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"歴史" 系 note まとめ

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2020年6月の記事一覧

ボストンのドーナツ|湯澤規子「食べる歴史地理学」第1話

100年前の日本とアメリカの女工(じょこう)の暮らしを研究している湯澤先生は、2018年夏、学会のためボストンへ。けれど真の目的はドーナツを食べることで……。アメリカのドーナツ、その知られざる歴史を旅すると、活気あふれる移民の暮らしが見えてきました。 ※前回の話を読む:プロローグ「見えないものがつくる世界」 アメリカ、ドーナツ史をめぐる旅 「歴史に埋もれて」見えない。  だから、時空を超えると見えてくるものがある。  2018年夏、私は一人、ドーナツを食べるために、ア

日本のシャープペンシルの歴史1(日本での呼び方)

はじめに 今まで他のブログで紹介してきた内容を少しまとめながら紹介していきたいと思います。 日本のシャープペンシルの歴史を調べるために、数年前、国会図書館で文献調査をしました。日本で発行された図書は殆どあるはずですが、さすがに明治、大正の文献は無いものが多くありました。その中でも、シャープペンシルのことについて載っていそうな文献を調べると、文房具関係の業界新聞があることがわかりました。 1900年(明治33年)創刊で、今でも発行されている「日本文具新聞」が 所蔵されている中

『地中海世界』フェルナン・ブローデルー海

21世紀の感覚で地中海をみると、見えないことがたくさんある。地中海世界の沿岸をおどおどしながら、それも自然の脅威からかろうじて逃れられる季節を選んで船で移動するしかなかった時代の風景を想像してみる。15世紀末、ヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰を経由してインドに到達し、コロンブスがアメリカまで航海した事実だけを基準に、あの当時の地中海沿岸の漁民たちの心情を推し量ってはいけない(25世紀の人たちが、1961年のガガーリンの宇宙飛行から60年の期間、一般の人にとっても宇宙が近かったと想像

ブローデル『地中海世界』-夜明け

放射性炭素年代測定法によれば、現ヨルダンのエリコでは紀元前7000年頃には集団定住生活が行われ、およそ2千人が住んでいた。これが原始都市の最初とされるが、古代文明の最初として表舞台に出てくるのは、チグリス河とユーフラテス河に囲まれたかのメソポタミアである。 メソポタミアは地中海の外にあるが、そう極端に離れているわけではなく、周縁といえる。この地域が地中海文明が目を覚ます発火点であった。だが、メソポタミアにあった水上輸送が、山地と平地の資源再配分に寄与し、都市間を一つの塊にし

日本語で学ぶアメリカ史 第一章

第一章:新世界出典:L. D. Burnett et al., ‘The New World,’ in “The American Yawp,” eds. Joseph Locke and Ben Wright (Stanford, CA: Stanford University Press, 2019): pp.1-27 http://www.americanyawp.com/text/01-the-new-world/ I. 序 p.1 ヨーロッパ人はアメリカ両大陸

Black Lives Matterについて理解するための映像作品11選

現在、アメリカを中心に巨大な潮流となっている 「Black Lives Matter(黒人の命も大切)」のムーブメントについて、その本質的な背景を正しく理解する助けになりそうな海外の映像作品を、イラスト付きで11本紹介します。NetflixやAmazonプライム(見放題/レンタル/有料チャンネルなど色々ですが)など、web配信で見られる作品を厳選しましたので、ぜひチェックしてください。(Twitter→ https://twitter.com/numagasa/status/

「世界は再び魔術化する」という話

ポストモダンと再魔術「神は死んだ」。哲学者ニーチェが宣言したとされる有名な言葉です。 近代(モダン)化の過程では宗教と科学は相反するものと考えられてきました。

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クレームの電話の吉と凶とを分けるもの――東洋古典『易経』に学ぶ

東洋古典最古の書物といわれ、四書五経の一つにも数えられる『易経』。時代や環境が変化していく中で起こる、あらゆる出来事の解決策になる知恵が記され、孔子や孫子をはじめ、多くのリーダーたちがバイブルとしてきました。 帝王学の書ともいわれる『易経』を、約半世紀にわたり学び続けてきた竹村亞希子先生は、易経研究家として難解な教えをわかりやすく現代に蘇らせてきました。定期的に開催される易経講座には、毎回満席でキャンセル待ちが出るほどの人気ぶり。これまでに約40年、10万人以上に『易経』の

コロナ禍を身近な歴史からとらえ返す ――オンライン授業「学童集団疎開の経験」を通して(大門正克)

大門正克(早稲田大学特任教授、歴史学) はじめに 先が見通せないコロナ禍のもとで、歴史の経験から/を学び、今後の手がかりをつかむ意義は大きい。すでに多くの人が感染症の歴史をたどり、そこから今後の行方を探ろうとしている。  ただし、現在の状況を深く見すえ、これからの方途を探るために、歴史から/を学ぶ対象は、感染症だけに限らない。私の場合、その対象を戦時下日本の学童集団疎開の経験に置いた。  世界の政治家の一部には、安易に「コロナウイルスとの戦争」を口にし、現状を戦争にたとえる

なぜコロンブスの像は破壊されたのか

イギリス・ブリストルでは奴隷貿易に関わった人物の銅像が川に落とされ、ベルギー・アントワープでは過酷な植民地支配を行なった国王の銅像が撤去され、そして、全米各地でコロンブスの像が破壊されているというニュースが流れている。 これらの事象を、15世紀の大航海時代にさかのぼって考えてみたい。 以下、作家の徐京植さんの論考「ヨーロッパ的普遍主義と日本的普遍主義」(『日本リベラル派の頽落』所収)を全文引用する。 ヨーロッパ的普遍主義と日本的普遍主義 悪 夢  「西洋人が一八世紀に

【書評】福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、2020)

福間良明『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書、二〇二〇)は、立命館大学産業社会学部教授で歴史社会学・メディア史を専攻する著者の新著です。氏は先に『「働く青年」と教養の戦後史―「人生雑誌」と読者のゆくえ』(筑摩選書、2017年)でサントリー学芸賞を受けています。表題にある「勤労青年」とは中卒の労働者の謂いです。本書は、主として敗戦から1960年代末において勤労青年たちに共有されていた教養主義を歴史的に記述する一書です。 本書は、映画『キューポラのある街』から話がはじまります

2020年 東京学芸大学 二次試験 世界史

かっぱの大学入試に挑戦、16本目は東京学芸大学の世界史。時代は古代・中世・近世・近代。地域はヨーロッパ2題、東アジア2題。問題形式としては用語記述+論述。では、以下私なりの解答と解説。 第1問 古代・中世ヨーロッパ 問1.解答 (1)ケルト (2)ゲルマン (3)ヴァンダル (4)西ゴート (5)クローヴィス (6)フランク (7)領主 (8)不輸不入 (9)直営地 (10)賦役 解説 古代・中世ヨーロッパの基本問題。(1)は「ローマによる征服以前」「ブルターニュ半島や

忘れられた自由・平等のパイオニア(前編)

アメリカにおける黒人男性殺害事件以降、反差別のうねりが世界へと拡大しています。 現在の差別の大きな元凶は、植民地主義や奴隷制度にあることは明白です。 そして、それが当たり前とされていた時代、ある人物がその価値観に敢然と反対の立場を取りました。 現在高まっている「反差別」「自由」「平等」、そして「エコロジー」。 その思想を最初に声高に主張した人物を、今日は取り上げてみたいと思います。 1、その男、実は有名人その人物とは、アレクサンダー・フォン・フンボルト。 地理を勉強した

人間の世界 生物の世界 地球の世界   "今"と"過去"をつなぐ世界史のまとめ 第1回

僕らは今、なぜこのような世界を生きているのだろう。 ばらばらになったり、まとまったりしながらも、とりあえず仕方がない、というように動き続けているわれわれの社会は、どのようにして今ある形になったのだろう。 一個の確固たる世界があるようでいて、そういうわけでもなく、区切られているようでいて、そういうわけでもない、あいまいなまま、はっきりとしないまま漂うこの世界は、一体どこに向かっているのだろうか。 "今"と"過去"をつなぎながら、世界史を、ゆるく、なんとなく、まとめていきま