリウム・クレイアンティス・パナハヒュウム・マニールキラ・スタムミア・トゥーレリア・フォルディラクスはまったく

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19.銀色のオカリナ

 3月ともなると、ラブタームーラに暖かい南風が吹くようになってきた。木の枝からは芽が吹き、クロッカスやチューリップが花を咲かせ始める。
 すっかり緑色になった三つ子山の1つ、三の山を、タンポポ団はテクテクと登っている最中だった。
「本当にあんのか、銀のオカリナなんて」先頭を歩く浩は、フウフウと息を切らせながら文句をぶつける。
「言い伝えによれば、この三の山のどこかにあるそうですよ」元之は、手帳に書

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18.大きなブルドッグ

 このところ、とんと魔法昆虫の情報がなかった。それこそ、噂話すら聞かない。何か手がかりはないかと、タンポポ団は博物館へと行ってみることにした。
 中に入ると、来館客の中心で展示物の説明をしている館長を見つける。
「あれはステゴサウルス、そしてこっちがトリケラトプス。ステゴサウルスは1億5千万年前のジュラ紀に生息した恐竜で、互い違いに並んだ骨版が、まるで背びれのようにあるのが特徴なんですな。いっぽう

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17.雪の降った朝

 午後から降り始めた雪は夜になってもやむ気配がなく、ますます勢いを増していた。
 大人達は憂鬱そうに顔を曇らせ、子供達は大はしゃぎ。
「こりゃあ積もるぞっ」浩が歓声を上げる。
「明日は雪合戦ね」いつになく美奈子もそわそわ興奮していた。
「一応、手袋はしてくるように。しもやけはあとが大変ですからね」合理的な元之は注意を忘れない。
「この白い粉みたいなのが雪?」緑は空を見上げながら言った。長い睫毛に、

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16.冬のセミ

 ラブタームーラにも木枯らしが吹き始めるようになってきた。
 そんなある日、緑が耳に手を当てながら言う。
「お姉ちゃん、セミが鳴いているよ」
「まさか。だって、もう12月なのよ。とっくのとうに土の下で、今頃はぐっすり眠ってるわ」
 けれど、言われてみれば、かすかにミーンミーンと聞こえていた。
「あれってセミじゃないの?」緑は小首を傾げながら美奈子の顔を仰ぐ。
「そうねえ、セミの声よね。誰かがテレビ

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15.見えない赤ちゃん

 元之には妹がいた。生後8ヶ月で、江美利という名である。元之は江美利が可愛くてたまらず、よく抱っこしては「あぶぶぶぅ」とあやした。
 江美利のほうも元之が大好きで、抱かれるとうれしそうにキャッキャとうれしそうに笑う。
 元之は面倒もよく見た。母親の代わりにオムツを交換したり、ミルクを飲ませたりするのも億劫がらずにする。
 もし浩や美奈子がそんな様子を見たら、元之の意外な一面にびっくり仰天するに違い

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14.和久の憂うつ

 そもそも魔法昆虫を捕まえるために結成したタンポポ団だった。このところ、そのことも忘れかけ、半ば探検隊として活動することが多い。

「今日は『岩神様の洞窟に入ってみようか」浩が言い出した。
「えー、バチが当たるよう」そう弱音を吐くのは和久である。タンポポ団の中で一番の臆病者で、いつもしんがりを務めていた。
「ばかね、神様なんいるわけないじゃん」美奈子はばかにしたようにいい下す。
「そうですよ、和久

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13.空の散歩

 ある日曜の朝、浩はなぜか早くに目が覚めてしまった。時計を見ると、まだ5時ちょっと過ぎ。
「もうちょっと眠っておこう」そうつぶやいて、毛布にくるまる。けれど目が冴えてしまい、まったく眠くないのだった。
 毛布をがばっとはねのけると、そのままベッドを下りる。もう、このまま起きてしまおう。
「朝の散歩もいいかもな。ちょっと、ほっつき歩いてくるか」両親は2人ともぐっすり眠っているらしく、家の中はしんと静

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12.化石掘り

 三つ子山を前にして、ラブタームーラ小学校の2年生達がずらっと整列している。居合わせているのは各担任、そして博物館の館長だった。
 美奈子達の担任の小倉先生が言う。
「いいですか、皆さん。これから皆さんには化石掘りをしてもらいます。ここには、まだまだたくさんの化石が埋まっています。もし、化石が出たら館長さんに見てもらいましょう。あなた方の化石が、博物館に並ぶかもしれませんよ」
 続いて、館長が簡単

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11.タイフウ

 長かった夏休みも終わり、ようやく学校が始まった。
「9月に入ったからといって、まだまだ暑い日が続きます。できるだけ日陰を歩いて登下校するようにしましょう」担任の小倉静子先生がそう注意をする。
 外では風がビュンビュンとうなり、葉や枝、そして木そのものを揺らしていた。
「すごい風だな。そういえば、今日はタイフウがくるって言ってたぞ」後ろの席で、浩がそうささやく。
「タイフウってどんなの?」和久が聞

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10.ダイヤモンドカマキリ

 背の高い2本のニレの木が、ざわざわと葉を揺らしながらおしゃべりをしていた。
「今日も暑いのう。雨でも降ればいいんじゃが」
「雨なら、先月までたんと降ったろう。わしはもう十分じゃよ」
「まあ、公園番が毎日水を撒きに来てくれるんで、だいぶ楽だがなあ」
「それに、暑い暑いと言っておっても、じきに秋が来て、すぐ冬だ。わしらの葉がきれいさっぱり抜け落ちるのも、そう遠くはないて」
 ここは2丁目にある中央公

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9.ソーダ池の観察



 学校で、自由課題の宿題が出た。自然や町のことを調べて、レポートを書かなくてはならない。
「何を調べたらいいんだか、ちっとも思いつかねえよ」浩がさっそく愚痴をこぼした。
「例のデパートのことは? ほら、あの昆虫工場」そう言ったのは美奈子だ。
「いや、それはだめですよ。口外しないと約束をしたじゃありませんか」元之が反論する。
「博士に頼んで、発明品とか見せてもらう?」和久が提案した。
「だめよ、

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8.あふれた夢



 美奈子達は、捕まえたダイオウカブトを博物館へ持っていった。
「おおっ、これぞまさしくバルバウム・クライオンテクスだ!」館長は、虫かごの中をしげしげと覗き込む。「ついさっきまで、こいつのことを調べていたところなんだ。『途方もなく大きな甲虫』という意味でな、とにかく凶暴な奴なのだ。よく見つけてきてくれたな」
「ある工場に突然、出現したそうですよ。機械が何台か踏みつぶされていましたっけ」元之は、デ

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