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人間と人生を味わい尽くす~神山典士作品集

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音楽、スポーツ、演劇、芸能、ビジネス、料理等、あらゆるジャンルの人間ドラマを描くノンフィクション作家神山典士作品集
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2016年6月の記事一覧

TheBazaarExpress110、『ペテン師と天才~佐村河内事件の全貌』、第一部第一章・奇妙な出会い、二重人格、衝撃の告白

1章、 バランスの悪い会話

・日曜日の居酒屋

 その日、私の目の前で展開されていたのは、とても奇妙でバランスの悪い、不可思議な光景だった。

「まず生ビールにしましょうか。4杯ね。子どもたちは何にするの?」

「オレンジジュース」「私はグレープフルーツジュース」

 千葉県船橋市と習志野市に挟まれた、JR津田沼駅に隣接したビル内の大衆居酒屋。その個室には、二人の少女を含む4人家族と私、そしても

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TheBazaarExpress109、「新世界三大料理~和食は世界料理足りうるのか?」第三章・世界が憧れる食材大国、日本料理

1、 世界に広がる日本の食文化

・コペンハーゲンでの偶然の出会い

 その店との出会いは、本当に偶然のことでした。

 広い店内はごてごてした飾りはなくシンプルなしつらえで、大きなテーブルが整然と並び、床も壁も天井もぴかぴかに磨き上げられています。私が入ったのは午後3時ごろでしたが、それでも店内の約半分、30人ほどの家族連れやカップルたちが食事を楽しんでいました。カウンターの向こうに広がるのは、

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TheBazaarExpress108、『みっくん、光のヴァイオリン』4章、5章、あとがき

第4章 みっくん、カンタービレ!

《ソナチネ》

「美来ちゃん、五年生でコンサートが開けるなんてすごいわね。お客さんの前で何曲も演奏するのは大変だけど、がんばってレッスンをしましょう」

 石川先生はそう言って、コンサートの開催に賛成してくれました。もしこのとき石川先生が、「五年生でコンサートなんて無理です、早すぎます」と言っていたら、このコンサートは開けなかったかもしれません。なんに対しても前

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TheBazaarExpress107、それでも「ソナチネ」は弾いていきたい~少女の叫び

「私はそれでも『ソナチネ』は大好きだからこれからも弾いていきたい。でも、嘘の作曲家のクレジットが入るのはいやだ」

 義手のヴァイオリニスト大久保みっくん(愛称、現中1)がそう言ったのは、正月半ばのことだった。この夜集まっていたのは、大久保家4人(両親と妹)と私、そして神妙な表情でうなだれている作曲家・新垣隆氏。すでに新垣氏は前年暮れに、大久保家4人の前で「実は私が佐村河内の曲を18年間つくり続け

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TheBazaarExpress106、貴族になりたかった男を支えた妻~辻調理師学校辻勝子

「今も心に残る、料理に対する主人のあの言葉」

私、恥ずかしながら初めて主人に出会ったときにいただいた名刺を持っているんです。娘や息子にも見せたことがないんですが、ちょっと言えば、私の宝物です。

「読売新聞記者」って書いてありますでしょう。あの日、もう50年以上前のことになりますが、アメリカの交換留学生が10名ほど父が経営していた料理学校をみたいということで、主人は記者兼通訳としてやってき

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TheBazaarExpress105、「ゴーストライター論、第二章」

著者の人生をデザインする喜び~黄金のゴーストライティング作品、「矢沢永吉激論集成りあがり」が生れるまで

 2000年のこと。「長崎ぶらぶら節」で直木賞を受賞したばかりの作家・作詩家のなかにし礼氏をインタビューしたとき、のっけからこう質問して少々怒らせてしまったことがあった。

―――作詞家は、いくらヒットを生み出せても、最終的に作品は歌手のものになってしまう。それが寂しかったのではないですか?

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TheBazaarExpress104、奇跡の読書感想文~佐々木風美

 その読書感想文との出会いは鮮烈だった。2012年、第58回青少年読書感想文全国コンクールの小学校高学年向けの課題図書に、拙書『ピアノはともだち 奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密』(講談社)が選ばれた。全国から寄せられた感想文は約445万通(小学校低中高3部門、中学、高校と計5部門総計)。その中から小学校高学年の部で内閣総理大臣賞を受賞したのは、宮城県名取市那智が丘小学校6年生(当時)佐々木風美さん

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TheBazaarExpress103、「知られざる坂井三郎」書評(産経新聞)

 映画館では『風立ちぬ』、書店では『永遠の0』が一際目を引いたこの夏。慎ましやかに、本書が出版された。

 戦争と零戦に対する日本人の興味の深さは前二者の人気からもわかるが、本書にはそれとは全く異なる視点がある。

 宮崎駿は登場人物にこう言わせる。「飛行機は美しくものろわれた夢だ」。百田尚樹は主人公に、「いつかお前たちに語らなければならないと思っていた」と、60年前の戦争秘話を語らせる。

スタ

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TheBazaarExpress102、『ゴーストライター論』~あとがき

チームライティングの視点

著者の戸惑い

「私の著書が出版された時、神山さんにはその設計図を見せていただきました。それは嬉しかったです」

 本書にも書いた、三重県の障害者アーティストのアトリエを主宰している画家から手紙をいただいたのは、2014年、佐村河内事件報道の中で「ゴーストライター問題」がひとしきり喧伝されたあとのことだった。

 騒動に翻弄された私の身辺が落ち着くのを見計らうように、画

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TheBazaarExpress101、めざせ給食日本一!

 全国から2266校(給食センター含む)が参加して行われた、給食の全国大会『第8回全国学校給食甲子園』(2013年12月8日開催)。その栄冠は、史上初めて文京区青柳小学校の男性栄養士・松丸奨さん(調理師は大野雅代さん)の頭上に輝いた。しかも、審査基準の一つとして地産地消を謳う大会でありながら、これまた史上初めて、畑や生産者の少ない東京都(文京区)のメニューが評価されたことも驚きだった。審査員の一人

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TheBazaarExpress100、ソフトバンク、光通信のあとはオレに任せろ~孫正義の子孫たち

「株式公開延期」

 案の定、証券会社の動きは早かった。ちょうど東京の桜が綻び始めた三月三十一日、光通信が中間決算で営業赤字を出したと発表した翌日に、都内にある新興企業A社の経理担当部長、吉田正彦(仮名)のもとに担当証券会社からアポイントが入った。

 やってきたのは、ふだんはめったに顔を見せることのない公開引き受け部の部長を含む数名の証券マンだった。

「御社の八月上場予定というスケジュールを見

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TheBazaarExpress99、世界の日常を変えてやる、緻密なる暴君・ソニー・コンピュータエンタテインメント社長・久多良木健

規格外れの男が

常識破りの

商品を生んだ

 その現場でいちばんはしゃいでいたのはこの男だったのかもしれない。三月四日早朝の渋谷。この日発売となったプレイステーション2を求める徹夜の行列の前に、その「生みの親」、久多良木健(四九歳)は小型のカメラを持って突然現れた。午前七時の発売開始の模様を嬉々としてカメラに収めると、集まった報道陣を尻目にスタスタと歩き出す。はたしてこの男、どこから歩いてきて

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TheBazaarExpress98、婦人公論インタビュー~神山典士、ノンフィクション作家

(プロフィール)

こうやまのりお 1960年埼玉県生まれ。84年に信州大学卒業後、編集プロダクションを経て独立。96年『ライオンの夢 コンデ・コマ=前田光世伝』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。2014年、佐村河内守氏の疑惑を追及した『週刊文春』の記事で第45回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞

(本文)

耳が聞こえないと

信じきっていた

私は『週刊文春』(2014年2

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TheBazaarExpress97、中途失聴・難聴者の会代表S氏へのインタビュー

※56歳で突発性難聴になり、現在は補聴器を使用しないと、全く聞こえないという。

――口の動きで会話を読み取る『読話』を身に付けることは難しいことですか。

彼は30歳半ばで中途失聴したそうですが、そこから『読話』を学ぶのはとても大変だったと思う。読話は、それほど難しいことなのです。失聴したのが、若い年齢ほど読めると言われています。

私が失聴したのは56歳、今から12年前です。『突発性難聴』で、

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