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道草晴子 『みちくさ日記』 : 誰もが分ち持つ〈天性〉

書評:道草晴子『みちくさ日記』(torch comics・新潮社)

先頃刊行された著者の第2作『よりみち日記』を先に読んでから、著者第1作である本書へ戻って読むことになった。つまり、著者のその後を知ってから、その原点を確認することになったわけだが、その感想は「やはり、著者は変わっていない」ということだった。

私は第2作『よりみち日記』のレビューで、著者の魅力を『「人間的な素直さ」なのではないかと思う。それがあるからこそ、作者はその人生において、弱さを抱えながらも孤立することなく、周囲に支えられることで生きてこれた、そんな普通に「弱くて強い人」なのではないだろうか。』と説明したが、本書を読んでも、その評価が変わることはなかった。

自伝的エッセイマンガである『みちくさ日記』『よりみち日記』を通読して驚かされるのは、やはり著者の、その非凡な「素直さ」だろう。
それゆえに、時に自身を責めすぎたち、貶めすぎたりすることがあったとしても、しかし、他者を責めることのない著者の態度は一貫している。それは、思想や信念といったものではなく、持って生まれた「天性」としての「素直さ」に由来するものなのだ。

だからこそ、著者の周囲にはいつでも、周囲と必ずしもうまくいかない障害者としての著者を肯定してくれる人、つまり「褒めてくれる(奇特な)」人が存在する。
著者独特の「○○さんは優しいなあ」という語りで表現される、理解者が登場するのである。

これは決して、著者が幸運だったからではないだろう。そうではなく、著者の「非凡な素直さ」が、こうした人たちを魅き寄せたに違いないのだ。

つまり、著者は「精神障害」を患うという困難に苦しめられ、そしてそれは完全に治癒するものではなく、たとえばその「不器用さ」のように、著者の性格の一部を構成するものともなっているが、しかしまた、そうした「弱点」が、著者の「非凡な魅力」にもつながっているという事実を、私たちは決して見逃してはならない。

誤解されては困るが、私は何も「他者を批判すること」がいけない、と言っているのではない。それは、この社会においては、是非とも必要なことなのだ。
けれども、そうした社会的「苦役」から免れて得ている幸福な人も、また存在するのであり、そうした幸福は、相応の苦労や苦しみの対価として与えられているということなのである。

著者は、天与の苦痛を与えられた分、天性の美徳を与えられた。
であれば、天与のものとして当たり前に恵まれた心身と生活を与えられた私たちは、みずからその対価を社会にたいして還元し、本書の著者を支えた人たちのように、弱者を支えられる「優しい人」になる使命があるのではないだろうか。

著者と私とは、いろんな意味で、まったく異なるタイプだからこそ、そんなことを考えさせられた次第である。

初出:2020年11月6日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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