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書評シリーズ

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自作の書評記事のみ集めました。ビジネス、思想。
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記事一覧

『話が通じない相手と話をする方法』会話/の/哲学

『話が通じない相手と話をする方法』会話/の/哲学

面白い。

本書では、会話の方法論を難易度別に紹介しています。一番難しいのはイデオローグとの会話です。

イデオローグ。それは、なんというかゲームの裏ボスのような存在です。

『話が通じない相手と話をする方法』著者は、ピーター・ボゴジアン+ジェームズ・リンゼイです。

後半部分の7章から考えます。人間の心理は、信念によって揺るがない。この原因は、ほとんど価値観によっている。

価値観は道徳的な面で

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『〈私〉を取り戻す哲学』フッサールからガブリエル

私とは何か。

岩内章太郎さんのこの本では、フッサールの現象学を起点として現代思想を再構築するきっかけについて考えています。

現象学的還元。フッサールの基本戦略は主観(私)と客観(あなた、世界など)の図式を解説する事にあります。

主観があって客観がある。目から矢印が出て、リンゴに向かう。

・フッサールの古い哲学

近代哲学は、この矢印を逆にして、カントの超越論的な哲学になって、例えば理性で説

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カントより普通に、ラッセルが好き『言語哲学が始まる』野矢茂樹

ヒット御礼。

言語と論理学。このあたりは、勉強したいけど、難解な思想家について『言語哲学大全』飯田も第二巻は購入しただけど、一気読みは無理よ、です。

哲学者の死は、論破されることでは無く、忘却である。(過去の思想家は参照されていく訳です。ラッセルさん)

本書では、著者の本領発揮を、論理からウィトゲンシュタインで、それに先立つフレーゲからラッセルを、正確な記述で構成されてます。

論理学の哲学

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サンプリングの『中世哲学入門』で現代思想入門を

サンプリングの『中世哲学入門』で現代思想入門を

けっこう難しい入門書。山内志朗氏のこの作品は、『現代思想入門』と関連して読めば解るのかもしれない。

そう思いました。索引によると、ドゥルーズが11回(フーコーはおまけとして4回)登場しているが、それだけではない。

テーマの存在論が、やはりハイデッガー以降の哲学と、それに先行するフッサールを思弁的実在論(ここではハーマン)で考える現代人の思考パターンが前提だと感じるからです。

哲学史として、私

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『マルクス・ガブリエルの哲学』人新世の現代思想入門

『マルクス・ガブリエルの哲学』人新世の現代思想入門

確かにガブリエルのブームは落ち着いたように思う。

ドイツっぽさが、私たちに合うのかどうか。そういう問題はありそうです。

これはフランスらしさの受容と同じで、現代思想の感性ではないでしょうか。

『マルクス・ガブリエルの哲学』菅原潤を扱います。この本は、ガブリエルの本当の姿を垣間見えるような体験でした。

第一部では、本書を読んでいきます。本当に難しいです。

続く第二部では、本書を離れてガブリ

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悪の『スピノザ』國分功一郎

悪の『スピノザ』國分功一郎

岩波新書とは、荘厳な文体とカテゴリーとして一般教養を、入門・発展の2タイプで表現する。

なぜ、あまりにも難しい「発展」なのか。このスピノザは。

ここでは悪を語ります。

これって、この本に無い部分に注目することです。

・書かれていること

・書かれていないこと

ここに注目すると、スピノザはアーレント論になります。

2500文字。長め。

アーレント研究会

國分功一郎のアーレントは、スピ

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ゼロ年代の現代思想入門『脳がわかれば心がわかるか』山本+吉川

ゼロ年代の現代思想入門『脳がわかれば心がわかるか』山本+吉川

YouTube「哲学の劇場」の山本貴光さん、吉川浩満さんの本です。

心の哲学の解説書として、わかりやすさに圧倒されたのでシェアをしたい。こういうの探してたんです。

ゼロ年代に発売して、2016年に増補版が発表されたこの本。それは2023年までの哲学思想をまとめるような内容でした。

この本の構成は、まず心の哲学(20世紀的)を定義して、それをカント(18世紀)の二律背反でまとめて、それを基にし

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『論文の書き方』小熊英二

『論文の書き方』小熊英二

学問とは何か。

社会学は、近代(モダン)を理解した上で、アリストテレス以降の思想を自在にアレンジできるような教養が必要です。

学術論文では、自分の考え方を、思いの丈を伝えたい。これは、プレゼンや日常生活で役に立ちます。

本書は、それをわかりやすく教えてくれて、更に誤解が生じないようにQ&Aをつけてくれています。

教育の現場では、これぐらいフォローしないと成立しないのかもしれません。

方法

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人新世の「資本論」をよむ

人新世の「資本論」をよむ

『ジブリの本棚』という映像作品があります。これは宮崎駿監督が岩波児童文庫の解説を行うものです。

この中でインタビューパートが印象的でした。

インタビュアーは『聞く力』の阿川佐和子さん。質問は読みたい本は何ですかという簡単なものだが、はぐらかし答えない。

三度問い詰められ、しぶしぶ答える監督。

「資本論。」

聞く力の勝利である。

資本論の壁宮崎監督は、どうやら資本論に挫折した経験があるよ

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宇野重規『西洋政治思想史』を読んで

宇野重規『西洋政治思想史』を読んで

危機の時代には、自由は制限され、国家権力に従わなければならない。でも、それは一時的なものだ。

マルクス・ガブリエルがこう言ったのは、哲学者の言葉というよりも、民主主義の当たり前を表現した言葉に思われます。

ですから、政治的なものは、政府と市民の信頼関係が重要ではないでしょうか。

この本の作者宇野重規氏は、東大教授で、博覧強記の持ち主です。古代の政治思想から現代までの歴史をたったひとりで書いて

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クズの社会学 宮台真司他『音楽が聴けなくなる日』

クズの社会学 宮台真司他『音楽が聴けなくなる日』

家で過ごすひととき、音楽を楽しもうとしたら、無音。

配信が停止されて聞くことが出来ない。

世の中には、いろいろな自粛があります。この本のテーマは、音楽を含むアートの自粛です。

まずは、クズの定義から始めます。(約2700文字)

始めに:クズを定義するまず注意するべきなのは、「クズ」という用語の一般的な意味との区別です。哲学や思想用語と同様、専門用語と捉えて下さい。

日本の現状として、社会

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