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mini story 〜2008

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部恋より、昔の話。
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永遠に貴方のものだと嘯く花

永遠に貴方のものだと嘯く花

卒業式が終わって、陽と家に向かっていたら、陽の妹の瑠璃ちゃんが陽の家の前に立っていた。

相変わらず、セーラー服がコスプレみたいで全く似合っていない。

「瑠璃が自分の足で道路に立ってるの久々に見た」

陽は隣で変なことを言っている。

「毎日、通学してるだろ」

「あいつ、よく分からない男に車で送迎させてるから」

相変わらず陽の家族は全員モテすぎて価値観が狂ってしまっている。
いまも陽はブレザ

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foolishness action

foolishness action

皆川と義旭が付き合ったことで

その日の野球部の部室は
話題持ちきりだった。

「あぁ…。
とうとう皆川の恋が叶ってしまった…。」

「俺たちの明日香ちゃん…。」

「まぁ、あの子変人だから
伊達と付き合っても別にショックはないけどな」

皆川は当時から
高みの見物されるタイプの美女で、
明日香ちゃーん、とか言って
大騒ぎはするものの、

彼女にする勇気のあるやつは、いなかった。

皆川の朝や帰り

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一人で勝手に戦闘体制

一人で勝手に戦闘体制

スズは相変わらずアホさを露呈しながら
俺の質問に首を傾げている。

「竹沢せんぱいぃー?」

「こないだの決定戦で三位だった先輩。
さすがにお前も知ってるだろ?」

「知ってるけどさー。
そもそも調理部の先輩じゃなかった?
私よりも大澤のが仲良しでしょ?」

「仲良くないから!敵だから!」

えぇー?とスズは
再びアホさを爆発させながら
面倒臭そうに頬杖をつく。

「竹沢先輩は絶対に
本宮さん狙い

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深読み秘密偵察

深読み秘密偵察

疾風は私のことを見て

さぁー、と小さく首を傾けた。

「義旭が関川のこと好きなんて
聞いたこともないけど。」

「でもめっちゃ仲イイじゃん!」

「いやー…、
まぁ、義旭にしては話してるかな。」

疾風は私の質問攻めに
うんざり半分恐れ半分
といった様子だ。

「つーか、皆川的に
新沢はいいわけ?
生徒会一緒だけど。」

「あの子は他校に彼氏いる。」

義旭くん調査メモ
女性関係編、というページ

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小鳥籠にいる私と彼

小鳥籠にいる私と彼

私の世界は

狭い。

そんなの昔から知ってたし、
今さらそれを批判するほど
労力も不満もないのだけれど、

ただや、私の世界がもう少し広ければ
大希の気持ちを理解できたかもしれない。

あの夜、私たちは確かに

違う世界を見ていた。

「初音、」

「…は?大希?
あんた、こんな所でなにして、」

「一緒にバッティングセンターに行こう。」

大希の帽子は相変わらず深くて
マスクをつけていた。

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暇つぶしに賭け事でもしようか

暇つぶしに賭け事でもしようか

結衣は今日も屋上で

奴がサッカーしているのを
ボーッと眺めている。

「…結衣、お前なかなかのストーカー体質だな。」

「星司先輩もなかなかの
ストーカーじゃないですか。

どうしていつもいつもここにいるんです?

私に会いたいからでしょ?」

なんという自信家。
しかも結衣が言うと、冗談には聞こえないから
結果的にただの嫌味である。

この高飛車な性格と
極端なまでのかわいげのなさは
なんなの

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だけど、体は息をしたがる

だけど、体は息をしたがる

俺が中三の頃。

学年が上がってすぐに
担任に呼び出されて、
父親に殴られた。

迷惑かけるなって、
どんだけ問題起こすんだって、
すげー怒鳴られて。

兄貴は引き止めてくれたんだけど
俺は荷物をまとめて家から飛び出した。

ギンの家に泊めてもらおうと思ったら
そう言えばまだ塾だった。

和泉先輩なら泊めてくれるかなって思ったら
帰ってきてなかった。

当時付き合ってた彼女に連絡しても
その時に限

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ストレートしか投げないのね。

ストレートしか投げないのね。

家に帰りたくない。

私は空を見上げながら
小さくため息をついた。

息は白く吐き出されて
私は楽しくなって
もう一度、吐き出してみる。

家に帰りたくない。

その想いが再び

白い息となって零れる。

白い息を見ると
よかった、私も生きてるんだと
少し安心できた。

「本当に私達の子なのかしら。」

昨晩の、お父さんとお母さんの
声を潜めた会話が蘇る。

「なにバカなこと言ってるんだ。
お前、

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泣き顔なんて卑怯じゃないか

泣き顔なんて卑怯じゃないか

屋上で空を眺めていたら
なにやらガチャガチャと
扉の開く音がした。

なにごとか、と慌ててそちらを見ると

そこには一つ下の後輩の
結衣が立っていた。

結衣とは部活が同じで
でも、別に仲良くはなくて

ただ、その整った外見は
俺達の学年からも評判が良かった。

「…よぉ。」

最初に出た言葉は

それだった。

どう見ても彼女は
切羽詰まっていたし、

チャームポイントみたいな
黒くて長い髪は乱

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君以上はいないと思う気持ち

君以上はいないと思う気持ち

美波は校庭を見ながら

ため息をついている。

「どーした。」

「…べつに。」

その視線の先には

案の定、野上がいた。

俺がニヤリと美波を見ると
バシバシ腕を叩かれる。

「なによーっ!!」

「いってぇなー。
なんも言ってねぇだろ。」

「目が言ってるもんっ」

こいつのこういうとこ、
確かに可愛いなぁとは思う。

女には沢山会ってきたが
あんまり見たことないタイプ。

「好き??」

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だからすぐに廃棄処分した

初めて見たとき??
可愛いなー、って思ったよ。

割とタイプだったし。

その後、一緒にいる時間が長くなって
俺だってまだ14とかだしさ。

そりゃあ、意識するって。

「梶先輩っ!!こんにちはっ!!」

「あ、蘭ちゃん。」

「今日も秀と遊ぶんですかー??」

学校帰り、一緒になることも少なくなかった。

というか俺は当時、
蘭ちゃんの兄の秀ちゃんと遊んでたから
なんなら米倉家まで一緒だった。

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I play waltz for me

I play waltz for me

初めて出会ったのは高校二年の時。

私は芸術クラスで
大希は芸能クラス。

なんか、そういう高校だった。

当時から大希はすごく人気で。

校門を通るのが
奴のせいですごい大変で。

私のクラスの子達はみんな
かなり迷惑していた。

けど、私はあの

キャーキャーって声が

割と好きで。

確かに高音で聞き苦しい時もあるけど

温かさの残るような、

黄色い歓声っていうか、
オレンジみたいな、あの

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ひたすらあの日の夜を探している

ひたすらあの日の夜を探している

こうじゃない。

偶然、街で会った男に抱かれながら

心の中でそう呟いた。

先輩の手はもっと、

冷たくて。

先輩の目は

もっと暗いの。

「どーだった??」

情事後、笑いながら
私の髪を触る男。

「…なにが??」

「なんかないの??

後悔とか、満足とか。」

別にない。

やっぱり先輩は
帰ってこないんだなって、

ただ、それだけ。

「…気持ち良かったって
言えば良いんですか??

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夜が明けたって俺は変われない

夜が明けたって俺は変われない

弱いよりは強い方が良いけど、

強すぎるよりは弱い方が良い。

目の前で倒れた男を見た時に

素直にそう思った。

何も手に入らないよりは

何か掴める方が良いけど

何もかも壊すよりは

何も持てない方がマシだ。

「ひかる、

もう、良いって。」

掠れた声で
誰かが俺を止める。

誰かの手が俺の腕を掴む。

恐る恐る、

掴む。

「離せよ。」

「もう…、やめろよ…。
意識、飛んでるじゃん

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