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卓上遊技再演演義 GFSセッション記録1998-2002

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20年以上前に著者がサークルで遊んでいたTRPGのセッションのリプレイ小説シリーズです。 第6期「ヤン編」がこのほど同人誌として改定再版することになりましたので、記念にその前史に… もっと読む
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シザリオン編第1部 目次

序「俺は…そのすべてを知るために」 SECTION 1 スレイブマスター・ジーク  1.「とうさんとうさん、ほら、見てよ!」  2.「ごめんね、クーガー」  3.「死体になってもらえば一番なんだけどね」  4.「リンクスは…俺のものだ」  5.「生き残ることだけは忘れちゃ…」  6.「あまり気が進まないなぁ…」  7.「セイバーは…死んだよ」  8.「変わったヘッドギア!?まさか…」  9.「上方世界への門!!?」  10.「今のレムスくらいだったよな…」 SECTION 

序 「俺は…そのすべてを知るために」

 バビロンという街は、もともとエピックヒーロー、ダン・スタージェムの開いた街である。ダン・スタージェム…大脱出を敢行して人々を世界の破滅から救い出した大英雄だが…かれが大脱出以後の生き残るのが難しかった時代に、ふるさとであるこの街を守ってすんでいたといわれている。事実この街の郊外にはダンが育った実家が残っていて、今でもダンの剣術を伝える「星空の戦士達」の聖地として知られている。  「女神」を崇める謎の国家「帝国」がサクロニアに侵攻を開始し、唯一サクロニア側で対抗していた大国イ

1.「とうさんとうさん、ほら、見てよ!」

いきなり舞台は変わって申し訳ないのだが …    「帝国の門」から伸びるアッピナ街道を、えらく騒がしい変わった5人組の冒険者が歩いていた。アッピナ街道というのは帝国側の世界…サクロニアに対してカナン世界と呼ばれているが…の西部にある「帝国」の首都から、サクロニアとカナンを結ぶ魔法の扉「帝国の門」まで伸びる大きな街道である。当然これは国道で… しょっちゅう伝令や帝国軍の軍団や商人たちが歩いているという…非常に利用頻度が大きい道だった。当然ながら帝国人だけでなく、帝国に向かう外国

2.「ごめんね、クーガー」

 タルト達の一行は小高い丘から見える街…海に面した美しい町並み…を眺めていた。ずいぶん長いたびをして彼らはこの街までやってきたのである。帝都…彼らのたびの目的地が見えるこの丘は「五大家の丘」と呼ばれる小高い丘陵で、近くには帝国でも有数の大貴族の屋敷がある。   「母さん、あの街は?」 「あれが帝都だよ。」 「おっきな街なんだね。すごいや…」    クーガーは目を丸くして驚いている。無理も無い…世界最大の大都会だったイックスが滅亡した今、この帝都ほど正式な人口が多い街はない。イ

3.「死体になってもらえば一番なんだけどね」

 リンクスの試合というのは、昼過ぎの2番目の試合だった。最終試合から数えた方がちょっと早いというところを考えても、結構リンクスが強くて人気があるということがわかる。観客もそこそこは彼のことを知っているらしく、「ぼぅい」という名前を連呼して(当然相手側の名前も連呼するのだが…)彼の登場を待っていた。  リンクスはその声に弾かれるように会場に飛び出てきた。その様子を見ると、まるでゴムまりが弾むように勢いがある。ただタルト達には遠目でもリンクスがどこか悲しそうな目をしているのが判る

4.「リンクスは…俺のものだ」

 さて、こういう訳で悪逆非道な「剣闘士詐欺計画」なるプランは大筋の線で決定された。これは立案されてみると…結構危険な計画である。  まずリンクスに試合に負けてもらわなければならないということで、なんとナギが剣闘士に成りすまし、リンクスの相手をして打ち破るということになった。リキュア…つまり「隷属の鎖女祭レディー・リキュアひさしぶりの出品」ということで参加するのである。これなら正規のルートだし、隷属の鎖の神官が偽剣闘士を出してくるということが奇策中の奇策であるから、まずばれる心

5.「生き残ることだけは忘れちゃ…」

 スレイブマスター・ジークはゆっくりとレムスとクーガーの前に歩み寄ってきた。身に帯びた凍り付くようなオーラ… レムスの心の底から恐怖が湧き起こってくる。思わずレムスはジークの目を覗き込んでしまう。  ジークの目は深い赤褐色の…独特の光を帯びた瞳だった。これほどまでに凍てつく殺気を帯びているというのに、瞳だけは異様な熱さを持っているのである。まるで獣の狂気が彼を支配しているような 、そんな瞳だった。そう、まさしくジークは…狂った勇者だったのである。  ある程度場数を踏んだレムス

6.「あまり気が進まないなぁ…」

 手ぶらでかえってきたタルトたちに、リキュアとナギは落胆を隠せなかった。いや、落胆ではない…スレイブマスター・ジークという最悪に近い敵の出現にショックを受けたのであろう。元隷属の鎖の神官であるリキュアはジークのことを少なからず知っていたし、実はナギにしてもジークとは何度かしゃべったことがあった。ジークという悲劇の勇者のことは、二人ともかなりの同情と強敵であるという危機意識の点では共通していた。  唯一の救いはクーガーやレムスが無事だったことである。楽観していた作戦で、ここまで

7.「セイバーは…死んだよ」

 クレイの屋敷というのは、帝都では一番上流の貴族たちがすむ「新帝都」の一角にあった。石造りのその建物は…正直言うと「帝国最高神官」という仰々しい肩書きから見るとあきれるほど小さい。庭の方だってもっと豪華な広い屋敷なら帝都にはいくらでもある。ただ、きちんと刈り込まれた芝や手入れの行き届いた庭木がごてごてした装飾の多い帝都の町並みのなかで独特の清涼感をもたらしていた。  タルト達はうじゃうじゃと…文字どおりうじゃうじゃと、という感じなのだがクレイの自宅の前に列を成してあらわれた。

8.「変わったヘッドギア!?まさか…」

 雑談とも情報交換ともつかないクレイとタルト達の談話は深夜まで続いた。帝国内部の情報や最近のサクロニアの状況(惨状というべきかもしれない)から、食べ物の話、流行のファッションの話題にいたるまで…まこと雑多な話題である。  めったなことでは客の来ないクレイの屋敷であるから、ジョルジオの多彩な料理の技が無ければ、正直な話この大ぐらいのメンバーの腹を満たすだけの料理を作ることはできなかっただろう。肉(これはクレイがよく食べるので結構ストックがある)、魚、野菜だけでなく、きのこ、パン

9.「上方世界への門!!?」

 クレイたちは眠気も吹き飛び剣を取ると、大急ぎで屋敷を飛び出した。ジークが何を考えて、こんな自暴自棄な作戦を決行したのか、それすらまったく考えている余裕はない。どう考えても帝国の心臓である「帝国女神神殿」に乗り込んで来た以上、自殺覚悟としか言いようが無いのである。  問題はいったい帝国神将たちは何をしていたのか、ということだった。いくらジークが神将並みの力を持っているからといって、そしてリンクスが手をつけられないほど身軽だからといって、帝国女神神殿にのこのこやってきて、取り押

10.「今のレムスくらいだったよな…」

 帝国女神神殿での乱闘の後、ナギたちは宿屋へ戻って今後の対策を練っていた。クレイは大神殿で他の帝国最高神官や神将たちと、今回の件に関しての連絡調整会議をしなければならなかったので、先にナギたちだけでの帰還…というわけである。  一番頭を悩ませたのは、クーガーやレムスのことである。今回の闘いでは幸いまだ若いクーガーやレムスは矢面に立たずに済んでいたが、いつまでもこの幸運が続くわけはない。第一この間の「リンクスの偽死体争奪戦」では、レムスとクーガーが危なかったのである。あの時は幸

11.「えっ!あの…空飛ぶ箱で?」

 ナギたちが「鎖の都」調査旅行に出かけてちょうど1週間が経とうとしていた。 約束の期日…というわけである。そもそもクレイにしてみればあまり気が進まない作戦であったし、相手は極悪非道(クレイの視点でだが)の隷属の鎖の神官たちである。うまく行く方が過大すぎる期待というべきだろう。  それにしても…これはクレイだけというわけではなかったのだが…まだ約束の刻限というわけではないのだが、クレイはいらいらと落着かない様子であった。クレイの本音は「別に情報など良いから無事に帰ってきてほしい

12.「我々の知らない他の力が」

 ギルドというのは帝国の東方にある大洋に浮かぶ島国の貿易連合で、二十数個の島から構成されている。住民はカナン系の民族で…言ってしまえば帝国の兄弟国といってもいい。言葉やファッションは同じカナン人といってもかなり違っているのだが、それでも完全に言語系が違う中原やゴンドとは異なり、単語などにはかなり共通項がある。  ギルドという国がこのカナン世界で占めている地位は非常に興味深い。一番簡単な説明をすると、要するにカナンの貿易大国、というのがわかりやすいだろう。中原と帝国の中間にあっ