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『身体と心を服は繋ぐ。』 __ito__

なんだかいいな。
ふとした日常のワンシーンで、そんな感覚を覚える。

いわゆる美しさではないと思う。
面白さなのかもしれないが、それともまた違う。
言葉にすれば逃げられてしまうような魅力。
言語化できない「良さ」が、日々の生活には意外とあふれている。

私たちがその感覚を覚える対象は風景ばかりではない。
家具や家電も、最後の決め手は機能より直感だったなんてことも多いはず。
なんだかいいな。
曖昧だけれど自分の奥底に眠る感性でモノを選ぶ。
意識していないだけで、私たちは普段からそうした行動を取っている。

自分自身の感性が、そのまま自分の姿になる。
直感で自分を表現したい人を「__ito__」は支えてくれる。

手を動かす、人を引き立たせる。

「__ito__」はフリーのファッションデザイナーである門井里緒さんのブランド。

I am CONCEPT.では、門井さんは過去に「__22」のアートディレクターとしても登場していただいた。

「__ito__」は門井さん個人の作家活動としてのブランドとなる。

「__ito__」の特徴はその製作手法にある。
展示会を開催し、まず門井さんがお客さんと顔を合わせて仕上がりを相談する。
実際に製作を担当するのも門井さん一人。
型紙の設計から縫製に至るまで、単独で衣服を作り上げる。

一点一点、細部まで手作業。

「__ito__」を含めた服作りにおいて、門井さんは「余白」を意識している。

ゆったりした余りのある丈感に、落ち着いた雰囲気の色合い。
性別や年齢や体型、性格や趣味趣向、果ては仕事や家事といったライフスタイルなど、あらゆるものの垣根を取り払ったデザインになっている。

門井さんが作家として活動を始めたきっかけは、「自分の手を動かす」という洋服作家の根源に立ち返ったことだった。

活動を始めようとした際、「やる必要性」について考えたという門井さん。
素晴らしいブランドが氾濫している世の中。
自分が作る意味は何か。自分にできることは何か。
そう振り返ったとき、門井さんが焦点を当てたのは服を着る「人」だった

「まったく同じものを着ている二人が並んでも同じものと気づかれないくらい、着る人を引き立たせるものであればいいなと思っています。なので、服作りにおいてお客さんを知りたいのも、実際に服を主役と思って作ってないからなんです」

どういう人が着るとどういうふうに見えるか。
それを突きつめるため、まずは余白を持ったデザインを心がける。
答え合わせは現場で行い、引き立たせるべきその人を深く知っていく。

門井さんにとって、お客さんを知ることは服作りにおける重要な工程の一つなのだ。

直感を繋いでいく。

「__ito__」という名義で活動を始めた理由は自身の名前にあるのだと、門井さんは言う。

「下の名前が里緒というのですが……人と人とか、あらゆるものとものとか、縁を繋げていくような人になってほしいという意味で両親がつけてくれた名前で。そういった繋げていくってことと自分のやりたいことが少しリンクするな、と思ったんです」

洋服も、まず生地を作ろうとすると糸を作らなくてはならない。
何かの始まりでもあり、そこから服を仕立てるためにもまた糸が必要だ。
さらにいえば、服を着なければ外に出られない。
自分自身と外側を繋ぐと同時に、着るものによって内面を表現することもでき、自分自身と内側を繋いでくれる存在でもある。

何かをデザインして進んできた自分がなぜ服を選んだか。
自分の中に浮かんだ疑問に、門井さんは「身に纏うものだから」という答えを導き出した。

「身に纏うってことがほかのプロダクトと大きく違うところだな、と思って。纏うことで自分自身の内面と繋がったり、外と繋がったり……そういったことを考えたときに、『繋げていく始まりのもの』でもあり『繋げていくための道具』でもあるというところで、『__ito__』という名前をつけました」

そんな「__ito__」のコンセプトは「自分 を纏う ということ」。
門井さんは「直感で選んでほしい」と話す。

「着る方々が直感とか感性とか感覚とかで選んで着てくださるのがいいなと思っていて、あまり押しつけがましくないような形で提案していきたいなと思っていますね」

まずは感覚的に選んでもらいたい。
何もないフラットな状態で服を選んでほしいそうだ。

その姿勢は「自分らしさ」という言葉をあえて使っていないところにも表れている。

「『自分らしさを纏う』と言い切った方がわかりやすいとは思います。けどそれって既に自分の中で自分をカテゴライズしているというか。何かを選ぶうえでスムーズではあるんですけど、思考停止な部分もある。そこに自分をカテゴライズする苦しさが生まれるんじゃないかと思っています。『自分らしさ』ではなく『自分というもの』を自分のバランスで選んで纏っていくふうになればいいなと思って、空白で一拍置かせたコンセプトになりました」

表面にはない、素に近い自分の状態をそのまま身体に纏う。
自分のバランスを自分で見つけていくこと自体に精神的な着心地の良さがある。
余白を持った服作りには、直感とその人を繋ぐという意識が隠されていた。

ゆりかごの天秤をモチーフにした「__ito__」のロゴ。イラストレーターの友人による。

門井さんは「__ito__」に「循環」という意味も込めている。生まれた場所とやがて還る場所が繋がるような、人生の様々な場面に寄り添えるデザインを指針の一つとしている。

何かを良いと思うことに理屈はいらない。

「__ito__」の服作りにおいて、門井さんは普段づかいと詩的な印象の両立を目指している。

あらゆる人に向けた、受け手側を限定しない服。

「__ito__」ではトレンドを意識していない。
余白があるからこそ物静かな印象や即興性を持たせることができ、オリジナルの柄を入れたり、詩の一節を文字として入れたりもする。
持っている服と合わせて、日常を少し非日常に変えていくことができる。

自分を纏うことは心地よさに繋がる。
門井さんは「物との感情的なコネクション」という価値観を大切にしている。

「ときどきものすごく、身体が沸騰するぐらい惹かれるものに出会うときというのがあって。必要だからではなく『ああすごく惹かれる、なんでだろう』とそのときには理由がわからず買って、あとから理由がわかってくるみたいなものと出会う瞬間。そういう感情的にコネクションしたものって、何年も経って環境や自分の感じ方が変わっていっても、必ず惹かれるものであり続けるなと思うんです」

長いあいだ着なくても、ボロボロになっていっても手放せない服。
「なんでそれが好きだったのかな」と分解して噛み締めていく。
そうして立ち止まって思考する機会はなかなかない。
「__ito__」の服がそのきっかけになれたら嬉しい、と門井さんは語った。

直感を貫きとおすことはそれなりに難しい。
自分を表す服という物体だからこそ、慎重になってしまう部分もある。

それでも自分の好きを形にしたいなら、「__ito__」の服を着てみてほしい。
なんだかいいな。
何気ないその感覚は、いつだって私たちのそばにいる。

ブランド情報

・Instagram

I am CONCEPT.編集部

・運営会社

執筆者: 廣瀬慎

・Instagram

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