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(7) 事前に把握するのは、大変困難な状況でした。(2023.10改)

翌14日夕刻、お役御免となったモリは、南砺警察署前の報道陣のカメラのフラッシュを浴びながら、富山県警のワゴン車で五箇山の家へ帰宅した。
村の要所には警官が配備され、村の平穏は維持されているようだ。庭に家族が全員集合しており、戦地から帰ってきた祖父の兄弟達もこんな出迎えを受けたのかと思いながら家に入る。
取り敢えず、ビールだ・・

知事と副知事、サミアによる判断として、今回の訪米を中止し、リモートで党大会に参加するとの報告を聞いた。
富山市内のホールを日本時間の17日から3日間抑えてコンサートすると言うので、面食らう。
真っ先に不安が頭を過ぎる。タイ訪問後、スティックを持っていない。3連チャンコンサートの体力は持つのか?と心配になる。

「今晩から叩けばいい。明日は終日練習だ」と酔った紗佳に絡まれる。今晩は、あまり飲めないのか・・盆入りしてからツキに見放されていると嘆いていた。
亮磨は異母弟達と語り合っている。由布子と夕夏、紗佳はママ友達の輪に入って談笑している。
家族に浸透している4人を理解していないのは自分だけかもしれない。
娘達だけが癒やしだった。が、ビールを注いでくれたのは最初だけで、「練習、頑張ってね」と手の平返しされ、他人事に転じてしまった。

また、県内の感染症担当でもある副知事殿によると、富山県はアーチスト支援、芸能支援を打ち出し、コンサートや寄席、演芸に県内の施設を、感染対策上客数を絞った上で無償で貸し出す方針を盆明けに打ち出すという。観客も移動による感染防止で富山県民に限定されるので集客は満足に行かないと思うので、参加を表明してくれた芸能関係者には生活支援金を支給し、場合によっては富山県内での感染退避生活も県内の観光施設を借り上げて、支援すると言うので、思わず拍手をする。アーチストと観光業界への支援にも繋がり、富山のローカルTV局、ラジオ局の番組制作の一助となるかもしれない。

また、知事殿曰く、被害者側である我が家としては、米国民主党党大会まで沈黙を守る方針というのだが、国が相手だけに仕方がないのかもしれない。
明日は副知事と都内の式典に参加するらしい。
政府と与党関係者は全員欠席という確認をしたので、各知事と出席予定の各県の戦没者関係者の住所情報を貰い、PCR検査キットを人数分配送したという。当然ながら宮内庁にも陛下ご夫妻分の検査キットを送付済みで、もうこれだけで政府を愚弄していると思う。愉快痛快だった。

1時間ほど経った頃、「そろそろ移動します。ご馳走様でした」と由布子が言って立ち上がるとメンバーがゆっくりと腰を上げる。
一緒に演るつもりなのだろうか?
「行くぞ、イッセイ」紗佳に言われたので、膝の上にいる美帆に謝って降りて貰い、立ち上がる。サミアも含めて6人が揃うのは初めてだ。

「6人って構成は高校以来だ。なんかワクワクしちゃうな。じゃあ、行こっか」由布子が部屋から出ながら言うと、紗佳、夕夏が「後片付けもせず申し訳ありません。ご馳走様でした」と頭を下げる。
「私達も後で行きますね」彩乃が隣でシナを作りながら言うので、吹き出してしまう。
頭を撫でて、「後片付けをしてくれるんでちゅか?良い子だね、後で飴玉上げまちゅからねぇ、よしよし」と言ったら中学生らしく剥れていた。

カエルの鳴き声を聞きながら、美帆の小さな手をつないで夜道を歩く。美帆は夕食時から お話中で、合いの手を所々で打つ。
中学校の校門前には村の老人たちとエンジニアたちが2列になって並んでいた。
近づくと拍手と歓声で出迎え始めた。家族との再会の時は堪えられたが、意表を突いた攻撃の前では為す術も無く決壊してしまい、歩みを止めて立ち止まった。美帆が笑顔で下から覗きこむ。

・・彼らが居なければ狩られていたかもしれない。涙が止まるまで、暫く佇んでいた。

ーーー

リハーサルの模様を娘たちが編集して投稿すると、記者会見もしていないので動画もニュースで流される。思惑と狙いはソコだったかと翌朝のニュースを見て合点した。
映像全体の1/4位をモリを映した映像を使い、活発に動いている様を強調しているのが分かる。本人には気恥ずかしい動画だった。

アナウンサーは3日間のコンサートにも触れる。直前に決まったのでチケット配布も出来ないので、富山県民限定でメールで希望を集って、ランダムに1500名x3日間選ばれた。本人確認が必要になるので無償招待券が転売されることも無いと触れる。
ホール自体は2500名のキャパシティがあるがコロナ対策で客席を空けて密着を避ける。 前日に各家庭に届くPCR検査キットで、各自検査をしてもらい、陰性だった「結果そのもの」を会場まで持参して貰う。
この方法でアーチストや芸能関係者に県内の会場を無償提供する方向で検討していると報ずれば、「さすが、富山県だ」と日本の皆さんには、さり気ないアピールになる。
発想も小憎らしいものがある。

15日は午前中リハーサルで、午後はヘッドホンを付けて一人で叩いていた。

一人で叩きながら昨夜の自分を回想していた。
戦場に身を委ねた者は生への渇望から、異性を求めると小説に書かれていたり、旧日本軍やGHQに限らず、第2次大戦・ベトナム戦争時までの各侵略軍のマニュアルには、駐屯地と赤線地帯は同時に設置が必須のように見なされ、「軍と性」がセット物のように扱われていた昭和期の2つのケースを考えていた。
自身も狩られる立場と応戦する経験をした事で、内面に野蛮な一面が宿る懸念を抱いていた。実際、犯人たちの捕縛時に残虐行為を働いてしまった。
動けない彼らを恫喝している様を、食料とともに送られて来た新しいスマホで録画した。警察に提出されたドローンの映像では、サミアたちが気を回してくれてカットしたものが提出されたが、犯行の黒幕が誰なのか追求し、吐かせる事にモリは成功した。真実だと泣いて懇願する男達の性器は切断されずに終わった。

警察署で聴取を受けている間は、自身の内面に巣食う残虐なものや、性的な欲求は特に感じなかった。聴取を終えて家へ戻り、夕食後に久々にドラムを叩いて、汗を流して再びビールを飲んでスッキリしたのか、その時は泥のように寝た。
変化が生じたのはその後だった。深い眠りで一時的に疲れが取れたのか深夜に目が覚めてしまう。高ぶってしまって眠れないので、物音を立てずにそっと外へ出て、星空を眺めた。
部屋には駄々をこねて離してくれずに一緒に寝た美帆と母親の志乃が居て、志乃を襲いたい欲求が抑えられなかった。広大な宇宙とちっぽけな自分というテーマで思考していると、漸く理性が作動し始めたので部屋へ戻ると、志乃が不在を感知して起きていたのか、浴衣を脱いだ下着姿に誘われてしまう。タオルを噛ませて朝まで志乃を攻め続け、史実通りに変化した自分を悟った朝を迎えた。

その日の夕飯を終えて再び音楽室にやって来て練習していると、突然、4人娘が現れた。
そこで調子が狂い、脱線する。音楽室は完全な防音設備が施されているのだが、それを知っている娘たちは内鍵を閉じて誘ってきた。昨夜どころの話ではない。脳内の理性は吹っ飛び、なんの遠慮もせず、明日への配慮も一切せずに一匹の野獣と化していた。

この2夜に渡る異常事態は3日目に収束と言うか霧散した。
志乃と娘たちにあの晩を尋ねると「いつもと同じですよ」と言うので興醒めする。
「交戦後の欲求」に対する疑問は、依然として残ったままとなった。

ーーー

終戦の日、日本武道館で毎年行われる全国戦没者追悼式に出席した富山県金森知事と村井副知事は、記者たちから事件や訪米に関して問われても、8/15と言う日に相応しくないとしてコメントを拒否した。千鳥ヶ淵に戦没者慰霊に訪れても無言を通し、日帰りで富山に戻った

富山県警から、再三発言には注意を払ってほしいと要請された為だ。

「お母さんが口を開いたら、罵詈雑言の嵐で収拾がつかなくなるから黙ってて」
と蛍からも懇願されたので、鮎は言いたいのを我慢して口を閉ざしていた。
「18日(アメリカは17日)はダムが壊れたような状態で、話し続けるだろう」と同行している幸乃も良く我慢出来たなと感心しながら思っていた。

知事と副知事が富山に帰ってきた頃、富山県警と警視庁、そして陸上自衛隊の3つ組織の鑑識部隊が集い、事件現場の同一時刻の現場検証を行っていた。
前日同時間帯での独自調査を終えていた富山県警は、警視庁と自衛隊を引率し、2つの組織の作業を見守るだけだった。

富山県警も興味を抱いていたのが、スナイパー専門の自衛官による、事件と同じ地点から狙撃テストだった。

まだ明るい時間帯に狙撃ポイントに立った自衛官は、口にはしなかったが「3発とも当てるのは無理だ」と思った。
富山県警の鑑識課の職員からモリの猟銃を渡されて、ドローンの映像通りに構える。この体勢では自分は無理だと申告して腹ばいになった。それも周辺に落ちていた木々で銃を固定した。僅かなブレが命中率を下げるのを知っている周囲は、自衛官の判断を許容した。尋常なレベルではないのは誰もが思っていたからだ。

明るい時点での約630m先の標的を目視しても、ライフルに備わっているプルシアンブルー社製のデイ&ナイト共用スコープと同じ倍率の双眼鏡を使っても、標的をファインダー内に固定する事が誰も出来ずに居た。
警視庁の職員も自衛官も当然ながら銃を扱った経験はあるだけに、的に当てる難易度が異常だと認識していた。更に19時前の現場一帯は一面影地になるので、射撃には最悪に近いコンディションになる。

スコープを覗いた自衛官が一度頭を外して、「すみませんが私の銃をください」と要請して、モリの銃の隣に並べて同じ体勢で構えた。そしてモリの銃で覗いた。これを2度繰り返した。

自衛官は時計を見て振り返った。「まず17時の時点で撃ちます」
3発放ってどれも命中したが脚ではなく、人形の腹と頭が吹き飛んだ。

「化物ですね、議員は・・」陸自の最強と言われるスナイパーが苦笑いしながら負けを認めた。

モリの特異点が記録される。「犯人4名が生存しているのは、撃ったのが被害者だったからだ」と。
この鑑識結果は、首相が自選して据えた警視庁幹部の手元にも当然ながら届く。陸自のスナイパーが舌を巻く射撃能力、そんな男に挑んでいたのかと打ちひしがれる。

フィールド内を疾走し、議員が取った危険回避行動を陸自の特別部隊の教官達は絶賛している。「テロリストと相対するレベルの事案が生じた際には、臨時に依頼すべきだ」とご丁寧に「進言」まで添えられている。
沖縄、岩国の米軍海兵隊員より勝ると断定される相手を殺めようとしていたのだ。
「戦術的、大失策」として記録に残るのは間違いなかった。警視庁長官、次官はこの日辞表を提出する。

同じ先行情報は内閣府と与党本部にも届く。「海兵隊員でも苦戦を強いられる相手」だったと今になって判定された時点で、愚かにも作戦を立案し、作戦承認し、首相官邸に上奏した全員が「無能」とレッテルを貼られた格好となった。
当然ながら、海の向こうの大統領も息を呑む。

「被害者がもし復讐行動に出たら、甚大な被害が生じかねない」と書かれていた。
「ドローンを無数に操り、複数の銃と十分な銃弾があれば大半のターゲットが世を去るだろう」
大統領向けに作成されたCIAのレポートだった。

「お前が自ら蒔いた種だ!」と指摘しているようなものだ。

ーーーー

母と叔母に、姉が説明しているのを彩乃は眠ったフリをして聞いていた。薄目を開けると美帆は体を起こしていた。襖の向こうの3人の会話を聞こうとしているように彩乃には見えた。

母も含めて3人は先生と肉体関係にある。
村井家だけでなく、源家と平泉家も同様らしい。彩乃もモリに夢中なので、多分そうなのだろうと実娘のあゆみとも話はしていた。
そうでなければこの共同生活は維持できないだろうとまで、2人の中学生が時折り論じていた。

姉と叔母の報告は彩乃には悦ばしいものだった。先生は村井家との相性の良さを行為中に囁くのだという。叔母が「姉はどうですか?」と聞いたとき「お姉さんも素晴らしいです」と答えが帰ってきたと叔母が伝えると、母は「やったぁ〜」と喜びを口にしていた。

「彩乃が近い将来加わったら、我が家が人数的にも優位になる」と姉が説いていた。彩乃にとっては重要で、未来を左右する情報になったのは言うまでもない。

しかし、モリ流のチーム掌握術、チームビルディング術の一つでもあるのは誰も知らない。
源家、平泉家の面々にも、同じような話を当然している。
「内緒にしていただきたいのですが」と囁き「出産を欲するのも分かるのですが、あなたに妊娠されると少々困ってしまうのです」と行為中に伝える。
プラン的には、3チームに事実上の出産抑制を働かせて、その代わりに蛍だけが突然妊娠する。

「次はあなた方以外のどちらの家にしましょうか?」と3家にそれぞれ伝えると、少なくとも数年は妊娠出産を引き延ばす事が出来る。
あわよくばアラフォー3人の出産を回避できるかもしれない。そうなると、3家間の冷戦時代は娘たちに託されるのかもしれないが、同じロジックを当面は踏襲できるだろうとモリは考えていた。

海外の大使連中を手玉に取り、煙に巻くモリにとって、女性の扱いの方が遥かにラクなのは言うまでもない。彼女たちは凄腕のスナイパーでありながら、スパイ活動の才も秘めている都議に夢中になるあまり、我を失いながら、ただモリの術中に溺れ、ハメられてゆく。

嘗てモリに手玉にされた母と娘はモリの遣り口を知っていた。
「お母さんの方が・・」「蛍の方が・・」と言いながら、攻略されていった当時を回想する。
「今回は私だけが妊娠する」と蛍は分かっていた。その間妊娠していない側はモリの性技に溺れてしまうのだ。

「私には素敵な時間だった。だって、毎晩彼を独占出来るんだもの。女にはね、そんな経験と時間が必要なんだよ。きっと3家にも同じようなセリフを囁いてるんだと思うし」

「本人は騙してる訳じゃないんだろうけどね。あの顔で囁かれると凄くゾクゾクするのよね」

「玲子ちゃんから聞いて驚いたんだけど、彼、学生時代にバリでビーチボーイしてたらしいよ。日本人を狙って貢がせてたんだって」

「あぁ、翔子さんと里子さんから聞いた。あの外務省の美魔女からもお金も巻き上げたんでしょ?」

「いや、彼女は学生だったから、そんなにお金を持っていないと判断して、数日間共にしただけなんだって。でも、彼女は性に目覚めてしまった」

「射撃だけじゃないのよね、タチが悪い・・」

「えっと、ああいうのってマグナムっていうんだっけ?」

「マグナムねぇ・・私は他は知らないけど、皆んなそう言ってるね・・」

昼寝していたあゆみが目を覚ましていたのを、祖母も母も気が付かなかった。

(つづく)


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