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明かり差すニュータウンの傍らで#54「オノマトペピアノ」/毎週ショートショートnote
私は、魔法少女の集まりで聞いた「オノマトペピアノ」の話を確かめるべく、後輩の藤本と手を組んで、深夜の七募駅前をパトロールしていた。
「哀愁が漂ってますけど、先輩」
「ああ……気にするな。ちょっと……ね」
私が春からこの街に来なくなるのを、彼女はまだ知らない。
この街で過ごした日々を思うと、哀愁も自然に漂ってくる。
その時、ピアノを積んだ謎の軽トラが、大通りを低速で走る様子を見えた
明かり差すニュータウンの傍らで#51「イカ室たぎった」/毎週ショートショートnote
ある晴れた日のこと。仕事で私が山森と向かった先は、港町・塚都の寿司屋だった。
世間には春の息吹が訪れており、塚都の町には「春祭り」なるフラッグがたくさんお目見えしていた。
「店内全体にフリーWi-Fiを通したい、と」
「ええ。どうにか集客に繋げられたらと…」
店舗の担当者と話を重ねる。こうした努力が我々の仕事に大きく貢献するのである。
「おっと、着信だ。失礼……え?イカ室たぎった…
明かり差すニュータウンの傍らで#50「だんだん高くなるドライブ」/毎週ショートショートnote
「営業車に乗ってるこの時間が好きなんです、『テンションがだんだん高くなるドライブ』って感じで」
「あー、そうなんだ」
頷きながら、私はハンドルを握る。
今日の目的地は県北部の小崎町。
我が支社のインターネットサービス事業は好調で、春からは彼礎本社でも開始されるらしいというが、では私は古巣でもあるその彼礎に戻ったりするのだろうか。
心に占める「彼礎勤務復活への想い」の割合がだんだん高
明かり差すニュータウンの傍らで#48「ダウンロード・ファーストクラス」/毎週ショートカットnote
今日の職場は、県の南部である。私たちのいる七募本社からは随分と離れた場所だ。
助手席で室田先輩が息子さんの自慢話を繰り広げる中、私は車を近くのサービスエリアに停めた。
ご飯を買おうと店に入ろうとした時、私のそばに接客ロボットがやってきた。
風変わりだな、と思ったのも束の間だった。
「ダウンロード・ファーストクラス」
ロボットの至るところから武器が出てきた。
「ファーストクラスモ
明かり差すニュータウンの傍らで#44「ヘルプ商店街」/毎週ショートショートnote
昨日、初めての「連携要請」を受けた。魔法少女の間で行われる方の。
仕事終わり、駅でスマホに対してキーホルダー状につけたブローチがいやに光るものだから確かめてみると、「連携要請」の4文字がスマホの方に飛び込んできた。
いつブローチとスマホが連携したのかと疑わしく思って画面を見ると、「ヘルプが駅前商店街で出ています。すぐ来てください」と一文が、そして現地の地図が。
近くで出られるのはどうや
明かり差すニュータウンの傍らで#43「ピンチ商店街」/毎週ショートショートnote
その日は、会社が協賛する「野木川駅前商店街ミニマラソン大会」のボランティアをしていた。
これも職務の一環らしいので、私はそれに徹する。
「大変です!商店街のピンチです!来てください」
運営事務局の人が血相を変えてやってきたので、私は、嫌々ながらその店に向かった。
「あそこの八百屋で、悲鳴がしてるんです!何とかしてください」
そこでは、店主らしき男が人間サイズの怪獣に襲われていた。
明かり差すニュータウンの傍らで#42「草食系男子にまた教えられたこと」/毎週ショートショートnote
どこにでもある全国展開のファミレスの店内。その中にて、昔の同級生……否、悪魔が私と対峙している。
他の客や店員は逃げ出していた。
「一体どうしてこんな事を……?」
「草食系男子だったお前は俺に身をもって教えてくれた。『毎日、穏やかにしていた方がいつか成功する』と。そして俺はその教えの通りに努力し、闇の魔王アリンス様と契約。力を頂いた」
「……!? 」松橋は知らぬ間に、魔王と契約を交わし
明かり差すニュータウンの傍らで#41「草食系男子に教えられたこと」/毎週ショートショートnote
前回、軽く連絡をとっただけの同級生松橋から「会いたい」と連絡が来た。
「やあ、松橋。久しぶりだけど……随分とイメージが変わったな」
「まあな。そういう岡田もだけど」
4年前の松橋は、もっと派手であった。
自身が載ったチラシを出して「俺はこんなすごい」とアピールして、女子のハートを鷲掴みにする─いわゆる肉食系男子のような─男であった。
それが今や、すっかり大人しくなったのである。まる
明かり差すニュータウンの傍らで#40「草食系男子から学んだ事」/毎週ショートショートnote
「岡田みたいな草食系男子からも、たくさんの事を学んだよ」そんなLINEをくれたのは、同級生の松橋だった。
「草食系男子」。最初にこの言葉を知ったのは、私たちがまだ小学生だった頃の気ががする。
その時はあまり会話に出た記憶がなかったが、中学に入る頃には「お前って草食系な感じしてるよな」と言われた記憶がある。
確か、その頃はすでに新聞部にいた。おそらく、発言者の心の中には「岡田は、いつも新聞
明かり差すニュータウンの傍らで#35「名探偵ボディビルディング」/毎週ショートショートnote
私はとある無人の公園で、魔法を使って怪物を倒した。
帰ろうとした時「ああっ…これは、なんという事か!」と、がっちりした男の声がした。
気になって私が公園に戻ると、一人の名探偵風の男が頭を抱えていた。
「あの……何か、ありましたか!?」町に寄り添う魔法少女として、これは見逃せない。
事情を聞きに行くと、男は砂場を指して言った。
「あの砂場がえぐれていて、しかも濡れている。これは悪質ない
明かり差すニュータウンの傍らで#30「ネコクインテット」/毎週ショートショートnote
今日の朝は、戦うことから始まる。得体の知れない怪物と。
私の新しい日常、だんだん慣れてきた。
今日の怪物は大きなネコ形だ。
よく観察すると、尻尾は途中から二つに分かれている。小学校の頃、図書館の「妖怪図鑑」でみた『猫又』のような感じだ。
もしこれが実際に東洋の妖怪猫又ならば、西洋由来の魔法を用いる私の出る価値は薄いと思う。しかしこのままこの敵が町は破壊するリスクもある。私はそれを防ぐ
明かり差すニュータウンの傍らで#23「騙せ林檎パン」/毎週ショートショートnote
私はその日、仕事のためにとあるベーカリーにいた。
「それで、この部分をクリックしてもらいますと─」
私が説明する横で、後輩で転属間もない北野は緊張していた。すると、店員は我々にパンを差し出してきた。
「まあ、落ち着いて。当店特製の林檎パンですよ」
「北野、俺も後で食べるわ」
「はい!」
北野が食べた途端、彼は豹変し、私に向かってパンを片手に襲いかかってきた。
「フフフ、騙せ林檎パン
明かり差すニュータウンの傍らで#17「大増殖天使のキス」/毎週ショートショートnote
ある雨の朝、私は家の近くで、天使に出会った。本当に。
駅に向かっていると、目の前に天使が現れた。
木こりが池に落とした斧の種類を尋ねようとしている感じで。
天使は問いかけた。「あなたが落としたのは、この財布?それともこの水筒?それともこの定期券?」
前2点には見覚えがなかったが、定期券には私の名が刻まれていた。今確認しても定期券が無いので、私のである。
「この……定期券です」
「ふふっ
明かり差すニュータウンの傍らで#16「失楽園ぼっち」/毎週ショートショートnote
寒い土曜日の事であった。「失楽園ぼっち」とのLINEが来たのは。
送り主は会社の同僚、松田。私と同じく転勤組の一人で、今では仲がいい。タメ口OKなのだ。
謎解きゲームの暗号みたいなLINEに戸惑っていると、すぐに次が来た。
「迎えに来て 迷子になった」
タクシーで向かった失楽園は、山の奥深くにあった。
宮殿並みに広い敷地に和風の建物が点在している。タクシーは入れないので、歩いて松田を