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壮途

『痛いとか恥ずかしいとか怖いとか、そーゆーのはどうにか耐えれたんです。
その5年間で一番辛かったのは、それでも親を憎めなかったことです。』


整理をするために開けた引き出しの中。
内容には似つかわしくない
美しい字が踊っていた。

日本の西。
長閑で美しい海に囲まれたその島の孤児院に、彼女は居た。

この手紙をくれた時は、18歳の冬。
高校を卒業する3月には孤児院を出て行かねばならない、そんな不安と期待の入り交じっている時だと文面はいう。

この孤児院の誰とも何の面識もない。
ただ、ある事がキッカケでここ5年ほど連絡を取っている。

時折、院の子達から手紙が届く。
幼い子供が、顔も声も知らない人間に手紙を書くのは億劫だ。
なので院長先生には、気を遣われませんよう…と伝えてはあるが、届く。
まぁそうは言ってみても、やはり無邪気な誤字を見ると嬉しい。


概ねは日常の出来事が面白おかしく書かれてあるが、その手紙は違った。
孤児院に来た経緯やその都度の感情、今まで・これからの人生についての胸の内が赤裸々に綴ってあった。
まるで「最後の手紙です」といわんばかりに。


文中には
『最初、○○さんから園にクリスマスカードが届いた時には、気まぐれの優しさはムカつく!と思いました(笑)』
と、書かれてあった。

私がここ最近少し悩んでいた事、恐れていた事、ズバリ。

でも、ある日の手紙を見て変わった、と。
私の書いた「3年前より、字がシッカリしましたね!力強くてとても綺麗、羨ましいです」という言葉に
その時に“経過を見てくれている人がいる”そう感じたのだという。

確かに『のびのびとハッキリした字になったなぁ』そう思った記憶がある。
字に人となりは出る!そう思っているので、彼女の字を見て何だか少し安心したのだ。


彼女は虐待を受けていた幼少期、誰に何も聞いてもらえず話してもらえず
与えてもらえず“無い”も同然の存在だったのだろうか。
どうせ誰も見てくれてはいない、そう思って生きてきたのだろうか。


毎年クリスマス前に、院の在籍人数・未就学児の人数を聞く。
昨年の最年少は5歳の男の子。一昨年は4歳の男の子。

「増えていない」
それだけが本当に嬉しい。

そして今年も私は悩む。
独り善がりになってはいないか、傷つけていないか。

久々にコートを羽織る時。
柔らかな雪が舞い降りる時。
12月、街が眩く輝き出した時。

今年も不安の中で、また通話ボタンを押すのだろうか。


この手紙が届いてからもう4年。
美しく、しっかりと、真っ直ぐな…
誰かがどこかで羨ましがるような
そんな人生を送っていて欲しい。












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