記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『栗の森のものがたり』をみる。

『ダンサー イン Paris』以来となるシネ・リーブル梅田であります。

攻めっ気の強さに定評があるクレプスキュールフィルム配給、春先にみた『私、オルガ・ヘプナロヴァー』は年明け1月にBlu-rayの発売も決定済み。本作の舞台となるのは第二次大戦直後の50年代、イタリアとスロヴェニアの国境地帯。限界集落あるいは閉鎖社会と表現した方が適切かもわからない。棺桶職人のマリオと栗売りのマルタが生き別れた家族の帰りを待っている。

たぶんもう会うことはできない、冒頭の土葬シーンにもそれが滲んでいて。長引く政情不安が、冷え込んだ村の人間関係に更に追い打ちをかけていく。故郷を離れようとする者がいた、それは未来に生きる意志とも換言できる。敢えてここに留まることを決めた者もいた、つまり希望を諦める覚悟です。そんな二人が「喪失感を共有できる存在」として、思いがけず出会います。

ギャル語っぽく表現すれば、"小津みが深い"ということになるでしょうか。毬栗が川を転がり落ちていくさまにはどこか、黒澤明『夢』のような質感も感じられて。スロヴェニアではどのくらいの知名度なのかわかりませんが、あれは桃太郎なんじゃないかという説もある。遊び心満点、でいて寓話性を高めるさりげなく温かな演出だったと思います。本作ハイライトの一つ。

引き出しにしまったままの手紙、命綱のように電話線を手繰り寄せる仕草。使い古した洗面器に映る水面、今際の際突如枕元に現れる東方三賢人の霊。シルヴィ・ヴァルタン「アイドルを探せ」が流れ始めた時の、あのなんともいえない感情。おとぎ話の世界ですから82分間に散りばめられた記号を自由に繋ぎ合わせて、あなた独自の解釈に仕立て上げればそれで良いはずです。

レンブラントやフェルメール、更にチェーホフの短編小説からインスパイアされたと語る監督のグレゴル・ボジッチ。巧みな時系列のグラデーション、ほのかに差す光源を頼りに紡ぎ出される映像美。落ち葉が粉雪のように儚く美しく舞い散る場面は、何度思い返しても鳥肌が立つ。驚くなかれ、これが長編作品デビューなのだそう。『aftersun』以来の"(もう一度)みる"案件か?

(※追記。熱いラブコールが届いたのか、遂に関西で上映が決定した模様…!!)


この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?