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あどけない話(夜のエッセイ)

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日々の暮らしから、あどけない話を綴ります。
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2018年8月の記事一覧

学生街の喫茶店

学生街の喫茶店

出張で大阪の大学に行ってきた。

近鉄に乗って大学の最寄り駅に降り立つと、目に飛び込んでくるのは「まなびや通り」の文字。どうやら、大学まで続く商店街の名前のようだ。
駅から大学までは少々歩くとのことで、道順をなんとなく調べてきてはいたのだが、そんな必要はなかった。というのも、駅から大学まで、人の流れができていたのだ。これに混じっていけば、大学まで迷うことなく着けるだろう。途中、道が二手に分かれると

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雨ではない御堂筋

雨ではない御堂筋

出張で大阪に来ています。
これまで、梅田には立ち寄ったことがありましたが、なんば・心斎橋の方まで来たのは初めてです。
出張というのは普段の仕事に割り込んでくるのが常なので面倒なところもあるのですが、「自分の意志で選んだのではない街に行ける」という意味では良いものかもしれません。

私は最近出張で見知らぬ街に来ると、一通りの仕事や食事が終わった後のタイミングで、あてどもなく夜の街をさまようことにして

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旅慣れない私

旅慣れない私

精神と肉体が短絡(ショート)的に繋がってしまっているところのある私は、昨日のニュースが予想以上にショックだったようで、今日は気分がすぐれない一日を過ごした。

そんな中でも仕事には行かざるを得ない。
しかも、明日から数日間、関西方面への出張の予定が入っているため、必然的に仕事のスケジュールは前倒しになる。あぁ、辛い。

「出張」という、仕事における予定。前職はいわゆる出張などしたこともなく、慣習的

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さくらももこさんのこと

さくらももこさんのこと

遠くで雷が鳴っていると思ったら、しばらくして土砂降りの雨が降り始めた。そんな空模様だから、今日は「遠雷」についてでも書こうかなと思っていたところ、スマートフォンにニュース速報が飛び込んできた。

「さくらももこさん、乳がんで死去 享年53」。

寝耳に水とはこのことである。本当にびっくりした。

私にとってのさくらももこさんは、『ちびまる子ちゃん』や『コジコジ』の作者よりも、エッセイ集『もものかん

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「休みの日は何をしていますか?」

「休みの日は何をしていますか?」

人から聞かれると困ってしまう質問、というのは誰にでもあるだろう。
私にとっては
・「趣味は何ですか?」
・「好きな作家は誰ですか?」
・「どんな人がタイプなんですか?」
あたりの質問がそうだ。どれもこれも、「それは、○○です」と一言で言い表せるほどの答えを持ち合わせていないから。さすがにこの歳になると「模範解答用」の答えを用意し、「『質問への答えの中身』よりも『質問に答えること』だけが求められる場

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銀座の夜

銀座の夜

珍しく、夜の銀座で金曜の夜のひとときを過ごす。久方ぶりに行く、ビアガーデン。夏の風物詩である。

いつ行っても、銀座という街は落ち着かないようで落ち着く、不思議なところだ。
ハイブランドの路面店はどこも入口にスーツを着込んだ男性が立っていて、中を覗くことすら叶わない。それでも、新宿や渋谷の賑わいとはまたどこか違って、人の流れが比較的整然としているからか、変な疲れ方はしない。立ち並ぶビルを見ているだ

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花の名前

花の名前

…といっても、向田邦子の作品のことではない。

「寒の戻り」ならぬ「暑の戻り」よろしく、すっかり暑さが戻ってきてしまった(ところで、「寒の戻り」の対義語は、正しくは何と言うのだろう)。そんな中でも季節がたしかに移ろっていることを感じさせるのが、道端に咲く花々。夏真っ盛りの時は目にすることのなかった控えめな花が、通勤路の所々に顔を覗かせている。

恥ずかしながら、私は花の名前をほとんど知らない。チュ

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翻訳小説との「出会い」

翻訳小説との「出会い」

風邪をひいて、一日寝込んでいた。
寝床の上でゴロゴロしていると、つい昔のことを思い出す。

確かあれは小学生の頃だったか。やはりこんなふうに風邪をひいて、学校を休んで寝ていた。当時住んでいた家の寝床の脇には本棚があって(今の住まいもそうなのだが)、寝ているしかすることのなかった私はそこに差してあった本を手に取った。トールキンの『指輪物語』。訳者は瀬田貞二氏。今でこそ文庫になっているが、我が家にあっ

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世間の、話。

世間の、話。

またやってしまった。

世間話についてである。

職業柄、初対面の方と先方の会議室でお会いして、向き合って1時間ほどお話をする機会が多い。そんな時、自分で自分を「ああ嫌だ」と思ってしまうのが、本題に入る前の世間話。
お互いに初対面なのでいきなり本題に入るのはなんとなく難しく、暑いだの寒いだの、晴れてるだの雨が降ってるだのという言葉を繰り出してしまう。お互いが心の中で「本題に入る前の準備時間」である

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「ごま油を買って…」

「ごま油を買って宝塚を観よう!」

通勤電車のドアに貼られていた広告の謳い文句である。
詳しくは見ていないが、ごま油を買って応募すると、抽選で宝塚のチケットが当たるのだろう。

この「商店街で買い物をしてハワイに行こう!」と同じ軽やかさを感じる文句、正直に言うと最初見た時は「ん?」と思ったのだ。
今、宝塚と言えばチケットがなかなか取れず、悔しい思いをする方もいらっしゃるのだとか。先日足を運んだ東京

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秋本さんは秋風さん

秋本さんは秋風さん

今日も秋風が気持ち良い一日であった。

私はと言えば、お盆休みの最後の一日、旧友と新宿で待ち合わせて一席…と思いきや、めったにないことだがお店を4軒も梯子してしまった。
一口に新宿と言っても様々なエリアがあるのだが、私はたいてい人が少ない代々木の方や、小さな店が並んでいる三丁目の方に行くことが多い。今日も、三丁目エリアをウロウロしていた。

ここ数日の気候の気持ち良さについては連日書き記していると

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「優しい経済圏」に身を置きたい

「優しい経済圏」に身を置きたい

今日は、毎週通っている「語学塾こもれび」さんのイベント、「こもれびより」の第2回。
第1回にもお邪魔して、拙稿でイベントの様子を紹介させていただいた。

第2回目の今日は「大切なものは目に見えない」と題した、「日本語の目力」と「見えすぎるという盲目」とのテーマで語られる、講師の方によるミニ講義。

読み上げられた日本語を書き取る、という行為を通していかに日本語には多様な表記があるかを改めて実感した

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秋風に誘われて

秋風に誘われて

夕刊を取るために玄関のドアを開けたら、夕焼けの中、なんとも涼やかな秋風が吹いていた。

その涼しさになんだか心ときめき、この時間を逃すまいとそのままふらふらと散歩に出た。これまで、散歩に出てみようなどと思ったことがほとんどなく、時間さえあれば家に引きこもっていたような人間だったことを考えると、意外な行動だ。

当然、決まった散歩コースなどというものもないので、なんとなくいつも駅に向かう道とは正反対

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響きを感じる楽しみ、奏でる楽しみ

響きを感じる楽しみ、奏でる楽しみ

生まれてからこの方、ギターというものに縁がなかった。周りを見てみると中学・高校あたりで始めた人が多い印象だが、変に斜に構えていた私は完全に乗り遅れ、ここまで生きてきた。
でもやはりどこかでギターを弾くことに対する憧れというのはあって、アーティストのライブなどでギターを弾きながら歌っているのを目にすると、「格好いいなぁ」という素朴な気持ちを抱いていた。かといって、音楽教室に通う気にもなかなかならず、

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