小南綾音

いや

小南綾音

いや

記事一覧

遮光 中村文則

p.113 l.4 彼らがどう思っていたにしても、私はその日、楽しかった。大きな水門も、よく跳ねた魚も、私には新鮮であり、不満などなかった。 p.124 l.11 が、私はこの錯覚…

小南綾音
1年前
2

新しいがこわい

新しいに触れることが苦手 億劫でたまらない。くわえて本棚では好きなものや好きであり続けたいものたちが此方をじっと見ている。それらを無視して新しいに触れること、そ…

小南綾音
1年前

号泣する準備はできていた 江國香織

前進、もしくは前進のように思われるもの でも、齟齬はおそらくもっと前から生じていたのだ。いくつもの口論と、そのあとの和解。物事は何一つ解決されない。かなしいのは…

小南綾音
1年前
2

鉄血のオルフェンズ 一期

1 例え罠でも、罠ごと噛み砕くまでさ ねえ次はどうすれば良い?オルガ どこにも逃げ場なんてねえぞ、はなっからな。なあミカ で、次はどうすれば良い?オルガ 死なね…

小南綾音
1年前
2

死んでしまう系のぼくらに 最果タヒ

きみが死んだ時ほど、夜空は美しいのだろうし、ぼくは、それを少しだけ、期待している。 きみが好きです。 死ぬこともあるのだという、その事実がとても好きです。 愛はい…

小南綾音
1年前
2

だらく

今年はあまり音楽を聞かなかった 足りなかった才能 あなたが書いたような詩に囲まれて、その実あなたがつくったものなんてそこには何一つない 夏はゆっくり流れる 私には…

小南綾音
1年前

神様のボート 江國香織

子供のころに何度も読んでもらったおとぎばなしの影響かもしれないが、私には、自分が森のなかで道を見失い、ぐるぐるとやみくもにさまよっているという感じがある。つねに…

小南綾音
2年前
1

とかげ よしもとばなな

この記事読み返した私が、作品読み返してくれたらいいな。 らせんがお気に入り。 新婚さん確かに私の知っている顔だった。気にいっている芸能人や、初恋の子や、いとこや…

小南綾音
2年前
1

あやかしの鼓 夢野久作

私はこれを私の思うた人に打たせて『生きながら死んでいる私』の心持ちを思い遣ってもらおうと思ったのだ。ちっとも怨んだ心持ちはなかった。 その声は非常に静かで女のよ…

小南綾音
2年前
1

縊死体 卵 夢野久作

縊死体会いに来た時の桃割れと振袖姿が、あんまり美し過ぎたので、私は息苦しさに堪えられなくなって、彼女を郊外の××踏切り附近の離れ家に連れ込んだ。そうして驚き怪し…

小南綾音
2年前
1

女生徒 最後の一文について

おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。 少女は少女のままではいら…

小南綾音
2年前
3

微笑 夢野久作

 ……時間と空間とを無視した……すべての空虚を代表した微笑であった。  ……真実無上の美くしさ……私は、その美くしさが羨ましくなった。云い知れず憎々しくなった。…

小南綾音
2年前

女生徒 太宰治

眼鏡をとって、遠くを見るのが好きだ。全体がかすんで、夢のように、覗き絵みたいに、すばらしい。汚ないものなんて、何も見えない。 カアは、悲しくて、いやだ。可哀想で…

小南綾音
2年前

2021/11/04の日記

世界をそのまま眺めたら案外一人になれること、忘れていた

小南綾音
2年前

水槽の底

揺らぐ水面みたいな天井に覗く明日の影、ひたすらおそろしくてそれが去るまで目を逸らすことも出来ない。溺れているときはいつもそう 背中合わせのフローリングと同じ温度…

小南綾音
2年前

ムーンライト・シャドウ よしもとばなな

彼はなにこれ、と笑いはしたが決して無造作にではなく、大切そうに手のひらからハンカチに包んだ。その年頃の男の子にはあまりにも不似合いな行動なので、私はとてもびっく…

小南綾音
2年前
2

遮光 中村文則

p.113 l.4
彼らがどう思っていたにしても、私はその日、楽しかった。大きな水門も、よく跳ねた魚も、私には新鮮であり、不満などなかった。

p.124 l.11
が、私はこの錯覚を、自ら進んんで受け入れていた。そして元々、この錯覚自体も、私自身が自ら進んで呼び出したような、そんな気さえした。それはまるで、指から逃れようとする自分を戒めるような、痛めつけるような、そんな行為に感じられた。が、しか

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新しいがこわい

新しいに触れることが苦手
億劫でたまらない。くわえて本棚では好きなものや好きであり続けたいものたちが此方をじっと見ている。それらを無視して新しいに触れること、それをゆるせない。

それでも新しいに触れた後は、手垢にまみれたそれを恥ずかしげも無く自分の一部みたいにそこにおく

号泣する準備はできていた 江國香織

前進、もしくは前進のように思われるもの

でも、齟齬はおそらくもっと前から生じていたのだ。いくつもの口論と、そのあとの和解。物事は何一つ解決されない。かなしいのは口論ではなく和解だと、いまでは弥生も知ってしまった。

熱帯夜

バーと、中古レコード屋と、焼肉屋の多い街だ。夜の始まったばかりの、まだ群青色の空の下を、私と秋美はならんで歩いた。

東京の夜の空気に似た舌ざわりがする

でも秋美にあいた

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鉄血のオルフェンズ 一期

1
例え罠でも、罠ごと噛み砕くまでさ

ねえ次はどうすれば良い?オルガ

どこにも逃げ場なんてねえぞ、はなっからな。なあミカ
で、次はどうすれば良い?オルガ

死なねえ死んでたまるかこのままじゃ、こんなところじゃ、終われねえ、だろ?ミカぁ!

ねえ次はどうすれば良い?オルガ
決まってんだろ。行くんだよ
どこに
ここじゃないどっか。俺たちの本当の居場所に。
うん。行こう。俺たち。みんなで

2

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死んでしまう系のぼくらに 最果タヒ

きみが死んだ時ほど、夜空は美しいのだろうし、ぼくは、それを少しだけ、期待している。
きみが好きです。
死ぬこともあるのだという、その事実がとても好きです。

愛はいらない、さみしくないよ。ただきみに、わたしのせいでまっくろな孤独とさみしさを与えたい。

赤い夜景、それは故郷では見られないもの。それを目に焼き付けること、それが、きみがもしかしたら東京に、引っ越してきた理由なのかもしれない。

時間の

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だらく

今年はあまり音楽を聞かなかった
足りなかった才能
あなたが書いたような詩に囲まれて、その実あなたがつくったものなんてそこには何一つない
夏はゆっくり流れる 私には目まぐるしい速度で
私はあなたの笑顔が好きなわけではなかった

神様のボート 江國香織

子供のころに何度も読んでもらったおとぎばなしの影響かもしれないが、私には、自分が森のなかで道を見失い、ぐるぐるとやみくもにさまよっているという感じがある。つねに。

あたしのクレヨンはいつも黒と白ばかり減ってしまう。

風にちゃんと草や木の匂いがする。とくに帰りみちはいい。もう深夜なので、あたりに人っこひとりいない。夜空で星の凍っているその暗い道を、私は襟巻をなびかせて帰る。ときには腰を浮かせ、高

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とかげ よしもとばなな

この記事読み返した私が、作品読み返してくれたらいいな。
らせんがお気に入り。

新婚さん確かに私の知っている顔だった。気にいっている芸能人や、初恋の子や、いとこや母や思春期に性欲を覚えた年上の人や、そういう「いつかのだれか」に似ている気がした。

「どうして?」
女が私の目を覗き込んだ。胸元の花が揺れた。大きな瞳にまつげがびっしりとはえているのが見えた。深く、どこまでも遠く、子供のとき初めてプラネ

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あやかしの鼓 夢野久作

私はこれを私の思うた人に打たせて『生きながら死んでいる私』の心持ちを思い遣ってもらおうと思ったのだ。ちっとも怨んだ心持ちはなかった。

その声は非常に静かで女のような魅力があった。

この家中に充ち満ちている不思議さ……怪しさ……気味わるさ……が一時に私に襲いかかって頭の中で風車のように回転し初めた

私はその時何の意味もなくお辞儀をしたように思う。その婦人もしとやかにお辞儀をしてすれ違った。その

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縊死体 卵 夢野久作

縊死体会いに来た時の桃割れと振袖姿が、あんまり美し過ぎたので、私は息苦しさに堪えられなくなって、彼女を郊外の××踏切り附近の離れ家に連れ込んだ。そうして驚き怪しんでいる娘を、イキナリ一思いに絞め殺して、やっと重荷を卸したような気持ちになったものである。万一こうでもしなかったら、俺はキチガイになったかも知れないぞ……と思いながら……。

卵決して恋を恐れているのではない。現実の恋から必然的に生まれる

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女生徒 最後の一文について

おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。

少女は少女のままではいられない
小さな決別の詩を彼女は感じたのだと思う。

微笑 夢野久作

 ……時間と空間とを無視した……すべての空虚を代表した微笑であった。
 ……真実無上の美くしさ……私は、その美くしさが羨ましくなった。云い知れず憎々しくなった。そのスベスベした肌の光りが無性に悲しく、腹立たしく、自烈度くなった。
 その人形を壊してしまいたくなった。その微笑をメチャメチャにしたくなった。私は人形を抱き上げて、静かに首をねじって見た。

けれども人形は死ななかった。

その古新聞紙は

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女生徒 太宰治

眼鏡をとって、遠くを見るのが好きだ。全体がかすんで、夢のように、覗き絵みたいに、すばらしい。汚ないものなんて、何も見えない。

カアは、悲しくて、いやだ。可哀想で可哀想でたまらないから、わざと意地悪くしてやるのだ。

情なくなって、土の上に坐りたいような気持ちになった。

何か身内にピュウッと走り去ってゆくものを感じて、なんと言おうか、哲学のシッポと言いたいのだけれど、そいつにやられて、頭も胸も、

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2021/11/04の日記



世界をそのまま眺めたら案外一人になれること、忘れていた

水槽の底

揺らぐ水面みたいな天井に覗く明日の影、ひたすらおそろしくてそれが去るまで目を逸らすことも出来ない。溺れているときはいつもそう

背中合わせのフローリングと同じ温度、それでも私はどこまでも異物。飽和しきった身体を起こしたら何かそれ以外の全てを残すような気持ちで行かないと

ムーンライト・シャドウ よしもとばなな

彼はなにこれ、と笑いはしたが決して無造作にではなく、大切そうに手のひらからハンカチに包んだ。その年頃の男の子にはあまりにも不似合いな行動なので、私はとてもびっくりした。
恋なんて、そんなものだ。

そんな気がしたなんて、後からいくらでも言える乙女の感傷だ。しかし私は言う。そんな気がしました。

なるべくいたずらにひまな時間を作らないように必死で努力した。それはそれは不毛な努力だ。本当はしたいことな

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