信藤 玲子*Qの本棚

大阪翻訳ミステリー読書会の世話人。特許事務所勤務。 共訳書『算数の実験大図鑑』(新星出…

信藤 玲子*Qの本棚

大阪翻訳ミステリー読書会の世話人。特許事務所勤務。 共訳書『算数の実験大図鑑』(新星出版社) 翻訳協力『世界文学大図鑑』『世界物語大事典』『世界史大図鑑』(すべて三省堂)など。 ここでは〝クイア&クエスチョニング(恋愛や性にかぎらず)〟な洋書・和書を紹介したいと思います。

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自己紹介&このnoteについて

みなさまこんにちは。 今回noteをはじめようと思ったきっかけや、自己紹介についてなんと書こうか悩んでいるうちに、数時間が経過してしまいました。 前から薄々感じていましたが、私のなかには悠久の時間が流れているようです。 あるいは星の時間かもしれません。いま自分の眼で見ている星は、実は何十年、何百年も昔の姿なのだと習ったことを、最近とみに思い出します。 さて、自己紹介欄にも書いているように、私はふだん特許事務所に勤務しながら、英語を日本語に訳したり、本の感想を書いたり、お

    • 第12回翻訳ミステリー読者賞発表!! 『トゥルー・クライム・ストーリー』と 『頬に哀しみを刻め』をあらためてご紹介

      2024年3月20日、YouTube日和だったこの日(嵐でした)、第12回翻訳ミステリー読者賞の発表会を開催いたしました。翻訳ミステリー読書会の世話人である私たちが、ランキング上位作を投票者のコメントともに紹介しました。 一位作品(二作受賞)については、それぞれの翻訳家と編集者にゲストとして登場していただき、翻訳に至るまでの経緯や作品の読みどころなどをじっくりと伺いました。こちらからアーカイヴを視聴することができますので、ぜひご覧ください。 結果を手もとに置いておきたい!

      • 【読書会告知】 ミン・ジン・リー『パチンコ』(池田真紀子訳 文藝春秋)を読んで、物語の舞台となった鶴橋コリアタウンを散策しましょう!

        2024年2月24日(土)に、ミン・ジン・リー『パチンコ』(池田真紀子訳 文藝春秋)を課題書として、第15回大阪翻訳ミステリー読書会を開催いたします。 オバマ元大統領の推薦本としてアメリカで大ベストセラーになり、ドラマ化も話題を呼んだため、いまさら紹介不要かもしれませんが、軽くおさらいすると…… 物語が幕を開けるのは、日本に併合されていた朝鮮半島。港町釜山の下宿屋の娘が、ひとりの男と恋に落ちる。だが、男には日本に妻子がいた。男の子どもを身ごもった娘は、別の男の助けを借りて

        • パリテの町・大磯で気づく女性に背負わされた「重し」 和田静香『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』

          和田静香『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』(以下、遅フェミ)を読みはじめてすぐに、この箇所で深く頷いてしまった。 19歳からフリーの音楽ライターとして働いてきた作者は、社会が不況になってCDが売れない時代になり、さらにデジタル化が進んで紙の雑誌が続々廃刊すると生計を立てるのが難しくなり、40代半ばからコンビニなどでバイトをして食いつなぐ日々を送っていた。 ところがコロナが到来してバイトも首になり、まさに八

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        自己紹介&このnoteについて

        • 第12回翻訳ミステリー読者賞発表!! 『トゥルー・クライム・ストーリー』と 『頬に哀しみを刻め』をあらためてご紹介

        • 【読書会告知】 ミン・ジン・リー『パチンコ』(池田真紀子訳 文藝春秋)を読んで、物語の舞台となった鶴橋コリアタウンを散策しましょう!

        • パリテの町・大磯で気づく女性に背負わされた「重し」 和田静香『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』

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          人間の底知れなさとは? 映画化も話題になったデイヴィッド ・グラン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』(倉田真木訳)

          2023年11月26日、デイヴィッド ・グラン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』(倉田真木訳)を課題書とする読書会に参加しました。 この本は、1920年代に実際に起きた連続殺人事件を主題として、著者デイヴィッド ・グランが徹底的な調査に基づいて記したノンフィクションである。2017年にアメリカで刊行されるやいなや〈ニューヨーク・タイムズ〉のベストセラーランキングにランクインし、アメリカ探偵作家クラブ(MWA賞)の犯罪実話賞に輝いた

          人間の底知れなさとは? 映画化も話題になったデイヴィッド ・グラン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』(倉田真木訳)

          大阪翻訳ミステリー読書会(『殺人は太陽の下で』)レポート掲載と続刊『Death at Paradise Palms』について&『この密やかな森の奥で』のご紹介

          私が世話人を務めている大阪翻訳ミステリー読書会のレポートが、翻訳ミステリーシンジケートのサイトに掲載されました。(一文のなかで翻訳ミステリーを連呼してしまったが、名称なのでお許しください) 今回の課題書は、ステフ・ブロードリブ『殺人は太陽の下で—フロリダ・シニア探偵クラブ―』(安達眞弓訳 二見書房)でした。 リタイアしたシニアたちが暮らすフロリダの住宅地で、若い女の死体がプールに浮いているのが発見された。こんな平和な場所でいったいなぜ? どういうわけだか腰が重い警察にかわ

          大阪翻訳ミステリー読書会(『殺人は太陽の下で』)レポート掲載と続刊『Death at Paradise Palms』について&『この密やかな森の奥で』のご紹介

          CWA賞二冠に輝く人気ミステリー作家 マイケル・ロボサム入門&未訳作品『When You Are Mine』の紹介

          前回、前々回と伊坂幸太郎の小説を紹介したが、伊坂作品を好きな人にぜひとも読んでほしい海外ミステリー作家のひとりが、マイケル・ロボサムである。 オーストラリア出身のマイケル・ロボサムは英語圏で高い人気を誇り、CWA(英国推理作家協会賞:伊坂幸太郎も『マリアビートル』で最終候補に選ばれた)のゴールド・ダガー賞をすでに二度も受賞している。 繊細な心理描写とスリリングな展開が最大の特徴である、というとサスペンスの常套句めいているが、人間の心理の機微をていねいに描くことで特異なキャラ

          CWA賞二冠に輝く人気ミステリー作家 マイケル・ロボサム入門&未訳作品『When You Are Mine』の紹介

          伊坂幸太郎〈殺し屋シリーズ〉最新刊『777』発売直前!! ただの殺し屋小説ではない『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX』をご紹介

          伊坂幸太郎の〈殺し屋シリーズ〉第3弾『AX』を読了! したと思いきや、最新刊『777』(トリプルセブン)が、9月21日に発売されるとのことなので、この〈殺し屋シリーズ〉を紹介したいと思います。 そもそも〈殺し屋シリーズ〉ってなんやねん?  というと、その名のとおり、殺し屋たちを描いた物語シリーズである。けれども、殺し屋をテーマに据えた小説はとりたてて珍しくない。これまでにもミステリーやサスペンスでたくさん書かれてきた。 では、なぜこのシリーズが斬新でおもしろいのか?  と

          伊坂幸太郎〈殺し屋シリーズ〉最新刊『777』発売直前!! ただの殺し屋小説ではない『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX』をご紹介

          「大きな物語」を凌駕する「小さな物語」伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』&伊坂作品を好きな人にオススメの翻訳小説

          激しくいまさらながら、伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』を読んで、やはりうまいなあ~と唸らされてしまった。 伊坂作品は、以前『アヒルと鴨のコインロッカー』『重力ピエロ』などを読み、そのときも「これほどまでに複雑な構成の物語のなかで、これほどまでに愛すべき登場人物たちを、これほどまでに軽やかな文体で描いてみせるとは……!」と感心したのだけれど、翻訳小説を読む比率が高くなるにつれて、(伊坂幸太郎を含めた多くの日本人作家の)新作になかなか手が回らなくなってしまい、映像化が話題にな

          「大きな物語」を凌駕する「小さな物語」伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』&伊坂作品を好きな人にオススメの翻訳小説

          パンデミックを生み、パンデミックを乗り越えた親子の絆を描いたディストピア小説 Eve Smith 『The Waiting Rooms』

          こちらのブログを読んで、Eve Smithの3作目が出ることを知りました。 2020年、パンデミックのさなかに刊行されたデビュー作の『The Waiting Rooms』は、驚くほどパンデミックの状況にシンクロしていたので強く印象に残りました。いまのところ、まだ訳書が出ていないようなので、ここであらためて紹介します。 “Crisis(危機)”の発生 この小説はケイト、リリー、メアリーの三人の女性の視点から交互に語られていく。 まずはイギリスを舞台にしたケイトの章か

          パンデミックを生み、パンデミックを乗り越えた親子の絆を描いたディストピア小説 Eve Smith 『The Waiting Rooms』

          『マナートの娘たち』読書会レポート&8/6 14時~ 夏の出版社イチオシ祭り(全国翻訳ミステリー読書会YouTubeライブ第15弾)のお知らせ

          先日、このnoteでも告知しましたが、ディーマ・アルザヤットによる短編集『マナートの娘たち』を課題書とし、訳者の小竹由美子さんにもご参加いただいて、大阪翻訳ミステリー読書会をオンラインで開催しました。 そのレポートが翻訳ミステリーシンジケートのサイトに掲載されているので、ご興味のあるかたはぜひお読みください。 レポートにも書きましたが、シリア系アメリカ人である作者ディーマ・アルザヤットは、分断と対立の深まるアメリカの現在を見事に切り取っています。 なかでも原書の表題作で

          『マナートの娘たち』読書会レポート&8/6 14時~ 夏の出版社イチオシ祭り(全国翻訳ミステリー読書会YouTubeライブ第15弾)のお知らせ

          ロマンス小説を脱構築したロマンス小説 エミリー・ヘンリー『本と私と恋人と』(林啓恵訳)+現在アメリカで大ヒット中の『HAPPY PLACE』

          さて、みなさんは〈ロマンス小説〉といったら、どんなものを思い浮かべるでしょうか? 地味で冴えない独身女性が、華やかな友人の彼氏として紹介された大金持ちのイケメン男性と突然恋に落ちる…… あるいは、美貌、富、みんなからうらやましがられるような婚約者まで、なにもかも手にしていた主人公が、ある日いきなり素朴で誠実な男性に心奪われる…… いま思い浮かんだのは、現実のロマンス小説にはありえないほど陳腐な例ではあるが、「正反対の者が恋におちる」というのがロマンスの常道であるように思え

          ロマンス小説を脱構築したロマンス小説 エミリー・ヘンリー『本と私と恋人と』(林啓恵訳)+現在アメリカで大ヒット中の『HAPPY PLACE』

          ギムレットには早すぎる? 虚構の仕掛けで生と死を塗りかえる短編集 村上春樹『一人称単数』

          さて、先日の『猫を棄てる』に続き、今回取りあげるのは『一人称単数』……って、いや、「いまは〈壁〉やろ!!」というのは重々承知していますが、まだ〈壁〉に着手できていないので、まずはこちらを紹介したいと思います。 『女のいない男たち』は、「ドライブ・マイ・カー」や「木野」のように三人称を用いた小説が多かった。 今作においては、「石のまくらに」では大学生の「僕」が主人公であり、「クリーム」や「ウィズ・ザ・ビートルズ」では神戸の高校に通う「ぼく」または「僕」が描かれ、さらに「ヤク

          ギムレットには早すぎる? 虚構の仕掛けで生と死を塗りかえる短編集 村上春樹『一人称単数』

          『The Best American Short Stories 2022』③ 香港の雨傘運動、ニューヨークのコロナ禍を経た中国系の一家が抱える謎 Gish Jen「Detective dog」

          BASS(Best American Short Stories 2022)のシリーズの前回「Post」の紹介で、現在起きているできごとを小説にするのは難しいと書いたが、今回紹介する「Detective dog」は、香港の雨傘運動からコロナ禍まで、いままさに目の前で勃発している重要な問題を取りあげている。 物語は香港出身の裕福な一家を軸として語られる。一家の母親であるベティは、自分の母親にこんなふうに言われて育った。 いわゆる「見ざる聞かざる言わざる」である。ベティは教え

          『The Best American Short Stories 2022』③ 香港の雨傘運動、ニューヨークのコロナ禍を経た中国系の一家が抱える謎 Gish Jen「Detective dog」

          父親について語るときに僕の語ること レイモンド・カーヴァー「父の肖像」(『ファイアズ(炎)』所収)から村上春樹『猫を棄てる』へ

          村上春樹はレイモンド・カーヴァー『ファイアズ(炎)』の訳者あとがきで、カーヴァーによるエッセイ「父の肖像」について、こう書いている。そののちに、自らの父親を題材にした、『猫を棄てる 父親について語るとき』というエッセイを発表した。 上記の引用に続けて、「見事なばかりの説得力を持っている」と村上春樹が賛辞を贈っているように、レイモンド・カーヴァー「父の肖像」は、父親がどういう人物であったのか、そして私はそんな父親をどう見つめていたのがよくわかるエッセイである。 カーヴァ

          父親について語るときに僕の語ること レイモンド・カーヴァー「父の肖像」(『ファイアズ(炎)』所収)から村上春樹『猫を棄てる』へ

          『The Best American Short Stories 2022』② パンデミックに襲われたニューヨークの恋人たち アリス・マクダーモット「POST」

          前回に続き、『The Best American Short Stories 2022』の収録作品を紹介したいと思います。タイトルどおり、2022年にアメリカで発表された短編小説から選りすぐりのものが収められた1冊です。 ここ数年でもっとも世の中を騒がせたものは?  もちろん、コロナ禍によるパンデミックである。世界じゅうのほとんどの人がそう答えるのではないだろうか。 だが、この『The Best American Short Stories 2022』のなかで、パンデミッ

          『The Best American Short Stories 2022』② パンデミックに襲われたニューヨークの恋人たち アリス・マクダーモット「POST」