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「光る君へ」第18回 「岐路」 思わぬ人生の転機を助ける人望とは
はじめに
人生の岐路はいつも唐突です。大抵はそれが岐路であったと気づくのは後のこと。それくらい自覚的でない形で訪れます。摂政家という上流階級に生まれたとはいえ、三男坊に生まれた道長が政の頂点に立つ可能性は極めて低いものでした。一族の存亡をかけた謀をした兼家は、その可能性が頭を掠めることはありました(第10回)が、それでも万が一の場合の話です。
道長当人は凡そ考えたことがなく、また生来、上か
「光る君へ」第17回 「うつろい」 うつろう世の中で自分の道を見出す女性たち
はじめに
老境だった兼家の天下も約5年、後を引き継いだ道隆の栄華も約5年。権勢がいかに儚く脆いものであるかを象徴しています。ただ兼家が万難を廃し、盤石をもって道隆に継がせました。ですから、兼家の死は、政にとって大きいものであったにもかかわらず、大局への影響はさほどにはなりませんでした(息子たち個人個人はともかく)。
しかし、盤石に引き継いだはずの道隆の病は、あきらかに政の潮目が変わる瞬間となっ
「光る君へ」第16回 「華の影」 栄華と疫病が人の本性を炙り出すまで
はじめに
栄枯盛衰…栄えることと滅びることは常に紙一重です。栄華の中にこそ、滅びの種は潜むもの、「華の影」というサブタイトルはそうした世の理(ことわり)を表していますね。
そう言えば、前回のサブタイトル「おごれる者たち」、「おごれる者」と来れば「久しからず」と頭に浮かびますよね?中学時代に「平家物語」の冒頭部分の一節を暗誦させられ、今なお記憶している方も多いでしょう(笑)
この一節を象徴す
「光る君へ」第15回 「おごれる者たち」 自分の居場所、進むべき道はどこにある?
はじめに
新しい時代の始まり、状況の変化は、人にとって必ずしも前向きになれることとは限りません。寧ろ、その変化に対応できない、取り残される不安や焦りを強く感じる人も多いのではないでしょうか。この記事が公開される4月は新年度ですから、まさにそうした憂鬱に悩まされている方々もいらっしゃることでしょう。
それは「光る君へ」劇中も同様です。道隆政権に変わり、それに追随する者、反発する者と明暗は分かれ
「光る君へ」第14回 「星落ちてなお」 その2 生き方を選択する女性たちの強さ
はじめに
貴族の頂点に立ち、政を摂政家(東三条殿一門)のものとして確立した兼家は、その辣腕ゆえに内外に敵の多い人でもありました。したがって、その彼の死が、新たな政局の始まり、政治的な転換点となるのは必然でしょう。第14回の後半では、その後継者となった道隆が着々と地固めをし、専横を極めていく、その序章が描かれました。
しかし、兼家を牽制し、政争を繰り広げてきた貴族たちは、兼家の死という絶好の機会
「光る君へ」第14回 「星落ちてなお」 その1 兼家の死から見える権力者の宿命
はじめに
巨星墜つ…兼家の死を一言でまとめるとこの一言になるでしょう。平安の世は源平藤橘の四氏が争い、藤原氏が政変によって他の三氏を圧倒しました。天皇すらもすげ替え、藤原の氏長者となり、摂政に上りつめた兼家は、政の頂点であり、この時期の政局の要でした。その存在感は同期の貴族では比べられる者はいないでしょう。
また、この後、しばらくは権力の中枢を担う摂政家の物理的、精神的支柱も兼家でした。兼家に
「光る君へ」第13回 「進むべき道」 その2 道長をめぐる女性たちの生き方
はじめに
とうとうまひろと道長は道を違えてしまいました。最初から先のない恋でしたが、運命に引き裂かれたという以上に、彼らの想いの深さとそれによる躊躇が招いたすれ違いが決定打となったように思われます。
時は流れ、4年が経ち、二人は関わり合うこともなく、それぞれに生きています。父の思惑の結果とはいえ異例の出世をした道長は、まひろとの約束を守るべく政の世界へ身を投じています。勿論、不慣れな初心者ゆえに
「光る君へ」第13回 「進むべき道」 その1 兼家の叱咤が道長に与える影響
はじめに
「光る君へ」という作品の最初の1/4、1クールを牽引してきたのは、兼家でした。まひろと道長は所謂、主人公にあたるキャラクターですが、作品世界の中心にはおらず、物語を動かす力もまだ持ち合わせていません。ですから、兼家が権謀術策をもっていかに貴族の頂点を極めていくか、その謀や政にまひろや道長が何らかの影響を受けていくというのが、全体の構成となっていました。このnoteでも、兼家や晴明を中心
「光る君へ」第12回 「思いの果て」 機会を逃さない勘と貫く強い意思がなかった二人の恋
はじめに
わかっていたその時がついに来てしまいました。互いにかの日の相手の気持ちに思い至り、自分の気持ちを整理できたときには、既に相手はそこにおらず半周先にいる…そんなもどかしさがありましたね。実際はボタンの掛け違いくらいの距離にまで近づいていたのですが、相手に期待するあまり、それが叶わず、勝手に終わったと思い込んだ二人は、圧倒的に言葉が足りていませんでした。
大事なことは口にしなければ伝
「光る君へ」第11回 「まどう心」 女の想いをすくい取れない男の身勝手とは
はじめに
月は満ち欠けするものです。同じ状態のまま一定であり続けることはないというこの世の無常を表していると言えるでしょう。それは、その月を見て相手を想い続けるまひろと道長の恋も同様です。前回、結ばれた二人の想いは、哀しいけれど満ち足りたものであったのでもありました。
煌々と輝く満月から光がちりちりと二人に注がれるシーンは幻想的だったと言えるでしょう。そして、この世を正さなければならないとい
「光る君へ」第10回 「月夜の陰謀」 世を憂うまひろと「家」の宿命に追いつめられた道長の哀しい愛
はじめに
愛の逃避行…誰でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。そんなタイトルの小説も映画もレコードもある、使い古された古典的な言葉です。
でありながら、この言葉に惹かれる人もそれなりにいるでしょう。それはこの言葉に辛い現実から逃げたい、あるいは純粋な愛があるかもしれない…という願望を内心抱いているからと思われます。一方で現実から目を背けたその行為には、多くの場合、悲劇が待ち受けていま
「光る君へ」第9回 「遠くの国」 直秀の死を招いた道長の中途半端さとは
はじめに
予告編では巧くその去就が伏せられていただけに、直秀の呆気ない死は衝撃的に演出されました。検非違使に殺される様子は直接的には描かれず、彼らの死という結果だけが、鳥辺野の地に横たわるという展開も効果的でした。まひろと道長の思いと同化してしまった視聴者も多かったのではないでしょうか?
その一方で彼の死に「ああ、やっぱり…」と静かに哀しく受け止めた方々もいらっしゃったでしょう。というのも
「光る君へ」第8回 「招かれざる者」 人々の心を操る兼家と晴明の謀略
はじめに
政治の要となる人物とは、どんな人を指すのでしょうか。一般的には、その権力を行使する人と思いがちです。
985年の「光る君へ」では、花山帝の寵愛を背景に権中納言へと出世した義懐がまさに権力の中心にいますね。しかし、その専横に対する反発は大きく、政治を動かしているとは言いかねるでしょう。彼は花山帝の政への不満の象徴というだけで、その器ではありません。
真に政治の要となるのは、その存
「光る君へ」第7回 「おかしきことこそ」 平安貴族の常識の「おかしきこと」ってなに?
はじめに
そもそも、時代劇は、その時代っぽさがある現代語の世界です。現代語と古語的な表現が混ざり合っていることは不自然ではありません。特に「光る君へ」に登場する人々の心情は、現代人に近い心情です。寧ろ妥当な言葉遣いでしょう。ですから、サブタイトルを見て「おかしき」じゃなくて「をかしき」だろうと目くじらを立てるのは、言葉どおり滑稽です(笑)
それでも、「おかしきことこそ」とは、何を指して「なんと
「光る君へ」第6回 「二人の才女」 政の要として暗躍する才女たち
はじめに
まひろの慟哭とも言える告白を受け止めた道長の真心…月夜の逢瀬をきっかけに二人の仲は急速に深まり、いよいよ本作のラブロマンス関係のドラマが本格化してきました。
冒頭、泣き濡れて放心状態のまひろの目に映る桶の水の月に重なる道長の顔…その水に映った月をすくうというシーンがあります。実はこのシーン、物語後半で道長が選んだ七言絶句「下賜の酒は十分あるが、君を置いて誰と飲もうか。宮中の菊花を
「光る君へ」第5回 「告白」 政に対する道長の資質と絶望
はじめに
まひろが最も恐れていたことは、自分自身が母の死のきっかけを作ってしまったことと向き合うことでした。勿論、道兼がまひろとぶつかりそうになって落馬したことは不幸な事故でしかありません。また、ちやはの言葉に怒りを覚えた道兼のトリガーを引いたのは、道兼の従者の余計な一言でした。そもそも、まひろも被害者であり、全ての罪は身勝手かつ理不尽な理由で凶刃を振るった道兼にあります。
それでも、生き