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【頂を目指した戦士】『責任感と共に駆け抜けたプロ2年目』~本山遥~

試合終了と同時に倒れ込む姿を何度見たことか。

チームを勝たせられなかった。サポーターに勝利を届けられなかった。本山遥はプロとしての責任と誇りを背負いながらプレーする。だからこそ、試合後の振る舞いから感情が読み取れる。もちろん、チームメイトと笑顔で喜び合う姿もあった。しかし、今季は顔をゆがめながら膝に手を当ててタイムアップの笛を聞く姿の方が印象に残っている。

中盤戦まではプレータイムを伸ばせないことに悔しさを滲ませていた。先発から外れ、途中出場が続く。SB、アンカー、インサイドハーフ。守備を固める狙いのもと、さまざまなポジションで起用された。使い勝手のいい“便利屋”になっていくのか。チームの勝利を自らの手で引き寄せる実感は、あまり得られていなかったように思う。主力としてピッチに立った昨季とは違う立場にいた。

関西学院大学から入団した昨季は、アンカーで開幕スタメンを勝ち取る。これまでプレーしてきたのはSBやCBで、DFの選手だったが、コンバートされた。中盤の底を担うアンカーから見える景色は、これまでのポジションとは違う。相手のプレッシャーを360度から受けつつ、パスを左右前後に展開する。ディフェンスラインの前に位置する防波堤として、ボールを奪い、スペースを埋める。ピッチの中央で攻守両面への幅広い貢献が求められる。チームの心臓とも呼ばれる。

不慣れなポジションではあった。しかし、機動力とスタミナ、ボール奪取力という強みを木山隆之監督に評価されると、遺憾なく発揮した。リーグ戦を3位で終えたチームで即戦力として活躍できた。プロ1年目は自信を深めるシーズンになっただろう。しかし、それ以上に悔しさを残して終えたように映った。

夏に秋田から輪笠祐士が加入したことで、後半戦は出場機会が減少。ボランチの経験が豊富な先輩にポジションを奪われた。それに伴い、右SBでのプレーが徐々に増えた。本職での起用に気合十分で臨むも、失点に関与してしまう。第42節・アウェイ東京V戦では63分に自陣低い位置でのパスを相手にカットされ、頭を抱えた。試合後、味の素スタジアムに駆け付けたサポーターに挨拶する本山の目には光るものがあった。持ち味の守備でチームに貢献できなかった悔しさ、ミスで追加点を与えてしまった申し訳なさ、遠い東京まで応援に来たサポーターの期待に応えられなかった不甲斐なさを募らせる。最後まで応援してくれた12番目の戦士たちを直視できない。チームメイトに慰められながら引き上げていく姿は、今でも記憶に残っている。

2023シーズンは心機一転の気持ちで迎えた。

「本職のSBで勝負したい」。

チーム始動日から間もなく木山監督に直訴し、河野諒祐との激しいポジション争いがスタートした。

背番号も26番から15番に変更した本山は、プレシーズンから鬼気迫るプレーで猛烈にアピールしていく。とにかく、自分の武器を発揮した。粘り強い守備でドリブル突破を許さない。ハン・イグォンと木村太哉のキレキレな仕掛けに食らいつき、体を激しくぶつけてボールを奪った。マイボールになると、超特急のようなスプリントで外側と内側の両方から駆け上がっていく。正確な右足を一振りして決定的なチャンスを作る河野に対し、本山は強度と量で勝負した。

キャンプでの練習試合では腕章を巻いてプレーする姿もあった。縦関係を組むことの多かった木村と阿吽の呼吸でサイドを制圧していく。J1の鹿島アントラーズが相手でも、物おじしない。攻守にアグレッシブさ全開でプレーする姿に、ファジアーノのDNAが重なった。

それでも、開幕スタメンに自分の名前はなかった。チームは[4-4-2(中盤ダイヤモンド)]と[3-5-2]を行き来する可変式を採用しており、右SBはボール保持時に右ウイングのような高い位置に張り出す。ウイングでJリーガーになった河野の攻撃センスと1本のクロスで得点に結びつけられる質の高さが評価されたのだろう。プロ2年目の開幕を告げるホイッスルを、ベンチで聞いていた。

しかし、背番号15はめげなかった。ふてくされなかった。常に矢印を自分に向け、ひたむきに練習に取り組んだ。粘り強い対人守備、運動量では負けない。強みを拠り所にしつつ、監督が求める強度をさらに意識した。紅白戦では人一倍激しくプレーし、ゴール前では果敢に体を投げ出す。政田サッカー場では、171cm71kgのDFが、191cm91kgのルカオに真正面からぶつかってシュートを防ぎ、柳育崇から「ナイス、遥!」の声を掛けられる場面もあった。

今季の初スタメンは4月2日に開催された第7節・ホームいわき戦。4バックを採用していた中、木山監督は対戦相手を踏まえて5バックに変更。本山は右WBを任された。

「まずは持ち味の守備で貢献する」。

そう意気込んだが、10分に右サイドから先制を許してしまう。相手の背後を取ってパスを受けるも、コントロールが乱れて奪われた。そこから縦パスの連続で攻め込まれる。全速力で走った。懸命に戻った。しかし、柳との間を割って入られる。ドリブルを食い止めることができず、ゴールネットが揺れた。

またしても失点に絡んだ。不完全燃焼だった。巡ってきたチャンスを生かせず、再びベンチを温めることになる。

悔しかった。でも、どん底まで落ち込まなかった。練習でできることしか、試合ではできない。政田での時間を大切にした。守備でチームに貢献するためには、何が必要なのか。冷静に自分を分析し、チームの足りない部分を見つめた。自分の持ち味を発揮するだけでなく、磨いていく。次のチャンスを生かすための準備を続けた。

5月13日の第15節・大宮戦では67分から出場すると、精度の高い対角のロングパスで田中雄大のゴールをアシスト。勝利こそ逃したものの、途中出場で数字に残る活躍を果たした。チームへの貢献において、自信を深めた様子だった。

次のチャンスは5月17日の第16節・長崎戦でやってきた。右SBで先発すると、リーグ屈指のドリブラー宮城天を粘り強い守備で抑え込む。ピンチは作られたが、最後まで食らいついた。試合はスコアレスドロー。しかし、産声を上げた長崎の地で、親戚に見守られながら自分の強みをガムシャラに発揮した。

そして、ターニングポイントが訪れる。6月3日の第19節・徳島戦、3バックの右で先発に名を連ねた。チームの成績が振るわない中、木山監督が5バック(ボール保持時は3バック)を採用。機動力を買われての抜擢だった。3バックの右はSBよりもゴールに近い。担う守備のタスクは増えるし、背負う責任はより大きくなる。一つのミスが失点に直結する。

これまで本山は失点に関与することが少なくなかった。それでも、日々を積み重ねる。そんな自分を信じた。キックオフの笛をピッチ内で聞くと、守備範囲の広さを発揮する。素早い出足でインターセプトし、快足を飛ばして逆サイドまでカバーしていく。柳と鈴木喜丈、堀田大暉と協力しながら、柿谷曜一朗と森海渡という徳島の好調2トップを完封した。自らの手で守備における信頼を、再びつかんだ。

8月5日の第29節・ホーム町田戦から第42節・アウェイ金沢戦までの14試合で本山の名前がスターティングライナップから消えることはなかった。機動力を生かした守備とプレス耐性を生かしたビルドアップへの貢献で、3バックの右として絶対的な存在になった。本山の速さだからこそ防げた場面もあり、チームを勝利に導く経験を積み重ねていく。

第32節・東京Vでは今季初ゴールを決めた。場所は味の素スタジアム。昨季に涙を流した悔しい記憶を、豪快なヘディングシュートで塗り替えてみせた。

73分、CKの流れで攻め残っていた。ステファン・ムークがゴール前にクロスを蹴り込むと、背番号15はファーサイドで跳んだ。鍛え上げた肉体が宙を舞う。滞空時間の長いジャンプは、時を止める。ボールと空中で待ち合わせた。アディダスのマークが、くっきりと見える。真っ芯を捉えた力強いヘディングシュートを叩きつけた。

「これが本山遥だ!」

ゴール直後、ベンチに駆け出し、スタンドに向かって吠えた。スタジアム全体に自分の存在を知らしめるように。感情を爆発させ、鬱憤を吹き飛ばした。自らの手でリベンジを果たした。

主力として、守備の要として手ごたえと充実感を感じながらプレーできている。残すは、逆転でのプレーオフ進出とJ1昇格だ。しかし、叶えられなかった。勝ち続けていくことでしか道が開けない最終盤、チームは尻すぼみに調子を落として勝てなくなった。5失点を喫して力の差を痛感した第37節・ホーム千葉戦のような試合があれば、試合終了間際の失点で勝利を逃した第39節・アウェイ山口戦のような試合もある。ホーム最終戦となる第41節・ホーム秋田戦では、2つのカウンターに沈み、サポーターを笑顔にできなかった。

多種多様な悔しさを感じた。その度に、崩れ落ちた。アウェイ戦では、自分たちのために声を枯らしてくれたサポーターに深い御辞儀で感謝と陳謝の気持ちを表現することを欠かさなかった。最も長く頭を下げ、最後に引き上げていく。その姿からは、実直さを感じた。

本山は責任感が必要な3バックの右で頭角を現し、殻も破った。自分のためだけでなく、応援してくれる人のために戦う。勝利を届けて、喜んでもらう。プロとしての使命感も感じながらプレーした。

責任感に満ちた時、本山は昨季と異なる成長を示した。それでも、目標には届かなかった。来季こそJ1昇格を成し遂げる。そのためには、本山のさらなる成長が欠かせない。

12月11日、契約更新が発表された。本山は来季もファジレッドのユニフォームに身を包んで、J1昇格を目指すことになる。来る2024シーズン、背番号15が副主将の役割を与えられ、試合によっては腕章を巻いてプレーする姿を想像する自分がいる。誠実な本山に期待する自分がいる。彼はきっとそれに応えて、もっと大きく飛躍するのではないか。僕らの想像を上回るほどに―。


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