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neutral018 ランダムな花見とある男


 海外からの旅行者の花見のYoutubeの映像が花盛りのように出て来る。音声はマイクで拾うのみ、ナレーションはない。モザイク処理もカットもないようなので通行人や桜狩りの顔がそのまま映し出されている。例えば大阪城公園は昼。円山公園は夜桜。それにしても八割は外国人に占められているように見え、日本人は圧縮されたかのように圧倒されている。リピーターが次は桜のシーズン、と計画表に入れ来訪。手慣れていて混乱はないようだ。
 宴会や花見は日本特有の無礼講(ニュートラル)が発揮される時空間。ただ夜桜の席取りで一日を潰さざるを得ない新入社員は気の毒。無礼講には相応しくない階級意識が残ってもいる。職場の人間同士で同じものを食べ、運命共同体?の連帯感は体験によって高まってゆくのだろう。アメリカでは社内の個人成績がメインになっており、集団の一体感という意識が日本にはまだ残っているようだ。チーム優先の日本野球と、下位打線でさえオレが決めてやるという個人主義のベースボールの差も見られるのだが、お花見では外国人も桜狩りの高揚感を楽しんでいる。花を愛でる為にはまず安心出来る環境が必要だ。花が主人公なので人間は脇役という意識は枝を手折ることも禁止する。そういうところにも日本が現れている。やや残念なのは人が多すぎることだが大混乱はない模様。こちらでは屋台で飲食、あちらは歩き続ける人たち。座っている人たちは留まって歓談する。ランダムな桜狩りも「お花見ニュートラル」の特徴なのだろう。
 海外からの観光客は歌や句を詠む優雅な風習は持ち合わせていないが(日本人でも少数派)、風雅は時代を超え、王朝の煌びやかさを現出させるかもしれない、世は連歌創生の時代、単独の歌よりも連歌は時空を超え、こちらの時代とあちらの時代を連結させる力を持っているかのように感じられる。今年のNHK大河ドラマは風雅とは程遠く、若手俳優の学芸会レベルの演技で、トレンディドラマの変種であるという感じがした。大河がホームドラマ化して久しいが、今年は半径10メートルの恋愛ホームコメディのようだ。清少納言の香炉峰の雪の場面を観たが、歴史上の人物を小綺麗だが並の人物(何処にでもいる人間)に仕立て上げるホームドラマ。一見花見とは無縁のようで、歴史を矮小化することが得意なTV局がお花見をも汚しているよう演じられた貴族役の俳優陣の面々、演出家はいるのかと疑う程だった。
 
 映画では日本アカデミー賞を総なめにした小説『ある男』の疑問点。それは戸籍の他人への入れ替えで過去が変えられるという前提でストーリーが組み立てられていることである。小説の限界なのか前提に対して検証が為されていないこと。主人公、その他の登場人物も否定していないので作者のポリシーでもあるのだろう。日本人「多様体」が限定されていると思った。現在形に。だから戸籍の入れ替えと詳しい経歴や重要なエピソードも加え、自分が辿って来た過去を無かったことに出来るとしていた。「ある男」の調査過程で彼の二重の人生を辿ってゆくのだ。
 平野啓一郎は「多様体」という概念を使ってないし「分人」で表される日本人は現在進行形という限定が『ある男』から読み取れる。n+1 で構想してきた日本人「多様体」では戸籍と過去を入れ替えても多様体の一要素である過去の自分が消えることはない。新たに足された他人の過去の自分物語が記憶の領域には増える。要素としてプラスされる。小説はフィクションだから他人の過去によって自分の過去が上書きされたとある男が感じ満足していても不思議ではないし、心情としては理解できるが、無意識の底に自分の過去は残っていて消えていないだろう。業(ごう)という仏教用語では自分の行いの責任は永久に消えない。「ある男」はその自分の行いを消したいというのではない。ネタバレになるが親族の不祥事で非難されることから切り離れたいのだ。その過去は親族であるが、自分ではない他者の起こした事件。戸籍という属性を消したいのだ。過去はその戸籍にとどまらず、いじめ、非難の大合唱の体験も含まれ、他人の過去の移植は、その体験の入れ替えでもある。消えたのかどうかの検証は鬼籍に入っている本人に確かめられないので不可能になっている。夫婦として暮らした妻の証言でしか想像出来ない。この曖昧さは上手い設定だったと思う。作者自身も曖昧なのだと感じている筈だからである。記憶となっている過去がどの程度書き換えられるのかどうか。安心して暮らせる程度には成功していたことは小説から分かるのであるが、戸籍入れ替えは新たな犯罪行為、自分の起こした事件なので業、永久に自己責任が伴う。発覚しなくとも自覚していたはずだ。悪に手を染めてまで過去を変えたかった。変える価値があった。と主人公(調査した弁護士)も小説の中では納得していたのだ。
 戸籍を入れ替えてまで捨てたかった親族の不祥事。付随して引き起こった学校でのいじめと世間の非難の嵐、引越し転職でもバレる戸籍。しれっと、日本人が物凄い差別主義に表現されていることには疑問が残る。この小説を読んだ外国人は日本人を全て差別主義者だと思ってしまうだろう。が、外国人観光客はごくナチュラルに日本は世界で最も人種差別の少ない国だと口を揃えて言う。外国人には人種差別をしないが、日本人同士では異端を差別するというダブルスタンダードが日本人の本性なのか?と……。(続く)
 2024/04/23

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