見出し画像

無用の美に価値を見出す:21_21 DESIGN SIGHTの『わからなさの引力』展から

この記事では、21_21 DESIGN SIGHTで行われた、そばにあった未来とデザイン「わからなさの引力」展から、無用の美に価値を見出すことの豊かさについて考えます。

そばにあった未来とデザイン


2023年3月18日から26日にかけて、21_21 DESIGN SIGHT「そばにあった未来とデザイン:わからなさの引力」展という展示が開催されました。この展示は、技術が進歩するにつれ、機能性に重きを置くようになり、見過ごされてしまった「何か」を探求するものでした。13人のクリエイターが、それぞれに「説明しにくい魅力を持つもの」を展示し、その「わからなさ」についてのステートメントを示しました。

例えば、「自遊人」代表の岩佐十良さんは、「ペラペラの温泉タオル」を展示しています。ふわふわのタオルと比べて、軽量で速乾性があり、ザラザラした肌触りがいいと言います。
新たな旅館を提案している岩佐さんらしい選択ですが、温泉タオルは、タオルとしての機能をもっています。

ペラペラの温泉タオル


機能を発揮しないものの美しさ


私が興味を持ったのは、美学者の伊藤亜紗さんが展示した「ヒシの実」AKI INOMATAさんの展示である「虫喰い欄間」です。伊藤亜紗さんは、ヒシの実について、その形状から忍者が「まきびし」に使ったと説明し、「人間には作り出せないかっこよさだ」と言います。AKI INOMATAさんは、生物の持つ創造性をテーマに作品制作をしています。虫喰い穴を意匠として欄間に仕立てた「虫喰い欄間」も生物による造形です。今であれば、虫が穴を開けた材木を使うことはないでしょうが、昔の職人たちは、意匠として使う美意識をもっていました。


ヒシの実


虫喰い欄間

そして、伊藤亜紗さんもAKI INOMATAさんも、直接機能を発揮しないものに価値を見出すところがすごい。他の人には思いつかない発想で著作やアート作品を制作しているのも、このようなユニークな視点をもっているからではないかと思います。

「用の美」と「無用の美」


無名の職人による誠実な手仕事による民衆的美術工芸を「民藝」と名付け世に広めた思想家の柳宗悦氏は、「用の美」という言葉を残しています。

職人たちがあらゆる使用場面を想像しながら、一手一手丁寧につくり込む過程で、その業界の常識やシステムに惑わされない、本当に必要なモノ・コトだけに意識を集中した手仕事が加わっていきます。そのことをまさに「用の美」が備わっていると言うのでしょう。

「用の美」kinoieブログ

一方、脚本家の中井英夫氏は、「無用の美」という考え方を提唱しています。例えば、物語には必要のないセリフや場面を入れることがありますが、それらが物語の世界観をより深く、美しく、魅力的にしているというのです。このように、機能的ではない、無用の美にも価値があるのです。

今回の、21_21 DESIGN SIGHTの展覧会からは、無用の美に価値を見出すことが豊かさを生み出すというメッセージが感じられます。


「無用の美」で社会を楽しくする


AIの急速な進歩に、今までのように身体を使って調査をしたり実験したりしなくても、瞬時にそれらしい答えが手に入るようになりつつあります。機能性や効率性をより追求するようになり、「無用の美」を見つけることやその豊かさを感じることが難しくなっています。

このような状況を打破するには、機能や効率の追求を少し止めて、自分が興味を持つものや好きなものに視点を注ぐことが大切です。

また、無用の美を追求することは、新たな価値観を生み出し、社会の発展にも繋がる可能性があると言えます。日常の中にある些細なものに、機能性だけでなく美しさや面白さを追求することは、新たな産業や文化を生み出すことにつながるでしょう。

無用の美に対する関心を高め、社会が今より楽しくなるようにしていきましょう。


この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?