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カザリ

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この世界では人に影響を与えられる人と そうで無い人がいる 一生のうちで深く関われる人は 生まれた時にすでに決まっているんだ。 それ以外の人たちを 彼は「カザリ」と呼んだ。  … もっと読む
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カザリ (14-終章)

カザリ (14-終章)

目を閉じてゆっくりと息を吐く
頭を空っぽにして脳のスイッチを切り替えた

学生たちのざわつきや笑い声
全ての雑音が消え静寂が訪れる

そして目を開けると数分間
真実が見える

私の間の前には彼がいる
彼だけがいる

「またやってるの?」と彼が笑って言った
「たまにやらないと不安になるから」

彼はカザリではなくなった
ずっとお互いに影響して行く存在
何色かはわからない糸でしっかりと繋がっている

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カザリ (13-最初)

カザリ (13-最初)

ひとつまだ言っていないことがある
彼女はまだそれに気づいてはいない
いつか本人が思い出した時
そのことを言ってくれるのを待とうと思う

この現象をカザリと名付けたのは
その由来は君の名前なんだってこと
君がいなければ違う呼び方になっていた
それは確かだと思う

「初めて会った日のこと覚えてる?」
「大学での最初は覚えてるけど」
「その前は?」
「断片的だからどれが最初かは…」

高校生の時に出会っ

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カザリ (12-名前)

カザリ (12-名前)

記憶は気まぐれで
過去のことを急に思い出したり忘れたり

ただ今が楽しいならそれでいいかと思ってしまう
少なくとも私は彼のカザリでは無くなったらしい
いてもいなくてもいいような存在では無くなった

何かきっかけになるようなことしたっけ?

-

そんな私と彼との関係は
友達がいることで中和されるらしい
理由はわからないが
その友達がいることでこの現象は薄れ
忘れていたことを忘れさせた

友達は私た

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カザリ (11-再始動)

カザリ (11-再始動)

案の定昨日の出来事は
翌日会った時に全て白紙に戻されていた
僕は相変わらず大学で知り合った友達のまま

君がカザリのことを話した時は
この法則が奇跡的に崩れたのかと思った
少なくともあの神社の中では壊れていた

きっと何か抜け道がある

再会してからほんの少しでも
僕のことを気にしてる視線や素振り
積み上げた月日がそうさせるのか
それとも別の何かがそうさせたのか

今にも切れそうな細いが繋がってい

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カザリ (10-打破)

カザリ (10-打破)

確かめたいことがある
そう言って先日来た神社に彼を連れて行った

鳥居を超えると
雑音が消え二人だけの空間へと変わる

彼の姿がいつもより鮮やかに見え
色が濃くなった気がした
明らかに何かが違う
そして過去の記憶が少しずつ蘇る

「一緒にここに来たことあるよね?
そしてお守り買ったよね?」

彼は驚いた表情を見せた

「この神社の中だと私はカザリじゃなくなるみたい」
「なんでカザリのことを?」

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カザリ (9-神社)

カザリ (9-神社)

家と最寄り駅の中間にある小さな神社
そこだけ小さな森のように木が生い茂っていて
たまに真っ直ぐ家に帰りたくない時
この神社に寄り道してお参りをする

「こんにちは、お邪魔します」
そう言って軽く手を合わせた

繁華街からそう遠くなく
近くの道路には車が行き交っている
でも鳥居をくぐった瞬間から
短い階段を上るとともに
その喧噪は消え静寂が訪れる不思議
これが結界と言うやつか?

今は境内に自分以外

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カザリ (8-隙間)

カザリ (8-隙間)

たびたびフラッシュバックされる映像は
断片で色も音も無く
その人がいるはずの場所だけ
一人分の空間があって

そこに彼をパズルのようにはめたなら
ぴったりとおさまった

この気持ちが何かはよくわからないけど
彼に会えば会うほどに
心に開いた隙間が埋まって行く

記憶の隅に姿を消した彼がいる
どうやって入って来たの?
いつからいるの?

昨日の夜に見つけたんだ
偶然かもしれないし違うかもしれない

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カザリ (7-既視)

カザリ (7-既視)

彼の名前がすぐに出て来なかった
いつも愛称で呼んでいたのもある
何度か聞いたけどよくある名前すぎて
印象に残らなかったのもあるんだろう

たまたま友達が遅れて
二人になる時があって
ふと彼がかばんにつけてるお守りが気になった
どこか見覚えがあった

私の視線に気づいた彼は
そのお守りを見えないように隠した

中身の無さすぎる会話が続く
別に気まずい空気で無理やり話してる訳ではなく
ただ単にお互いが

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カザリ (6-カザリ)

カザリ (6-カザリ)

高校生の時に放課後二人になった時
SFやファンタジーのたぐいだと前置きをして
君に話したことがある

人間には二種類いて
自分に縁のある人とない人
影響を与えられる人と与えられない人
生きて行くうえで必要な存在かどうか

一生のうちで関わる人は
生まれた時にすでに決まっているんだと

それ以外の人は
定型文で話すロボットみたいなもので
目の前のことをただこなすだけの存在

もし学校で毎日会っている

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カザリ (5-運命)

カザリ (5-運命)

僕が彼女のもとから離れたのは
受験で慌ただしくなり始めた秋のこと

彼女にとって
僕がカザリであるとわかったから

目を閉じて呼吸を少し止め
頭の中の余計な物を排除する
そしてゆっくりと息を吐いて目を開ける

数秒間カザリは消えて
繋がっている人これから繋がる人たちだけが
そこに残る

目を開けた僕の景色の中に
彼女の姿はなかった

僕はカザリにもそれ以外にも成ることが出来た
でも相手からすれば

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カザリ (4-再会)

カザリ (4-再会)

大学のキャンパスで彼女を見かけた時
目を疑って無意識に身を隠した

まさかまたこんな形で会うことになるとは
想像もしていなかったから

彼女の最後の言葉
「どうして?なんで?」が今でもずっと耳に残っている

その言葉を発した数分後には
何事も無かったように教室に入って行く
その後ろ姿が今も忘れられないでいる

友達の友達と言うこともあって
避けては通れないと悟り
これも自分の役目なんだと受け入れた

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カザリ(3-無害)

カザリ(3-無害)

初めて会う人なのに
不思議とそんな気がしない
たまにそんな人がいる

「どこかで会ったことありましたっけ?」

下手なナンパ師みたいなセリフが頭に浮かんで
すぐに脳内から掻き消した

友達とたまに一緒にいる彼のこと

「無害」と言う言葉がぴったり当てはまるような
当たり障りの無い会話をする空気のような存在の人で
人見知りをする私でも最初から気兼ねなく話しができる人だった

ただどこかで会ったことが

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カザリ(2-記憶)

カザリ(2-記憶)

ぽっかりと穴が開いていた
心と言うよりは頭の中

記憶の一部をどこかに落としたような
近い過去に置き忘れて来たかのような感覚

大学に入って仲良くなった友達がいる
明るくてお喋りで何でも前向きにとらえる性格の子

その子にこの穴のことを話したら
「忘れっぽいしすぐ物を失くすしいつものことじゃない?」と
それはそれで間違ってないから言い返せない
でも大切な記憶がそこだけすっぽりと切り取られたようなそ

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カザリ(1-出荷)

カザリ(1-出荷)

制服を着なくなって一か月も経たないのに
もう大学に行く電車に乗ろうとしている

新しい環境は緊張しかなくて
相変わらずの満員電車はいつまでたっても慣れない

知らない人同士が狭い箱に押し込まれ
密着してもちろん会話ややり取りは無く
こんな至近距離にいるのに誰も何もしらない状況

ただ運ばれて行く様子を
「出荷だ」と高校生の時からそう思っていた

駅を降りるとそれぞれがそれぞれの出荷先へ
自由意志を

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