見出し画像

香月日輪「桜大の不思議の森」

都会から遠く離れ、豊かな自然に囲まれた場所。少し歩けば、外からの人だともの珍しくこちらを見ているものの、そこまで嫌味を含んだ視線ではないようである。子どもたちは軽快に活発に緑の中ではしゃいでいる。森も子どもたちと一緒になって戯れて、心地よい音を立てる。こちらに気づけば、元気な歓迎の言葉を掛けてくれる。そしてここは「森を愛し、神様を大事にする俺の大好きな村や!」と教えてくれる。昔ながらの日本の鮮やかな風景、素敵な信仰を内包した村に思われた。遠くから「おーい」という、何処かで覚えのある声が聞こえた。「お!センセイ!」と子どもたちは、律儀なお犬様のように向うへすっ飛んで見えなくなった。森の木々は笑って「愉快な子たちでしょう?」と言うだけ言って、止んだ。
ーーーーーーーーーーーーーー

こんにちは。
少しだけあらすじをお借りしながら、彼らに会ったらという小噺でした。お付き合いいただきありがとうございます。
私としたことが、これを書いたときにこの本についてを既にnoteで書いているものかと思いこんでいました。改めて見直してみたら、やってないじゃないか私と固まってしまいました。
實は最後の「神罰が下ればー」というくだりはこの本であとがきで香月日輪先生で書かれていたのをそのまま引用させてもらいました。なんなら私も同感くらいに思っています。

さてこちらも、香月日輪さんが執筆なさった作品の一つです。この方が書かれたもの2作品扱って書いたことがあります。最後にそのURLと商品についてのリンクを貼っておきます。気になってくださった方はぜひ、ご覧いただければ幸いです。著者様に関しては既に書いたので、この記事では割愛して早速本編についてのことをつらつらと話していきます。

このお話はつい割と 最近読んだのですが、これは香月先生がお考えである日本の美しさ自然と人、その因果応報あるいは恵方果報に纏わるものをありったけ詰め込んだ作品と思います。どちらにおいても、良いとされることも悪いとされることもそれによってどうなるかというのがとても分かり易く物語になっています。
チャプターは「季節うつり」「センセイ」の2つだけです。文字数としてもかなり少ないので、読む時間が少ない、読むのに抵抗があるという方も手軽に読めると思います。児童文学で読みやすい中、子どもやこの国の風習や文化への洞察力はいつも目を見張ってしまいます。そして、それは大人でも忘れてはいけない部分を呼び起こさせる事柄でさえ堂々とさらっとぶち込んできます。流石です。どの作品になっても、先生はずっと同じことをお伝えでした。たくさんの方に読み継がれ、そういう人が増えたらいいのになと願うばかりです。この記事がそのきっかけになれば書き手冥利とも言いましょうか、とても嬉しく思います。
皆さんは自然や日本の信仰というとどういった事を思い浮かべるでしょうか。多分思い浮かべられた風景が皆さんの「黒沼村」になるんだと思います。それらが居心地がいいと思えばそれが皆さんの正解の村です。わざわざ、誰のどうと比較する必要はありません。でも、自分の村はこうでこうなんだという提案や紹介し合うのはむしろ素敵なことだと思うので、ぜひそれは大事にしていただきたいです。
もう一点は人とその信仰と「ものの見方」の三点です。その村の中で不思議なことが起こる、水が何もしなくても綺麗である、神社に神様や妖怪が住み着いている、など、夢のような話が現実であったとしましょう。会話の中で「神様に会った!」「犬が人間の言葉をしゃべった!」「この場所は神域だから人は入っちゃダメ!」などという内容が飛び出た時、何処まで信じるでしょうか?新しく来た者が大変な癇癪持ちで周りに危害を加えるとしたら貴方はどう思われますか?これはその率直な部分を相当明確にして取り上げています。
この中で取り上げられている問題は「下町不思議町物語」とは、真逆の視点と感じます。両方読み比べてみると、何が同じで何が異なるのかの発見もあって面白みが変化するかなと思います。読んでみるまで、同じ著者でメッセージが同じでも課題が異なるとこう変わってくるんだと思い知らされました。

この作品も「下町」と似て、関西弁でしゃべる人が多かったです。香月先生のルーツが大阪であったり、和歌山であったりとご本人を反映させている部分が大きいのかもしれません。「大江戸」を見返していて、話し方のギャップから、そんな風に感じました。
この国の風習や文化、信仰、発想などは他の国では見られない本当に面白いものだと思います。「外」を見ると改めて思います。
妖怪や神様、歴史について知ってみたいと思われた方はいろんな県に神社仏閣、資料館や博物館はたまたテーマパークもあると思います。ぜひ、足を運んでみてこの国の「独特」に触れてみてはいかがでしょうか。

ーーーーーーーーーー
「やっぱ、センセイってあんさんの事でしたか。ご無沙汰ですね。」
丸眼鏡で髪をひとつに束ねた男の人で、別のどこかでも見た顔であった。
「いつぞやの。久しぶりじゃな!相変わらず別嬪さんや。」
「どこがよ。何見て言うとるんですか?」
軽口も変わらずで盛大な大声で笑ったが、いつもどこか深い所を承知している男だと思う。子どもたちまで囃しはじめたので、勘弁願いたい。
「なあセンセイ。この人もセンセイなん?」
「んんん、どうやろうなぁ。」
「ただの人やに、桜大くん。」
「お前さん、タダもんちゃうやろうに。」
「話が拗れるんでこのくらいにしてもろてええですか、「センセイ」殿?」
しゃあないのーという空気を出しながら切り上げてくれた。子どもたちは森の中へ吸い込まれていった。
「あっちの俺は、元気かいな?」
「いつも通りにのらりくらりですわ。て言っても、いつも私もあっちにおるわけじゃないですけどね。」
「そらそうや。お前さんのおるとこは、ここでも、あっちでも、別のとこでもない。一個だけやからな。」
「そうですね。」
「そこも心得とっておんのやで、こわいお人や、お前さん。」
「ひどいいわれようですね。」
「ほめとんねん。とっとき。でも、何処にでも来たい時に来ればええねん。いつでも、物語への時間が必要な時は開いてるもんや。」
「そうします。」
ほいじゃあ、気ぃ着けてとぶらりと子どもたちに混ざって森へ村へと帰っていく。桜大や他の子どもたちは戻ってくるなりさっきの人はどないしたんじゃ?と尋ねている。実はさっきのは妖怪だったので帰ったとか聞こえた。子どもたちの興味は爆上がりであった。声は大きいはずなのにこちらには聞こえなくなってしまった。
私もさてと必要な所へ戻るとしよう。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ーーー


この記事が参加している募集

note感想文

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?