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もぐら録

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紫原明子さん主催のもぐら会にて執筆したエッセイ、「日々の問い」に対する回答や、生活をしながら考えた自分のテーマに対する思考の記録です。
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記事一覧

檸檬にまつわるあれこれ

檸檬にまつわるあれこれ

私の通うカフェマメヒコでは、冬になると柑橘のデザートがメニューに並ぶ。どれも美味しいのだが、私は特別レモンケーキが好きだ。檸檬の果汁がたっぷり混ぜ込まれたカスタードクリームと、さっぱりした生クリームの、黄色と白の綺麗な二層。爽やかな酸味が鼻に口に広がり、どっしりしているというのにいつもぺろりと平らげてしまう。

そう、檸檬の旬は蜜柑と同じく冬だ。それなのに私は、檸檬といえば蒸し暑い京都を思い出す。

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熱海の片隅から−−2020年の卒論に代えて

熱海の片隅から−−2020年の卒論に代えて

2020年1月3日、私は熱海へ向かった。まだコロナウイルスは、大陸のとある地方で発生した新種のウイルスという、小さなニュースに過ぎなかった頃だ。正月の親戚の集まりに笑顔を貼り付けて参加した後、私が一人暮らしの家に帰ってきてできたのは、涙を流すことだけだった。先立つ12月にずっと続けてきてた「曖昧な関係」をはっきりさせたくて、彼に食い下がった結果、音信が途絶えた。そのまま、一人迎えた新年だった。

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牛蒡の味を知って大人になる

牛蒡の味を知って大人になる

映画なら主人公が漫然と日々を過ごしているのなんて冒頭5分程度の話なのに、こちらの人生とくればいつまでたっても物語は動かない。がさっと心も身体も攫われてしまうような瞬間は、物語の始まりは、まだか。

これまで私は、コラムとも日記ともつかないような文章をwebのあちこちにばらまいてきた。それらを今、ふと思い立って読み返してみると、あるときには安月給でも無我夢中で仕事をしていたり、またあるときにはどうに

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GoTo女の一人旅、輪郭を取り戻す旅

GoTo女の一人旅、輪郭を取り戻す旅

決めた。行こう、瀬戸内海。

コロナウイルスが猛威を振るい未だ多くの人が移動を自粛する中、もう居てもたってもいられず一人旅をすることに決めた。 都合の良い解釈なのはわかっているけれど、呼ばれているような気がしたのだ。瀬戸内国際芸術祭の舞台にもなる、直島および周辺の島々。穏やかな青い海、気持ちの良い風、島の自然に溶け込むように存在するアート作品達が待っている、あの場所へ行かなければ。

こんなにも一

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愛を教えてくれた、桃のこと

愛を教えてくれた、桃のこと

スーパーの店頭に桃が並ぶ季節になった。うやうやしくこちらを見つめるピンクと白のグラデーションの丸。私の一番好きな果物だ。

実家で暮らしていた頃、この季節になるとたまに母が食後に桃を剥いてくれた。ひとつの桃を母と弟とわたしの3人で分ける。美味しい水々しい果肉部分は弟とわたしに同じくらいの量だけ。母は種の周りについた果肉の部分。

小さい頃は、母も同じくらいだけ桃の取り分があるように見えていたけれど

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ある女の密かな決めごと

ある女の密かな決めごと

いつの間に、こんなことばかり覚えたのだろう

腕っぷしの強さや肩書を振りかざし
虚勢を張る男たち

女の私はそれを微笑みで受け止め称賛する
たとえ心の中で反吐を吐いていたって
その方が生きやすいから

女であることを利用して何が悪い
滑稽な男を愛して何が悪い

生きていくのに必要なのは
男が愛でる美しさと男を気持ち良くさせる器量
愛され凌駕されたい欲望は身体の中で疼いているし

コートを纏い、

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2019年を振り返る

2019年を振り返る

2019年の手帳の最初には、昨年末の紅白を観ながら書いたメモが残っている。

今はこんなに悲しくて涙もかれ果てて
もう二度と笑顔にはなれそうにもないけど

そんな時代もあったねといつか話せる日が来るわ
あんな時代もあったねときっと笑って話せるわ
だから今日はくよくよしないで今日の風に吹かれましょう

2019年を振り返ってみれば激動で、2018年の年末にはその予感だけが満ちた閉塞感のなかにいた。そ

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マッチョな必勝パターンが敗北するとき

マッチョな必勝パターンが敗北するとき

時々猛烈な焦燥感に襲われる。

もう30なのに大した仕事もしていなければ、結婚も出産もしていない、やばい。

この先ずっと一人で生きていくのかな、お金は足りるのかな、いつの間にか一人ぽっちで寂しい苦しいって言いながら死んでいくのかな、とか。



こんなことを言っておいてなんだが、仕事はしているし話を聞いてくれる友人もいるし、年中こんな悲観的なことばかり考えているわけでもない。でも、ホルモンバラ

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後輩が休職しました――残された先輩OLの葛藤

後輩が休職しました――残された先輩OLの葛藤

後輩が会社に来なくなった。私が彼を強く叱った翌週だった。

その前からマネージャーからは厳しめの指導も入っていたし、仕事そのものの意義にも疑問があったようだ。私のせいではない、と周囲も言ってくれる。でも私と彼のやりとりが最後トリガーになったのだろうな、とは思っている。

営業から異動してきて3カ月。今年度の初めに中途で入社してきた4歳ほど年下の彼は、営業が向いていなかったのか本人の「企画がやりたい

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気持ちの良いことーー溶ける意識と震える身体

気持ちの良いことーー溶ける意識と震える身体

自分の意識や身体を忘れ、単なる振動となり、空気に溶けていく。

楽器を吹いていると、そんな感覚を持つことがたまにある。

私が熱心に時間を費やしてきたクラリネットは、息でリードという木の板を震わせ、その振動を楽器に伝えて音が鳴る楽器だ。楽器の振動は周囲の空気を震わせるだけでなく、自分の身体の中にも伝わり、共鳴しているのを感じる。

楽器を吹く行為は、呼吸、腹筋の力の入れ方、楽器を咥える口の形、そし

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直線的な時間と円環的な時間

直線的な時間と円環的な時間

先日、会社で賞をもらった。
「良い仕事を賞賛する」という趣旨のイベントで、社内では最も誉れ高い賞、ということになっている。全社員の前で自分のやった仕事をプレゼンしてナレッジ共有されると同時に審査され、受賞者が決まる。今期から営業とスタッフが異種混合戦になってしまったせいでスタッフにとっては不遇・・・と思っていたけれどスタッフで唯一表彰してもらうことができた。

過去、諸先輩が表彰されてきたのを見て

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大人と子どもの違いって何だろう

大人と子どもの違いって何だろう

今日もオフィスでぼろぼろ涙を流している。

おおよそ会社にふさわしくない態度でデスクに座っている女が、私だ。

ここのところ、自分のひどく子どもな部分に悩まされている。具体的に言えば、すぐに感情的になってしまい、涙が出てしまうこと。

私はもう10年前に二十歳を通り越した。働いて経済的な自立もしている。十分に大人と言えるだろう。しかも私は風貌のせいか、大人っぽいという第一印象まであるようだ。でも、

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炎上商法と、想像力

炎上商法と、想像力

「え、プロモーションだったの、あれ。」
Twitterでは選挙に京アニ、吉本にと情報が溢れかえる中、パワハラセクハラを訴えていた若い女性の投稿がレペゼンの炎上商法だったとの情報が目に飛び込んだ。

このプロモーションは本当に趣味が悪いし最悪だし許せないと思っていることを前提として、若い人たちが賞賛してしまう背景を考えた。それは多分、パワハラセクハラのリアルな実感がないからなのではないかと思った。

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「嫉妬」ってどんな感情?__私にとって。

「嫉妬」ってどんな感情?__私にとって。

嫉妬の定義は「自分より優れている人に対する羨ましさと、妬ましい気持ち。あるいは、好きな人が自分より他の人と親しくしている時に生まれる気持ち。」みたいなところだろうか。
自らを振り返って考えてみると、私はたくさんこの感情を持ってきたようで、意外とうまく抱えられなかったことが多いように思えた。

家から近い公立の小中学校に通っていた私は、同級生の中では勉強ができる方だった。運動も平均点くらいにはできた

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