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mini story

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永遠に貴方のものだと嘯く花

永遠に貴方のものだと嘯く花

卒業式が終わって、陽と家に向かっていたら、陽の妹の瑠璃ちゃんが陽の家の前に立っていた。

相変わらず、セーラー服がコスプレみたいで全く似合っていない。

「瑠璃が自分の足で道路に立ってるの久々に見た」

陽は隣で変なことを言っている。

「毎日、通学してるだろ」

「あいつ、よく分からない男に車で送迎させてるから」

相変わらず陽の家族は全員モテすぎて価値観が狂ってしまっている。
いまも陽はブレザ

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君影草は毒を持ち、君を待つ

君影草は毒を持ち、君を待つ

喉が痛すぎて目が覚めた。
体の節々が痛くて、高熱が出ていることを熱さで感じる。

シーツの上に敷いたバスタオルが濡れていて、シャツはぐっしょりと重みも帯びていた。
だるい体を半身だけ起き上がらせて、シャツを脱ぐと重みから解放されて、暑さも少しだけ軽減した。

このまま裸で寝てしまおうか。

そんな考えも僅かに頭をよぎったが、明日は絶対に外せない仕事があるし、と、思い直して力を振り絞って新しいシャツ

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りんご煮は起きてから食べます

りんご煮は起きてから食べます

寝込む私を空さんが看病してくれている。
温かい生姜のスープと、たまごのおかゆが身に染みる。

「うう…、空さんごめんなさい…」

「いや、謝ることじゃないでしょ。
むしろ大丈夫?梅ちゃんが体調崩すなんて、年に一回あるかないかだよね?」

「高校は皆勤賞、仕事も皆勤賞でした…」

「今日も休みの日に熱出してるしね」

体が強いのを取り柄に生きてるから、取り柄がなくなった私はいま、無力どころの騒ぎでは

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本日も、お日柄がよくて。

本日も、お日柄がよくて。

結婚式は“the Big day”なのか、と、披露宴が始まる前に渡された席次表を見て思った。

そして俺は“新郎親友”でも“新郎新婦仲人”でもなく、“新郎友人”なのかよ、とも。

新郎友人代表にガチガチになっている空を遠目で見ながら、俺は既にビール三杯目に突入している。

「本日はお日柄もよく、って、俺も覚えたのによお!
新郎新婦ご着席ください、って言いたかったわ俺も!
そんであそこでギンがバイト

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春雪が、指に触れる

春雪が、指に触れる

竜の言葉を聞いて
私は頭が真っ白になってしまった。

「…かいがい、てんきん…」

「確定って訳じゃないんだけど。
でも、大抵の先輩達がみんな海外から始まってるから、俺もそうなるかも。」

高校一年生の頃から交際している
柏葉竜は昔から、優秀だった。

私たちの高校は、そこそこ頭が良かったけど
その高校で成績は上位5%には必ず入っていたし、
最難関と言われる私立の大学に進学して、
就活も、断るのが

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心の塵は夜のように黒い

心の塵は夜のように黒い

意識を失うように眠りについた波音ちゃんを見て
俺は我に返った。

そこから一気に血の気は引いて、
慌てて彼女の首筋で脈と寝息を確認し、
眠っていることに、安堵する。

俺が昨日、ほぼ無意識のように脱がせた彼女の肌着を拾って隠すように洗濯機に落とし、彼女が自ら脱いだ俺のシャツを首に通すが、彼女は起きなかった。

体を起こし、腕を通しても、彼女は起きなかった。
力の入らない身体が俺に吸い付くように倒れ

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雨上がりの空は眩しすぎた

雨上がりの空は眩しすぎた

やっぱり、そうだよね??

友達から名前を呼ばれたのを聞いて、
私は確信した。

やっぱり、あれって
ギャラスタのカクだよね?

「カク、おっせぇよ!」

「ごめんごめん!
レコーディング長引いちゃってさ。」

声が出そうになるのを必死で堪えながら
私は静かに移動する。

そして隣に座った私に
カクは何も気付いてないようだ。

え、やばい、私、ギャラスタのカクの
隣に座ってるんだけど…⁈

「そー

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宝物箱の底の方

宝物箱の底の方

リビングに、お菓子の缶が置いてあって
食えるかと思って開けてみたら
中にはよく分からない
ボタンやら空のマニキュアやらが
ごちゃごちゃ入っていた。

俺の視線はソファで寝る蘭にうつる。

「蘭。
おい、蘭。これ良いのかよ。」

俺の声に気づく様子もなく
スースー寝息を立てる蘭。

俺はため息をついて
蘭をそのまま放置する。

これ、全部、

フクがプレゼントしたやつだ。

こいつこんなの全部

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才能に満ち溢れる兄

才能に満ち溢れる兄

俺には

才能に満ち溢れてしまった兄がいる。

「陽兄、なんか、
今朝こんな手紙が来てたよ。」

「あー、懸賞だ。
千早に送れって言われてたやつ。

やっぱり当たったな。」

くじ運とか、ツキとか言われる
非科学的な才能に始まって、

学業はもちろんのこと、

運動はなんでもできてしまっていた。

そんな兄を持って大変だろうと
人々は俺を哀れみがちだが
俺はそんなこと思ったことはなく、

むしろ、

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弱い私じゃ、ダメだった

弱い私じゃ、ダメだった

私って、なんでこうなんだろ。

「ちょっとー、またサリーに飲ませたー?
酒弱いんだってばー。」

「いや、そいつが勝手に飲んだんだよ」

「乗せるからでしょー。
サリー押し弱いんだからさー。」

霞む天井。
私の上から降るように聞こえる、男女のやり取り。

はあ、とため息をついた女子が私の肩をゆする。

「さりな?大丈夫?」

「んー…、ん…。」

お酒は嫌いだ。全然飲みたくない。
それなのに、強

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お揃いの瘡蓋

お揃いの瘡蓋

冴島は

たぶん、変な子だ。

俺は今まで
たくさんの女を見てきたが
その中でも冴島は変だ。

「流星先輩ってぶっちゃけ、
何人抱いたんですか。」

淳士のバイト先に行ったら
偶然、冴島がいて

送らなくちゃいけなくなって
そう聞かれた時に思った。

そもそも、こいつと二人きりなんて
なりたくてなるもんじゃないし、

なってしまったことを
激しく後悔した。

「…いや、かぞえきれ、」

「かぞえて

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she look at dustbin while crying

she look at dustbin while crying

俺が彼女の涙を見たのは多分

あれが、最初で最後だ。

「ヒロくん、ちょっとは慰めてよ」

泣き腫らした赤い目をこすりながら
彼女は軽音部の部室の隅で
俺を睨むようにして言った。

「いやいや…。
かれこれ、ここに30分いて、
ずーっと話を聞いてますが。」

「どうして日高くんは
七香ちゃんなのよぉ!」

「…聞いてみたら?」

「いい子だからに決まってるでしょ!」

部活が同じで、
俺が社交的だ

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inevitability love

inevitability love

美波先輩と野上先輩の
校庭ど真ん中キスを見たのは

別に、

俺だけじゃない。

…いや、まぁ、
俺の目の前すぎたけど、でも、

校庭にいたほぼ全員が
体育館にいた奴らも
それを見ていた。

後ろを振り返ると
高山が呆然と立ち尽くしていた。

ーーー

「いつまで落ち込んでだよ」

俺の言葉も聞かずに
水を蛇口から流したまま
流しのタイルをなぞっている。

「…美波せんぱい…」

「いつかはって

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foolishness action

foolishness action

皆川と義旭が付き合ったことで

その日の野球部の部室は
話題持ちきりだった。

「あぁ…。
とうとう皆川の恋が叶ってしまった…。」

「俺たちの明日香ちゃん…。」

「まぁ、あの子変人だから
伊達と付き合っても別にショックはないけどな」

皆川は当時から
高みの見物されるタイプの美女で、
明日香ちゃーん、とか言って
大騒ぎはするものの、

彼女にする勇気のあるやつは、いなかった。

皆川の朝や帰り

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